伊勢丹・三越の経営統合、マルイ参入で銀座が変わる保田隆明の時事日想

» 2007年08月30日 09時25分 公開
[保田隆明,Business Media 誠]

 8月23日、三越と伊勢丹の経営統合が正式に発表された。当初は実現を疑問視する声も多かったが、その予想に反して案件実現までこぎつけたことになる。今後は伊勢丹のノウハウを三越に注入することで、三越の再生を図るという構図になるようだ。中でも目玉は三越の銀座店のリニューアルである。

三越銀座店が建つ、銀座4丁目交差点

銀座はダサい街からオシャレ&高級な街へ

 かつて日本を代表する高級ショッピングエリアだった銀座が、オバサンたちのための野暮ったいショッピングゾーンに成り下がり、「銀座=ダサい」という印象になっていたのはいつ頃のことだっただろうか。しかしここ数年、海外の高級ブランドショップが相次いで銀座に路面店を出したことにより、銀座はオバサン向けのダサい街から、ファッション感度の高い20代、30代も魅力的と思える高級なショッピング街に様変わりしたのである。

 この流れに乗って、若者向けファッションの代表格である丸井が10月に銀座(有楽町)に出店することになっている。また、9月1日にはマロニエゲートという新たなショッピングビルが銀座プランタンの隣に登場する。マロニエゲートの30強のテナントのうち、半分以上は銀座へ初進出するアパレルショップだ。両方ともターゲットは20代、30代。高級ブランドショップの進出によって開拓された、銀座の新しい顧客層を狙う。

 今や銀座は、従来得意としていた年齢層が高い人たちだけではなく、20代、30代もがこぞって買い物に訪れる場所に変化してきているのだ。そんな流れを受けての三越銀座店のリニューアル。伊勢丹が得意とする若い客層が銀座で増えているというのは、三越の再生というミッションにとっては強い追い風である。

 とはいえ、三越銀座店のターゲットを完全に伊勢丹が得意な若者に絞り込んでしまうと、既存顧客である年齢層の高い消費者が離反する恐れがあるため、大胆な路線変更は難しいだろう。しかし海外ブランドショップや丸井の進出がもしなかったら、それでも伊勢丹は三越と経営統合の道を選んだだろうか? と考えをめぐらせたりする。

伊勢丹の株価は下落基調

 伊勢丹の業績を見ると、旗艦店である新宿店が収益の大半を占めており、新宿店の好不調が企業収益に如実に反映される構造になっている。株式市場から見ると、新宿店の収益予想さえ見極めることができれば株価の行方が予想しやすい伊勢丹は、投資しやすい対象であった。

 しかし三越と経営統合をすることで、現在に比べ、収益予想が立てづらくなる。今まで伊勢丹株への投資は、伊勢丹新宿店への投資と等しかった。しかし今後はたくさんの店舗を抱える小売企業への投資となり、判断を付けにくくなる。それが、伊勢丹の株価が下落している1つの要因でもある。

新宿店依存型を脱却する伊勢丹

 2008年に副都心線(地下鉄13号線、参照リンク)が開通し、店に直結する新宿三丁目駅ができるものの、それが終わると伊勢丹新宿店の勢いを加速させるような目玉イベントは存在しない。残される策としては、新宿店を立て替えて高層ビル化させるぐらいしか思いつかない。

 そういう状況ゆえに伊勢丹は、新宿店以外にも収益の牽引役を作るための投資を今の段階で行っておく必要がある。それが、三越との経営統合(実質的な買収)ということなのだろう。そうなると、三越銀座店をいかにうまく再生できるかは伊勢丹にとってもやはり最重要課題になる。伊勢丹が本気で銀座に取り組めば取り組むほど、銀座の小売競争は激しさを増す。個人の消費意欲が盛り上がってこないことには、各社は投資を回収できない可能性がある。景気回復がいずれ消費意欲の高まりに結びつくであろうという前提が崩れてくると、銀座の小売業の競争激化は、誰も勝者を生み出さない悲惨な結果に終わる可能性もある。

 新規出店、リニューアルと活況を呈する銀座小売業界。誰が勝者で誰が敗者か、数年後にははっきりしてくることだろう。

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