続・TSUTAYAとGEO、レンタルショップ対決――注力するのはハードかソフトか山口揚平の時事日想

» 2007年08月28日 09時49分 公開
[山口揚平Business Media 誠]

著者プロフィール:山口揚平

トーマツコンサルティング、アーサーアンダーセン、デロイトトーマツコンサルティング等を経て、現在ブルーマーリンパートナーズ代表取締役。M&Aコンサルタントとして多数の大型買収案件に参画する中で、外資系ファンドの投資手法や財務の本質を学ぶ。現在は、上場企業のIRコンサルティングを手がけるほか、個人投資家向けの投資教育グループ「シェアーズ」を運営している。著書に「なぜか日本人が知らなかった新しい株の本」など。


 前回はGEOとTSUTAYAの違いを財務面から分析しその違いを明らかにした。今回はビジネスの面から両者の違いを分析をしてみたいと思う。

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レンタル事業のビジネスシステムとは?

 ここではTSUTAYAとGEOを、「ビジネスシステム分析」という手法で分析してみたい。

 ビジネスシステム分析とは、事業の流れを機能ごとに分解して、それぞれの機能がどのような状態に なっているのかを把握する方法である。機能毎の弱点や強みを把握することで、事業の問題を発見したり、戦略立案に生かすときに有効なやり方だ。

 レンタル事業のビジネスシステムは、まずお金を調達する「財務戦略」、次いで、店舗を開発する「店舗展開」、その後は、「運営管理」「販売・マーケティング」「顧客管理」とつながってゆく。ではこのビジネスシステムごとにGEO・TSUTAYAの状況を把握してみよう。

 最初の機能である「財務戦略」については、GEOが借り入れをメインに資金を調達している のに対し、TSUTAYAは株主からのお金、つまり増資を主体にお金を調達していることが分かっている。

 次の「店舗展開」については、前回も出てきたように、GEOは直営店主体で地方店舗のM&Aを繰り返して店舗数を拡大してきたことが分かっている。一方のTSUTAYAは、フランチャイズを中心に自社店舗も賃貸が中心である。

 店舗の「運営管理」については、TSUTAYAが一枚上手のようだ。早くから商品POSシステムを導入し、フランチャイズ店を効率的に管理してきた。GEOの方は、店舗買収によって拡大してきた過去から、運営はそれぞれの店舗が主体となっているが、近年はTSUTAYAと同様の商品管理システムを導入し効率化を図りつつある。

 では、マーケティングや販売戦略はどうだろうか?

 TSUTAYAは、店舗別に、オススメ商品を紹介するなど、レコメンド(紹介)機能を強化するとともに、 Tポイントシステムを中心に、30社以上とアライアンスを組んでいる。GEOの方は、レンタル/新品/中古品を取り揃える「マルチサプライ」複合ショップを展開している 。またGEOはスケールメリットを武器に安く消費者に提供することを戦略の中心に置いている。

 最後の顧客マネジメントについては、TSUTAYAはポイントシステム「Tポイント」を中心に、ネット会員も含め、顧客基盤の拡大に力を入れている。一方、GEOのオンラインの会員数は、TSUTAYAの10分の1に満たないことが分かっている。

GEOとTSUTAYAのビジネスシステム分析。GEOはハード(箱モノ)勝負、TSUTATAはソフト勝負という傾向が分かる

 このように見てみると、両社の大きなビジネス展開の違いに気づかないだろうか? 実は、ビジネスシステムの機能で言えば、左側、つまり店舗展開などに強く、TSUTAYAは、右側、つまり販売・マーケティングや顧客管理を強みにしているのである。より具体的にいうならば、GEOのビジネスの強みは不動産業であり、地方の零細店舗の買収で出店コストを抑えオペレーションを標準化して収益を拡大してきたのである。

 一方のTSUTAYAは会員の獲得が企業価値の基盤であると考えて、お金のかかる直営展開ではなく首都圏び一等地に出店し自らのブランド価値を高めFCを促進、Tポイントで他企業を巻き込み会員数を増やしてきたというわけだ。

 不動産業と顧客マネジメント。両社は、同じレンタル事業を行っているように見えて、その実、中身はまったく異なる方向を向いているのだ。

 GEOにとっては、店舗や不動産を多く抱えることが競争力につながっている。しかし、TSUTAYAにとっては店舗自身はそれほどの意味を持たない。TSUTAYAにとって重要なのは「顧客」であり、それはネットでもぜんぜんかまわない。だから、自社での出店は、渋谷駅前の旗艦店など自らのブランドを高めるためのものにとどめ、あとはフランチャイズで顧客にリーチしようというのだ。

 これで、GEOとTSUTAYAの違いの背景がつながっただろうか? それぞれの戦略の違いがビジネスシステムや財務諸表に明確に現れており、両社はそれぞれ、一貫した方針を持っているということがわかるのだ。

財務分析とビジネス分析の関係

 今週のコラムの最後に、財務分析とビジネスシステム分析の関係をまとめておこう。下の図を御覧いただきたい。

ある学習塾の財務分析とビジネスシステム分析の関係(クリックすると全体を表示)

 これはビジネスシステムのそれぞれの機能とその実態が財務の結果としてどのような指標に表されるのかをあらわしたものである。○が付いている部分が関係があるところである。

 この図は、ある学習塾の財務分析とビジネスシステムを表したものだが、ビジネスシステムは、左側に行くほどB/S(貸借対照表)との関係が深く、右に行くほどP/L(損益計算書)との関係が強くなっている。

 この学習塾の場合、フランチャイズのマネジメントや教材・講師調達の効率化によって運転資本回転率が向上していることと、売上の増加が財務の結果に大きな影響を与えていることが分かる。

 そうすると、この会社の強みは、設備投資などではなく、運転資本のマネジメントにあるということがわかる。

 前回のコラムでも書いたように、財務分析とは数値をこねくり回すことではない。その原因であるビジネスの状態を探るためのものである。我々は、目に見える現象面に目を奪われがちだが外から見える各々の現象はそれぞれが独立して存在しているわけではない。すべては裏側で有機的に結びついている。そのリンクの全容が明らかになった時点でようやく企業を理解したといえるのだと思う。

 ちなみにここまでの情報は、すべて財務諸表やWebサイトに掲載されているプレスリリース資料のみで行ったものであり、入手できる情報は、一般に公開されているものである(財務分析については、バリューマトリクスを活用した。ぜひ皆さんもご利用いただきたい)

 公開されているオフィシャルな情報だけでも、さまざまなことが分かる。読者の皆さんも、企業を動かしている決定的な要因、メカニズムを突き止めてみたらどうだろう? すべての現象が1つにつながったとき、企業分析がとても面白く感じるはずである。

 次回はいよいよGEOとTSUTAYAの最終回。両者がどのような方向に発展してゆくのか、予測していきたいと思う。請う、ご期待。

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