インタビュー
» 2007年08月23日 09時55分 UPDATE

EC最前線インタビュー: カタログ通販大手で、順調にEC事業を立ち上げられた理由――ニッセン・高芝康二氏

書店などで配布されている無料カタログでおなじみのニッセンは、ECで年間407億円、携帯経由でも81億円を売り上げる“優良ECサイト”の顔も持つ。カタログ通販大手の同社が順調にEC事業を伸ばせた裏には、ある理由があった。

[吉田卓司,Business Media 誠]

 “インターネットでモノを売る”ECサイト。注目のECサイトを運営する会社に、現場の目線で「ECの今」を語ってもらう本連載。第3回目に登場するのは、無料カタログでおなじみのニッセンが展開する通販サイト「ニッセンオンライン」である。

ay_nissen01.jpg ニッセンオンライン

 大手総合通販企業のニッセンは、女性向けアパレルを中心に家具や家電など常時4000アイテム以上をカタログ販売している会社で、京都市に本拠地を構えている。年間1000万部発行する無料カタログを、書店やコンビニで見かけたことのある方も多いのではないだろうか。

 「カタログ通販」のイメージが強い同社だが、実は2000年と早い時期にECに着手している。経験ゼロからのスタートだったが、既存事業のしがらみにとらわれることなく、リアル通信販売からECへの誘導を積極的に進め、成功しているEC優良企業である。2006年度実績を見ると、EC売上407億円、このうちモバイル(携帯経由)の売上が81億円にまで達している。

 ニッセンのケースで特筆すべきは、既存のカタログ顧客をECに転換したわけではなく、ネット経由の新規顧客を獲得し、顧客を着実に増やしている点にある。今やネット経由の新規顧客はカタログ経由の新規顧客を上回り、全体の60%を超えている。

 既存のカタログ事業に依存せず、ネットビジネスとしても成功できた理由とは?――連載3回目となる今回は、ニッセンインターネット事業推進部部長の高芝康二(たかしばこうじ)氏と対談、ニッセンのEC成功の秘密を聞いていく。

EC導入のきっかけは「コストダウンのため」

ay_nissen03.jpg ニッセンインターネット事業推進部部長の高芝康二氏

吉田 ニッセンは同業他社と比べ、ECへの本格参入が早かったように思うのですが、いかがでしょうか?

高芝 1999年の夏、秋くらいに社内でインターネットを本格的に活用しようという話がスタートしました。ちょうど女性にPCが普及しだした時期です。そこでカタログ通販のニッセンがPCを使ってどう効果が出せるかを考えたとき、電話やハガキで受けていた注文をネットに変えるとコストが削減でき、最も利益性が高いということが分かりました。

 注文を電話で受けるには、電話回線を引かなくてはいけないし、フリーダイヤルなら通話料も必要です。1人のお客様には1人(のオペレーターが)付くのでその人件費、コールセンターを作るにはスペースも必要……カタログ通販というのは、注文を受ける部分で何かとコストがかかるんです。

 そこで、インターネットへ注文チャネルの切り替えを進め、コスト削減を狙いました。2000年から2002年ごろにかけて、あらゆる自社媒体に(ニッセンオンラインの)URLや(ネットで注文する)メリットを告知して、インターネットを使ってもらう環境づくりを行っていました。

吉田 理論としては分かります。ただ、新規にECを立ち上げることになって、それまで既存のカタログ通販を行っていた部署からの反発はなかったのでしょうか?

高芝 そういうことが起きないよう、ネットで売れてもカタログで売れてもチャネルの違いとして処理することにして、売上はすべて商品部隊に付くようにしました。また人事評価のために、みなし売上基準を計算する仕組みも作ったので、特に大きな問題はありませんでした。

吉田 なるほど。新しくEC事業を立ち上げようとすると、既存のビジネスをしている部署やしがらみの反発が大きく、なかなかEC事業を進めることができない……という事例をよく見かけるのです。しかし本気でECで取り組むのであれば、当然、全社の人事制度から見直す必要がある、ということですね。

カタログよりECのほうが売れるものとは?

ay_nissen02.jpg ニッセンオンラインの「スマイルランド」コーナー。“大きいサイズ”を扱っている

吉田 現在ニッセンさんのサイトではどんなものが売れているのですか?

高芝 カタログでもネットでも変わらず売れるのは下着ですね。低価格だから買いやすいのです。(カタログより)ネットで特に売れる、ECの特徴が出ている商品としては“大きいサイズ”のアパレルものや、子供服などがあります。ただしこれは“意外”というよりは“売れるべくして”売れたんです。

吉田 売れるべくして売れた、とはどういうことでしょう?

高芝 私たちは1000万部のカタログを印刷する前に必ず、テスト用のカタログを作って20万人程度に送り、あらかじめテスト販売をするのです。そこでどの商品がどれくらい売れるかを計測して、需要予測をした上で販売します。インターネットでも同様にテストを行って予測していたため“大きいサイズ”が売れたのは特に意外ではなかったのです。

吉田 確かに、テスト販売は通信販売の売切れや在庫による機会ロスを減らす最も優良な打ち手ですね。商品の梱包や物流のリスクなども含めて、様々な準備が可能になりますし。

高芝 逆に、インターネットでテストをして、その結果をカタログに反映させるということもするようになりました。テストによる商品別予測は結構正確で、よっぽど無茶をしない限り、そうそう外れないものなんですよ。

吉田 ネットとカタログで、ユーザーが多い世代は違うのでしょうか。

高芝 30代前半くらいがネットのピーク、30代後半くらいがカタログのピークです。40〜50代のお客様だと、カタログの方が多くてネットは少ないです。ネット利用は20%くらいしかいないんですが、逆に20代だと、ネット利用が半数以上になります。

メール広告が効く使い方とは?

吉田 ニッセンでECの売上が上がった主な理由は何でしょう?

高芝 ニッセンではいち早く、カタログ注文のお客様に注文方法をインターネットに変えていただけるようにお勧めしてきました。やがてお客様が自分のホームページ、今ではブログなどで紹介してくれるようになりました。これが今でいうSEO効果※があって、検索エンジンで上位に掲載されるようになりました。そうなると、カタログ経由以外の純粋な新規の顧客が取れるようになり、商品を掲載すればするほど売上が上がるようになりました。数年前からはアフィリエイトサービスが登場し、現在は多くのユーザーがアフィリエイトでニッセンを紹介してくれています。

※SEO……Search Engine Optimizationの略。検索エンジンの検索結果ページで、自分のサイトが上位に来るように工夫すること。

吉田 そのほかサイトの集客に効果のある工夫があれば教えてください。

高芝 一般的ではありますが、SEM※、SEO、アフィリエイト、あとはメールのコミュニケーションですね。やはりメール販促は効果がいいと思います。

※SEM……Search Engine Marketingの略。検索エンジンを広告媒体として上手く活用し、検索エンジンから自社サイトへのアクセスを増やそうというマーケティング手法の総称。個別には、SEOやキーワード広告など、検索エンジンに関連するさまざまな手法がある。

吉田 最近、(他のECサイトも含めて)メール回帰の動きがありますよね?

高芝 そうですね。ただ、まだスパムメールも多いですし、一人当たりが取っているメールの量はたぶん今後も増えていくはずです。その中で、今後もさらに効果を上げていくにはどうするか、それが課題ですね。

吉田 メールを書くのに何か工夫をされていますか?

高芝 その商品についての知識をどれだけ伝えられるかが勝負というジャンルもあるのでしょうけど、アパレルの場合、実はそれほど書くことはないんです。アパレルで大事なのは、商品のデザインと、あとシーズンイベント、ライフイベントを絡ませるような企画性だと思います。たとえば、入学式や卒業式の時期だからスーツをお勧めする、といったことですね。こうした企画に合わせたメール配信は大事だと思います。

吉田 なるほど、ちょうどいいタイミングでこうしたイベントに必要な商品を提案していくわけですね。こうしたメールのコンテンツでは、何が一番人気があるのですか?

高芝 メール効果が最大になるのはバーゲンですね。バーゲン商品のページは、滞在時間も長いですし、クリックレートも(一般商品とは)全然違います。しかもバーゲン商品がトリガーになって結果的にそれ以外の商品も売れるので、お店としてはとても効果があります。

ay_nissen04.jpg

仮説を立て、データを計測する大切さ

吉田 ところで、いわゆるWeb 2.0、CGMについてはどのように考えていらっしゃいますか?

高芝 2.0といっても手段ですよね。手段が全ての企業にとってお金になるか? といわれても、正直分からない。でもニッセンでは、コミュニティーに参加していただくと、顧客1人あたりの売上高が上がるということはデータ分析の結果、確認しています。

吉田 世の中「CGMはお金にならない」と言われていますが、ニッセンでは違うんですね。(CGMで)何となく売上が上がった、という話はありますが、データで実証されたEC成功事例は初めて聞きました。

高芝 一般的には「ECのコミュニティーってどやねん?」と言われていますよね。でも我々は効果をきちんとデータ計測し、改善を続けています。その上でもっと、お客さんの力を借りて、大きく展開していきたいと思っています。

吉田 “その上”の施策で、具体的に何か決まっていることがあれば教えてください。

高芝 この9月より、遅ればせながら商品についてのお客様のコメントを掲載していきます。ポジティブなものはもちろん、ネガティブなものも全部載せます。基本的なことですが。

 今、ニッセンオンラインにはたくさんのお客様が訪れているのに、そう見えないんですよね。店舗が“賑わっている感じ”“流行っている感じ”を出すには(すべての声を載せることが)必要だと思うんです。

吉田 高芝さんがECで最も大事だと思うポイントは何ですか?

高芝 お客さんの立場に立つことですね。ECに限らずですが。「お客さんのために」というのと、「お客さんの立場にたって」というのは全然違います。あとは個人の感覚に頼らずデータできちんと改善していくこと。お客様の視点で考え、そしてそれに気づく、大事なのはその姿勢そのものだと思います。

吉田 おっしゃるとおり、一意見にとらわれず、データに基づいて改善していくことは非常に大事だと思います。大変参考になりました。どうもありがとうございました。

筆者より一言……データ計測と、結果に基づく改善策の大切さ

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 いかがでしたか? EC優良企業ならではの経験談が聞けたのではないでしょうか。ECへの参入、商品の需要予測、コミュニティーの運営と、いずれもきちんと仮説を立て、定量的なデータを計測し、それに基づいて改善していく「ニッセンの強さ」が見えるお話だったと思います。

 ECではリアルの店舗のようにお客様の動きが見えないため、よく分からずに直感的な活動をしがちです。しかし、きちんと1つ1つデータを取得し、改善していくことこそ、地道ですがECの売上を上げる、最大の秘訣だと思います。高額なログ解析ソフトやデータ分析ソフトを使わずとも、やれることはたくさんあります。ぜひチャレンジしてみてください。

吉田卓司:2000年にオイシックスを創業。代表取締役副社長として感動食品専門スーパー「Oisix(おいしっくす)」を日本でもトップクラスの食品ECサイトに育てた。現在はECコンサルティングを行っている。2007年7月、Oisixでの7年間のEC実業で培ったノウハウをもとに、企業向けに最適なECソリューションを提供する会社「オイシックスECソリューションズ」を設立した(7月27日の記事参照)


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