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» 2007年08月07日 13時38分 UPDATE

山口洋平の時事日想:なぜ損は大きく、利益は小さくなるのか――株式投資を続けるための2つの判断軸

株価の動きを読むのは難しいし、短期の売買で利益を上げるのはもっと難しい。誠の読者に山口氏が薦める、“恋愛結婚型”でリスクを減らす株の選び方とは?

[山口揚平,Business Media 誠]

 株式投資のブームが来て、そして去った。生半可な投資家は、「株なんてだめだ。所詮、ギャンブルだ」と言い、次々と消えていった。今までも繰り返されてきたし、今後もそうだろう。そう、いつの時代も株式投資にはギャンブル的な側面があるからだ。

 だがその認識のままでは、日本で真に健全な資本主義は育たない。日本人は、ことお金に関しては、いつもお上に任せっきりだ。過去50年間、お金の問題はすべて大蔵省(現金融庁)と都市銀行、郵貯に任せてきた。直接金融の時代がやってきたというのに、資産運用に関しても“投資信託を買っていればいい”という発想である。

 私たちは、直接、企業に触れ合わず、第三者機関(証券会社など)を通じて、投資信託という“お見合い”結婚をするのが関の山だ。だが誠世代には、私はあえて“恋愛結婚”を薦める。好きか嫌いかに関わらず、誠世代にとって投資は一生のテーマとなるだろう。誰かが選んだ相手と盲目的に結婚するのではなく、自らの目でしっかりその内面を見極めてほしいのだ。

初めての投資、最初にすべきこととは?

 こう言われて「じゃあ、自ら投資をしてみよう」という気になったとしても、知識がない中で始めようとすれば手探りになってしまう。おそらく多くの人は、「株価のチャートを見て上がりそうな株を買う」という行動を取るだろう。実際、日本の投資家の90%は3カ月以内に株を売買するといわれる。

 しかし、短期の株価を予想することはきわめて困難だ。株価を動かす変数はそれこそいくらでもあるわけで、複雑に絡みあうそれらの要素を読み切るのは難しい。世界各国の市場は複雑に関連し合っているから、企業業績に関係なく、ニューヨーク市場に連動して株価が乱高下することもある。

 短期に株を運用して儲かったとしても、株価の動きの根拠を読むことができないのであれば、前号でも書いたように「運」に過ぎず、再現性はない(7月31日の記事参照)。再現性がないことを主張しても、次もうまくいく可能性は低い。

 そこで、私が薦める投資の手法は、次の2つの視点で投資判断をすることだ。1つは、「その企業の価値に対して株価は割安か?」という経済合理性の軸と、もう1つは「その企業を理解し、自分自身が “共感”できるか」という自分の価値観の軸である。一言でいえば「好きなものを安く買え」ということだ。スーパーで野菜を買う主婦がいつもやっていることと同じだが、いつも100円のニンジンが50円になるのとは違い、株の場合は何が安いのかがまず分からない。

ay_kabu01.gif 投資のための2つの判断軸

 企業が割安かどうかについては、前回本コラムで英会話のGABAを例に分析したように、ディスカウンテッド・キャッシュフロー法を用いて分析するとよい(7月31日の記事参照)。しかし、ともかく手っ取り早く企業の価値が知りたい、という場合には、企業価値評価システムや証券会社のスクリーニング(検索)システムを使うのも1つの手だ(参照リンク)

投資で大切なのは“共感”

 より大事なことは、もう1つの軸、すなわちその企業を理解し共感できるか?という点に着目するということだ。

 クルマや家を買うときのことを考えてみてほしい。もちろん転売時の価格や引取り価格を気にすることもあるだろうが、一番肝心なのは“クルマや家、それ自体をどう楽しむか”ということだろう。株を買うのだって同じはずだ。ただ転売するために株を買うのではむなしい。持っていることが誇りになる企業の株を、じっくり保有すべきだと思う。

 また実は、共感できる株に投資することには、経済合理性もある。それは“感情のコスト”が低いということだ。

損が大きく、利益は小さくなりがちな理由

 我々が投資で損失を生じるのは、実は「銘柄を見抜く力」ではなく、「銘柄に対する感情」が原因になっている。

 買った株の株価が低下すると人は不安になる。この不安が極限まで高まり、苦痛の限界を迎えると人は株を売却する。そのため売却時点は買値よりも大幅に下がった時点となる。つまり人は、損失を限定する、という経済的使命よりも、苦痛という感情から開放されるために株を売却するのである。

 一方、買った株が買値よりも上がったとしても、同じように感情のコストが利益を減らす。なぜかというと人は、買値よりも株価が上がれば、「買った」という快楽を得るが、同時に、その勝利感を失いたくないという不安を持つからだ。そのため、買値よりもわずかに高い水準の株価で株を売却して利益を確定する傾向が強い。

 これを繰り返していけば、おのずと「損は大きく、利益は小さく」となるのは当然のことである。これは「行動ファイナンス」という分野の基本概念だが、株価だけを見ていくとこのようなミス判断を犯すのが人間というものである。

 このような感情のコストから逃れるには、感情を軸に投資判断をしないのが一番良いが、それはさすがに難しい。従って、投資に“良い感情を伴わせること”が現実的な方法となる。

 実際、過去の統計が物語っているように、短期で売買を繰り返す男性よりも、好きな株を決めて買い、取引を頻繁に行わない女性のほうが長期のリターンが高くなる傾向がある。

山口式“株の選び方”

 私自身は株を買うときには、感情的理由と経済的理由をちょうど半分ずつくらい持っているぐらいがちょうどいいと考えている。人が薦める株を買わない理由は、「儲かると分かっているなら、自分で購入したらどうか?」という素朴な疑問と、さらに本質的な理由としては“それが自分にとってベストかどうか分からないから”だ。最後は、その企業に自分が共感できるかどうかで決める。

 企業に共感できるかどうかを判断するには、その企業のことをより深く理解する必要がある。そのためにはWebサイトを丹念に読み、その会社の製品を実際に試し、経営者のコメントやストリーミングの動画があれば聞いてみる。最近はWebサイトなどで個人投資家向け説明会の動画を流している企業も多いし、googleで「企業名」「戦略」「競合」などのキーワードをもとに30分も調べれば、その企業について多くの情報が集まるはずだ。

 こういった努力をしてみて、その会社に投資をすることがしっくりくるかどうか?を確かめてみればいい。

自分の子供に就職させたくない企業には、投資してはいけない

 最後に、投資に役立つ決定的な質問を教えよう。それは「もしあなたに息子(娘)がいれば、その会社に就職させたいだろうか?」という質問だ。答えがイエスなら、投資先としてあなたの心が賛同しているといえる。

 投資とは、単に株を売買することではない。将来価値を生み出すであろう企業に、自ら“投票”することである。それは、先の参議院選挙と同じ、社会参加の1つなのだと思う。株式市場は、国営のギャンブル場ではない。これから価値を生み出そうとする企業家と、そのための原資を提供しようとする勇敢なる投資家との出会いの広場である。

 株価だけを追うようなゲームに興じる時間は人生にはないはずだ。ぜひじっくりと腰を据えた投資をしたいものである。

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