株式投資はギャンブルじゃない――GABA株のお値段は?山口揚平の時事日想

» 2007年07月31日 10時54分 公開
[山口揚平,Business Media 誠]

著者プロフィール:山口揚平

トーマツコンサルティング、アーサーアンダーセン、デロイトトーマツコンサルティング等を経て、現在ブルーマーリンパートナーズ代表取締役。M&Aコンサルタントとして多数の大型買収案件に参画する中で、外資系ファンドの投資手法や財務の本質を学ぶ。現在は、上場企業のIRコンサルティングを手がけるほか、個人投資家向けの投資教育グループ「シェアーズ」を運営している。著書に「なぜか日本人が知らなかった新しい株の本」など。


 共に英会話スクールを展開する「GABA(証券コード:2133)」と「NOVA(証券コード:4655)」。先週に引き続き、今回もこの2社の投資戦略について考えてみる。

 前回は、英会話事業の特性やGABAとNOVAの置かれている環境を整理したので(7月24日の記事参照)、今回は、今後、GABAがどのようにして事業を発展させてゆくのか、そしてそれが実現するとしたら企業価値はどのようになるのかを一緒に考えてみよう。

GABAの発展のシナリオは?

 事業発展の方向性を考えるには、任意の二軸をとってみると分かりやすい。軸に使うのは、簡単なものでは、「顧客」や「エリア」、「製品」などが考えられる。

 今回は顧客軸と地域・チャネル軸で展開方法を考えてみるのがよいだろう。

GABAの発展シナリオは?

 今までGABAは、法人や都市部のビジネスマンをメインターゲットにしてきており、顧客層は20〜30代の社会人が中心だ。教室は、首都圏に24校、関西に4校、中部に1校の計29校を展開し、現在の受講生数は約1万6000人である。これをどうやって増やしていくのか?

 GABAのWebサイトで公表しているのは、シニアや小学生への展開(Global Starブランド)、未開設地域への展開である。このほか、インターネットによるe-ラーニングも視野に入れているようだが、これは今のところそれほど力を入れることはできないだろう。1つには、受講生の通信インフラの問題、もう1つにはGABAの持つ既存の教室授業と競合してしまう可能性があるからだ。顧客の感じているGABAのバリューの大きなポイントの1つは、落ち着いたカフェのような空間でのラーニングスペースでのレッスンにある。事業競争力の本質が、英会話に加え、“雰囲気”の販売だとすると、ネット展開はそぐわない。

 従って当面は、GABAは教室の拡充に注力していくと想定される。なおシニアや小学生への展開は、最初のスタジオを成城学園に創設するなどなかなか戦略的な展開を図っているが、コンテキスト(目的)やコンテンツ(教材)が従来と異なるため、普及にはやや時間がかかるだろう。

 これらをまとめると、GABAの中期的な将来予測は、教室の拡大とそれに伴う生徒数の増加をベースに考えてゆくのが妥当であろう。

 ではこのような事業展開のシナリオを具体的な数字に落とし、GABAの「企業価値」を算定してみよう。

 算定された企業価値に比べて株価が低ければ、割安であり、投資としては“お買い得”となる。株式市場というのは、短期では株価の浮き沈みが激しくなるが、長期で見ればその企業の株の価値に収斂してゆく。そのため、一時的に株価が価値を下回ったときに株を買うのが投資の基本である。

GABAの企業価値は?

 では、GABAの企業価値を考えてみよう。

 企業価値とは、会社が将来稼ぐお金を全部見積もり、それを現在の価値に換算したものだ。そこから借金などを引けば、株式価値、つまり株の妥当な価格が出る。

 そう言うのはたやすいが、企業が将来稼ぐお金を見積もるという作業は、実際にはとても大変だ。そのためにまずは、先に挙げたように将来のシナリオを書いてみなければならないし、それを具体的な数字に落とし込む力も必要になる。この定量化手法は、過去に“大人のそろばん”として以前のコラムで紹介したのでそちらも参照してほしい。

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 それでは早速、GABAの企業価値を考えてみよう。

 今から行うのは、DCF法というきわめてスタンダードな企業価値評価のやり方である。DCF法では、会社が将来稼ぐお金(=フリーキャッシュフロー)を現在の価値に変換する(参照リンク)

GABAが将来稼ぐお金はどれくらい?

 では、まずはさっそくフリーキャッシュフローを見積もろう。フリーキャッシュフローは、営業利益−税金−設備投資−減価償却−運転資本という式で表される。

フリーキャッシュフローの見積もり

営業利益−税金−設備投資−減価償却−運転資本=フリーキャッシュフロー(会社が将来稼ぐお金)


 以下、それぞれについて見ていきたい。

 まずはGABAの2008年度は業績予想の数字を用いて、それ以降の売上を予測しよう。GABAの売上は、「教室数」×「教室あたり生徒数」×「生徒あたり単価」と“因数分解”することができる。GABAがどれだけの教室を新規開設するかを予測し、どれだけ生徒が増えるのかを考えてみるといい。ここでは、年間3〜6校新規開設するとし※、その結果、受講生数は約1500〜3200人ずつ増加すると考える。1校あたりの受講生数は、過去の実績から予測した。

※IRに聞いたところ「毎年新規開設5〜7校、立地改善2〜3校を計画」との答えが返ってきた。

 2006年度、2007年度の受講生の増加が約3500人なのでこの予想は現実的な数字だ。ここから受講生1人あたりの売上高を計算すると全体の売上高が予測できる。

 営業利益は、売上に営業利益率をかけて算定する。

 GABAの営業利益率は、2006年度、2007年度は18%以上と高い。しかし2007年2月23日の決算説明会では、「成長を睨んだ投資をするから利益率は低下する」と発表している。会社発表の計画数値では13.6%だが、今回の予想では幅を持たせて13〜14%としよう。

 設備投資額は、3〜6校の新規開設(5年目以降は0〜6校の新規開設)、2〜3校の立地改善 と見積もり、1校あたりの投資額(過去の実績から予測)から予測することにした。減価償却費は、建物の耐用年数を15年とし、固定資産の増加に伴って増えていくと見ている。運転資金は、生徒数の増加による前受金の増加からのキャッシュインを想定している。

 これらの結果から、今後15年間のフリーキャッシュフローを予測したのが下の表だ。

GABAのフリーキャッシュフローを予測した表。クリックすると拡大(右クリックして「別ウィンドウで表示」をお勧めします)

 これで将来稼ぐお金の見積もりができた。あとは、将来のキャッシュを現在の価値に換算して、現在の価格(株価)と比較すればいい。

 将来のキャッシュを現在の価値に換算するには、割引率(ワック、WACC)という指標を使うことになる。割引率というと何のことだろうと思うかもしれないが、これは将来のお金を現在の価値に割り引くための率だ。誰だって、5年後の100万円より、今の100万円のほうが好きに決まっている。だから将来のお金は、現在の価値に換算するときには割り引いて考えなければならない、ということだ。ここでは、ワックは7%〜9%とした。

将来稼ぐお金を現在の企業価値に換算する

フリーキャッシュフロー ÷ ワック = 企業価値


 通常は、この企業価値から借金を引くが、GABAは無借金なのでその必要はない。しかし、過去7回発行しているストックオプションが行使されると1株の価値が希薄化するのでそれを考慮する(潜在株式数を合わせた株式数の約30%)。

 その結果、GABAの1株あたりの理論価値は18万〜30万円と出た。7月30日のGABA株の終値は10万4000円なので、GABAの現在の価値と理論価格の差は、1.7〜2.7倍強あることになる。

 上記は試算なので、あくまで“そのシナリオ通りに行けば”の話である。当然、投資は自己責任で行うものだ。

株式投資はギャンブルではない

 さて、2週間にわたって企業分析をしてきたが、ここで大事なことは、株式投資をするなら、その企業の行く末を自分で考えてみること、そしてその結果を具体的な数字で表現するということだ。これができるようになることで初めて、投資が場当たり的なギャンブルではなく、訓練によって成長可能な仮説検証作業となる。

 投資で大事なことは、1年や2年ですぐに利益を上げることではない。投資に根拠を持たない人が損をしても得をしても、おそらくそれは「偶然」に過ぎない。若いうちは利益そのものよりも、自分の仮説と実際との差を縮めることのほうが大切だ。

 誠の読者世代にとって、投資は一生の作業となる。だから、今学ぶべきは、すぐに儲かる安易な投資テクニックではなく、どっしりと腰をすえた本物の知識だということである。ぜひ、「いろいろな会社の企業分析」にチャレンジしてほしい。きっと半年後には大きく成長していることだろう。なお、今回のGABAの企業価値評価に関しては、投資家であり企業分析家でもあるS氏のご協力をいただいた。ありがとうございました。

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