“プラグイン”で、クルマのスタイルと周辺環境はどう変わる? 神尾寿の時事日想

» 2007年07月27日 10時39分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 7月25日、トヨタ自動車が、プラグインハイブリッド車「トヨタプラグインHV」の実用化と、同車が国土交通省より大臣認定を取得したことを発表した(7月27日の記事参照)。今回の大臣認定は、プラグインHVの市販化に向けて公道での実証実験を行うためのもの。現行プリウスをベースに開発したトヨタプラグインHV車両8台を使い、日本全国で公道を走り、「航続距離と搭載バッテリー容量のバランス、EVモードの実用性などについて検討・検証をする」(トヨタ自動車)のが狙いだ。

 今回のトヨタプラグインHVは、家庭用の100ボルト(充電時間約3〜4時間)もしくは200ボルト(充電時間1〜1.5時間)の電源で充電し、EVモードで最大13キロメートル程度の走行ができる。従来のプリウスに比べてEVモード時の最大時速も引き上げられ、仕様上は時速100キロメートルまで加速が可能だ。これらEVモードの最大性能はエアコンなどを使わない状況での“カタログ値”であるが、実際の利用状況でも、航続距離8〜10キロメートル、時速60〜80Km/h程度でEVモードが利用できるという。

 先のコラムで筆者は、日本の乗用車ユーザーは、都市部を中心に“ちょい乗り”と呼ばれる短距離・短時間のクルマ利用が多いと述べた(7月20日の記事参照)。トヨタプラグインHVのターゲットもまさにこのゾーンであり、「平日のお買い物や子どもの送り迎えといった利用ならば、EVモードで十分にまかなえるというシチュエーションを想定している」(トヨタ説明員)。

 トヨタの社内データによると、クルマ利用者の1日あたりの走行距離で最も多いのは「10〜20Kmの利用」で、このセグメントが全体の3割近くを占めるという。次に多いのが、「0〜10Km以内」と「20〜30Km以内」で、それぞれ全体の2割強のユーザーになる。今回発表されたトヨタプラグインHVのEVモード航続距離でも、2割強のユーザーが「日常利用ではガソリンエンジンをほとんど使わずに済む」計算だ。また、今後さらに技術改良が行われてEVモードの実用航続距離が20キロメートル程度まで伸びれば、全体の約5割のユーザーが、日常的にはEVモードをメーンで使えることになる。もちろん、基本はハイブリッドカーなので、航続距離や速度が必要なときはガソリンエンジンの性能や利便性が受けられる。

プラグインソケットの「共通規格化」を進める

 また、トヨタ自動車では「プラグイン」による充電は、家庭で行うだけではないと考えている。そこで重要になるのが、クルマ側のプラグインソケット(充電口)の共通規格化だ。

 「今回のプラグインHV車両は試験車両なので、独自の充電口になっています。しかし、市販化にあたっては、充電口の形状・仕様はメーカーの垣根を越えて共通化するべきだと考えています。そうすることで、家庭以外の場所に『充電インフラ』を作ることができる」(トヨタ自動車商品開発本部第2トヨタセンター製品規格エグゼクティブチーフエンジニアの小木曽聡氏)

 将来的に、すべてのプラグインHVが“共通プラグインソケット”を用意すれば、クルマを駐車するスペースが充電インフラの機能を備えられる。今回のトヨタプラグインHVでも、200ボルトで充電すれば、充電時間は1〜1.5時間だ。駐車時間中の充電は非現実的な話ではない。

 「例えば自動車通勤なら、会社側が共通仕様の充電プラグを用意して、勤務中に充電できるようにする。その代わりに、通勤手当のガソリン代を半減するとか考えられますね。満充電に必要な電力コストは深夜電力を使わなくてもガソリンより圧倒的に安いですから、『ガソリン代支給は半分にする、その代わり社員用駐車場で充電し放題』にしてもコスト削減になりますよ。なんかこれ、うち(トヨタ)の会社が真っ先にやりそうですけど(笑)」(小木曽氏)

 コインパーキングなど有料駐車場でも、充電は新たな付加価値サービスやビジネスになる。すでにコインパーキング大手のパーク24などは、実験的に充電設備付き駐車場の設置をしている。プラグインHVの市販化と充電口共通化が行われれば、有料駐車場の充電インフラ化に弾みが付く。

 また、最近では大規模ショッピングモールや百貨店が、“プレミアムな駐車サービス”に力を入れている。例えば今年3月にオープンした「ららぽーと横浜」では、ヤナセがバレーパーキングによる洗車やカーケア&メンテナンスサービスを実施している。プラグインHVが市販化・普及していけば、こういった施設の駐車場付帯サービス、集客のツールやサービスとして、プラグインによる“充電”が利用される可能性もあるだろう。

 プラグインHVには、クルマの利用スタイルや周辺環境を変える潜在力がある。その環境性能や、経済性・利便性の高さはもちろん注目であるが、プラグインが変えていく“クルマのある風景”も、新たなビジネスという視点では重要である。

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