過熱が続く中国市場、Xデーに逃げ遅れるな藤田正美の時事日想

» 2007年07月23日 00時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。 東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」


 中国の4〜6月期の国内総生産(GDP)成長率が前年同期比で11.9%になった。これで今年上半期(1月〜6月)の成長率は同11.5%に達している。

 中国政府は、小刻みな利上げ、預金準備率引き上げ、手形による市中資金の吸い上げなど景気にブレーキをかけようと懸命だが、いっこうに減速する気配がない。そればかりかビルやマンション、工場などの建設投資も高水準が続き、都市部の固定資産投資は昨年同期比(1月〜6月)で27%も増加している。こうした状況を背景に、消費者物価の上昇率は6月単月で前年同月比4%台と、政府が目標とする3%を上回った。

 なかなかブレーキがかからないのには、いくつか理由がある。中国国内の経済格差があまりにも大きいため、もし経済成長率が急落すると、地域対立や遅れている地域での不満が激化する恐れがあること。また業績が悪い国有企業などは、資金の供給が絶たれるとたちまち倒産ということにもなりかねない。そうなると大量の失業者が出て、社会不安の原因になること。さらに地方の政府は自分たちの実績を上げることに汲々としていて、中央の「締め付け」を無視していることなどである。

 上記のような理由に加えて、元高になるのを防ぐために、政府が為替市場に介入していることも大きな理由の1つである。日本の1980年代のバブル期も、1985年のプラザ合意の後、240円から150円の円高になり、その後の円高を抑えるために政府・日銀は積極的な介入を行った。と同時に金融の引き締めが遅れ、そのため市中に資金がだぶついたのが株や土地などの資産インフレにつながった(参照リンク)

 上海の株価は今年2度の暴落を経験し、現在は不安定な動きとなっている。ここで政府がさらに引き締めに入ると、株価にかなりの悪影響が出ることが懸念される。すでに5月23日にはアラン・グリースパン元FRB(連邦準備理事会)議長が、「中国の株価は劇的に収縮する」と語ったために急落し、現在にいたるまで上下動を繰り返している(参照リンク)

自動車産業への打撃が懸念

 2月に上海の株価が暴落したときは、上海から始まって西回りに株式市場が暴落した。中国市場の存在感を見せつけた形となったが、それは1本調子で上げてきた株価がいきなり急落したからだ。つまり不意打ちを食らったためだと言うこともできる。今後はよほどの暴落でないかぎり、海外市場にはそう大きな影響を与えないのではないかと思われる。

 とはいえバブルがはじけて、株価が大幅に下落したり、不動産の価格が下がったりすれば、別の影響が出るだろう。それはいわゆる「逆資産効果」によって、中国の消費にブレーキがかかるのではないかということだ。逆資産効果とは、資産価値が下がると消費者の財布のひもが固くなることを言う。

 とりわけ影響が懸念されるのが、中国経済を牽引している自動車産業だ。すでに中国の自動車保有台数は3000万台を超えている。2005年の時点で中国商務省は、2010年には5500万台になると予想していたが、それよりもやや速いペースで進んでいる。ただ自動車をめぐる環境はこれから厳しくなる。ガソリンの価格は上がることが予想され、炭酸ガス排出問題で注目されているバイオエタノールの価格も上がるだろう(原料であるトウモロコシを人間と車で奪いあうことになるからだ)。バブルがはじければ当然、収入が減り、そこに逆資産効果とコストの上昇という悪影響が重なれば、自動車販売台数は一時的とはいえ大きな打撃を受けるはずだ(参照リンク)

踊り場突入はいつか?

 2008年の北京オリンピックか2010年の上海万博のどちらかで、中国経済は“踊り場に突入する”と見られている。それだけにバブルがはじけても「想定の範囲」ということかもしれない。しかし中国に流れ込んでいる資金が一斉に逃げ出すと、逃げ遅れた一般投資家の損害が巨額に上る可能性がある。中国消費市場の停滞はもちろん、生産にも大きな影響を及ぼすだろう。そろそろ日本の一般投資家も警戒を強めておいたほうがいいかもしれない。

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