普及フェーズに入るFeliCa電子マネー、今後の課題は? 神尾寿の時事日想:

» 2007年07月18日 13時00分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 本誌調査で、各FeliCa決済の最新利用状況が判明した(7月16日の記事参照)。詳しい数字は記事を参照してほしいが、結果を見ると、発行枚数ではこの分野の草分けであるビットワレットの「Edy」が3100万枚と群を抜いて多く、半面、利用件数では最後発のセブン&ホールディングス「nanaco」が3000万件で最も多いというものになった。

 ずらりと並んだ各FeliCa決済の状況を眺めると、やはりnanacoの数字が面白い。nanacoは発行枚数400万枚・利用可能店舗数1万1747店ながら、月間利用件数が3000万件と多く、1ユーザー/1店舗あたりの稼働率が他方式よりも高いのが特徴だ。nanacoの稼働率は“首都圏の駅”という好立地を背景に電子マネーの利用促進がしやすい鉄道系のSuica/PASMOよりも高い。nanacoは発行枚数を急速に増やしているだけでなく、「きちんと使ってもらう」ことに成功している。以前のコラムでも触れたが、nanacoの稼働率を上げる手法やスタンスには、学ぶべき部分が多々ある。

 一方のEdyは、発行枚数そのものの多さよりも、おサイフケータイ稼働数の多さの方が注目だ。Edyのおサイフケータイ版アプリの稼働台数は600万台であり、他のFeliCa決済のどれよりも多い。おサイフケータイ向けのEdyアプリには、モバイルチャージやEdyギフトの受け取り、ユーザー同士で電子マネーが送れる「Edy to Edy」、オンラインショップで利用できる「モバイルEdy」など、通信機能と連携した多彩なサービスが用意されている。サービスの先進性では今でも随一である半面、カード型も含めた稼働率では、nanacoやSuica/PASMOの後塵を拝しているのも事実だ。Edyは、沖縄や名古屋などの地域ではカード型を中心に「稼働率を上げる」ことに成功している(参照記事・沖縄1沖縄2名古屋)。同様の展開が今後さらに広がるかにも注目である。

会員増と加盟店拡大のバランスがよいiD

 ポストペイFeliCa決済(クレジット)についても見てみよう。

 FeliCaクレジットでは、三井住友カードとドコモが推す「iD」が、会員数と設置リーダー/ライター数でトップになっている。その背景には、ドコモがイシュアとなるクレジットサービス「DCMX mini/DCMX」の会員獲得力と、ドコモが様々な形で“iD推進のための企業提携”に動いている効果がある。先のマクドナルドやカシオ計算機との提携など、iDによる新規事業・新分野へのチャレンジは、“クレジット事業が本業ではない”ドコモだからこそ取れたスタンスと言えるだろう。

 また、ここにきて存在感を増しているのがQUICPayだ。昨年後半から会員増加のペースが一気に上がり、iDに肉薄する段階まで来ている。QUICPay会員増の牽引役になっているのは今やジェーシービーに代わりトヨタファイナンスであり、同社が会員向けに「一体型カード」を発行したのは効果的だった。その一方でリーダー/ライター設置数で見ると5.5万台と、iDとの差はまだ大きい。会員増加の方が先行し、加盟店開拓が追いついていない状況だ。名古屋におけるQUICPay加盟店の増加は際立っているが、全国的な加盟店拡大は発展途上である。

 しかし今夏には、ローソンやセブン-イレブンなど大手コンビニチェーンがQUICPayに対応する。会員数増加に伴い、QUICPay加盟店の増加も軌道に乗りそうだ。

今後の課題は“稼働率の向上”

 FeliCa決済全体を俯瞰すると、方式による差はあるものの、普及のペースは拍車がかかっている。コンビニエンスストアを中心に大手ナショナルチェーンのFeliCa決済対応が進んだこともあり、日常的にFeliCa決済が利用できる環境は整いつつある。

 今後は、会員数や加盟店数の競争ではなく、各方式の稼働率向上が重要なテーマになるだろう。だが、これを実現するには、従来利用者であるアーリーアダプター層だけでなく、より多くの人にFeliCa決済を使ってもらう必要がある。利用者層を拡大しながら、稼働率の向上を行えるか。

 FeliCa決済がキャズムを越えられるかどうかの鍵は、まさにそこにある。各事業者の取り組みを、期待をもって見守りたい。

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