月間PV1億2000万のゴルフ総合ポータルが成長するために必要だったものとは――GDO・木村暁氏EC最前線インタビュー:

» 2007年07月09日 08時14分 公開
[吉田卓司,Business Media 誠]

 インターネットを利用した電子商取引、EC(Eコマース、Electronic Commerce)は、年々順調に市場拡大を続けている。PCや携帯を使って「ネットで買う」ことが珍しかったころと違い、今では「お店で売っているものでも、ネットで買ったほうがもっと便利」と感じる人が増えてきている。また、ネットならではの付加価値を付けることにより、リアル店舗にはできない、Webならではの総合的な展開ができるサイトも人気を集めている。

 そういった総合的な展開をしているサイトの1つが、ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)だ。Eコマース(物販)だけでなく、Eブッキング(ゴルフ場などのネット予約)、メディア(ゴルフレッスンや国内外のトーナメント情報)の3つの事業を柱にしており、ゴルフに関する情報・商品・サービスを広く扱う総合ポータルサイトとなっている。

ゴルフダイジェスト・オンライン

 ゴルフに関する総合ポータルという性質上、GDOへのアクセスは、ゴルフのオンシーズンになると増えてくる。2006年のオンシーズンには、ページビューは月間約1億2000万、ユニークユーザー数は約280万を記録した。

 また会員制の「GDOクラブ」を運営しており、2007年1月で会員は100万人を突破した。男女比は87:13と男性が多いが、最近の傾向として、女性会員が占める率が増えてきているという(2002年の女性会員の割合は7.8%)。また会員の中心が30代以上、高所得者が多いというのも“ゴルフポータル”らしい特徴だといえる。

 GDOのサイトの中でも、大きな位置を占めるのがECだ。2001年にスタートしたEC事業に最初期から関わっている、ゴルフリテール本部 副本部長の木村暁 (さとる)氏にお話を聞いた。

会社が小さいときしか味わえない楽しみもある

ゴルフダイジェスト・オンライン ゴルフリテール本部 副本部長の木村暁 (さとる)氏

吉田:「GDOさんはEコマース、Eブッキング、メディアの3事業が柱ということですが、もともとゴルフ関連商品のECからスタートされたのですか?」

木村:「いえ、当初から3つの事業を立ち上げる構想はあったのですが、2000年5月に創業した当初はEブッキング(ネット予約)のみでその後2001年1月にECをスタートしました。今は売上高ではECが最も大きな事業になっています。ちなみに、雑誌『ゴルフダイジェスト』のオンライン版とよく間違えられますが、別会社で運営しています。この3つのサービスを1つのサイトで提供する総合ゴルフポータルを運営しているのは、現在弊社だけだと思います」

吉田:「これまでGDOではどんなお仕事を?」

木村:「私が入社したのが2002年の1月頃です。ECが立ち上がって1年後くらい。会社も30人弱でEコマースの担当は5−6人しかいませんでした。ですから買い付け(バイヤー)、画像作成、顧客対応など全ての業務をやっていました。でも最高に楽しかったですよ」

吉田:「そういう時期ってありますよね。私もOisixの配送センターで荷造りをしたり、メールマガジンを作ったりと、何でもやっていた時期がありました。『いったい俺は何担当だ?』みたいな(笑)」

木村:「そうなんです。ただ、自分で買い付け(バイヤー)をやる一方で、顧客対応もやっていると、自分の仕入れた商品のお客様の感想をダイレクトに聞くことになる。反応が分かりやすいのですごくやりがいがありましたね。会社と一緒に成長することができたと思います」

吉田:「当時、最も辛かったお仕事は?」

木村:「会社が個人商店の集合から組織として成立していく段階で、分業が進み、物流・カスタマーサポートなどのバックエンド部隊に移り、自社の配送センター構築をしました。私も含めて現場担当2名、システム1名の外注さんはいましたが、自社ではたった3名の全くの素人集団でシステム要件を固めたりして、1万〜2万アイテムを扱う配送センターを構築しました」

吉田:「数万アイテムを扱うセンターを、素人3名で構築したんですか!」

木村:「はい。朝から晩までセンター作業をして、深夜、疲れてオフィスに戻ると、お客様対応が全然終わっていない状態……ということもありました。しかもその理由は、商品の誤配送や納期ミス、在庫数量ミスなど、自分達が起因のものが多かったので帰るわけにもいかず、さらに朝までお客様対応業務をして……これは辛かったです」

 実はECサイトを運営し、規模を拡大していくためには、配送システムの構築が非常に重要なポイントとなる。お金をかけてマーケティングし、やっと取れた受注を、いかに適切にお客様に届けるか。一見当たり前のことに見えるかもしれないが、これこそキモといっていい。在庫管理をどうするか、いかに早い納期を守るか、梱包のノウハウやコストをどう確立するか……GDOにとって、配送センターの構築がいかに重要なことだったかは、容易に想像できる。

GDOで一番売れているものは?

吉田:「一番嬉しかったことは何ですか?」

木村:「センター稼働後、有価証券報告書に『センター立ち上げのおかげで売り上げが伸びた』と書かれたことですね(笑)。あと会社が大きくなり、GDOを知ってもらうようになって、どこのメーカーとでも取り引きできるようになったとか。それから、社員の面接をしたときに『GDOに来たかったのでここに来れて嬉しい』と言われたときなどは、本当に嬉しかったです」

吉田:「Oisix(おいしっくす)も同じですよ。実は最初に一番大変だったのは、仕入れでした。優良な農家さんやメーカーさんが、なかなか売ってくれない。だから売るにも頭を下げて、仕入れるのにも頭を下げていました。2倍の苦労でしたよね」

木村:「そう、あるメーカーさんには、絶対に在庫があるのに『ない』と言われて、すごく悔しかった。それが今では、名だたる全てのメーカーと取引できるようになったのが嬉しいですね」

吉田:「ところで、今、GDOさんでは何が一番売れているのですか?」

木村:「ドライバー、ボールなど。消耗品と、お小遣いで買っても奥さんに怒られないようなものが売れています(笑)」

これからはまたメルマガが“来る”のでは

吉田:「5年前と今でEC業界では何が一番大きく変わったと思いますか?」

木村:「メジャーになったと思います。お客様から求められるものも変わりました。昔は“納期1週間”なども普通でしたけど、今は“注文した日に発送してくれ”という方も増えてます。お客様から求められる、サービスのレベルやクオリティが高くなりましたよね。あと、売り方も多様化してきています。昔はブログやアフィリエイトなんてなかったですから」

吉田:「最近のサイト集客に効果のある手法や注目しているものがあれば教えてください」

木村:「これまでは自社ブログやアフィリエイトなど、プル型のプロモーションが主流でしたが、これからはまたプッシュ型に変わると思っています。中でもメルマガですね。一時はメルマガを配信すると会員が離れていくことを懸念していましたが、最近は再びメルマガに注目しています。メルマガはローコストで集客力が高く、見直す価値があると思っています」

吉田:「確かに。一時スパムによってメールマガジン手法は停滞しましたが、米国では、昨年のクリスマス商戦で効果のあったマーケティング手法として、メールマガジンが再び上位へ復活しているそうです。特にクリック率の正確な計測などによって、ユーザーニーズやセグメント化など効果を出す手法が見つかってきているらしいですね。その先のランディングページについてはいかがですか?」

木村:「今までは1つ1つの商品をアピールしていましたが、最近は切り口を変えたランディングページを作り、そこへ誘導した実験などをしています」

吉田:「今注目しているサイトやサービスなどがあれば教えてください」

木村:「注目しているサイトはTWC COMです。あまりユーザーにスクロールさせない作りになっていたり、CGIを上手に使っていたり、参考になります」

TWC COM

ECの基本は「信頼」

吉田:「ECで最も大事と思うポイントは何でしょう?」

木村:「商売の基本ですけど、信頼性だと思います。在庫、納期を守る、約束を守る。派手さは無いけど、商売の原点を守ることでしょう」

吉田:「私もその通りだと思います。結局はECといっても商売のツールに過ぎないわけで、お客様はフラッシュやブログで買うわけではない。お客様とお店との信頼性を高められるかでお店の成長が決まってくると思います」

吉田:「最後に今後の展開や目標を教えてください」

木村:「短期的に、EC売上100億円です。ゴルフ用品小売業界の中で100億を超えるところは数少ない。ゴルフに限らないが。その勝ち組に入りたいと思います。また今後の展開として、ブランドを切り口としたバーチャル店舗展開の実験をしています。ブランドイメージ通りの店舗にしたいブランドメーカーさんのニーズと、ブランドを好きな層をマッチングできるような仕組みを作るのが課題です」

筆者より一言……ECサイト運営における、物流の大切さ

 いかがでしたか? 昔から、ジェフ・ベゾスは「アマゾンの強みは独自の物流センター」にあると言っていたくらい、ECと物流は密接な関係にあり、これを構築するのは非常に大変です。しかし、ECにおけるお店とお客様の最大の接点はWebサイトではなく、その商品なのです。この商品をいかに丁寧に、すばやく、正確にお届けするか。さらにそのECサイトの世界観を伝え、最大限に満足していただくことこそが、そのECサイトの競争力になりうると思います。商品が届いた時から先の感動を最大限にするというのは意外と忘れがちです。

吉田卓司:2000年にオイシックスを創業。代表取締役副社長として、感動食品専門スーパー「Oisix(おいしっくす)」を日本でもトップクラスの食品ECサイトに育てた。現在はECコンサルティングも行っている。


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