「毎月“お小遣い”が増えますよ」の甘い誘いにご用心 特集:今日から投資してみませんか?

» 2007年07月02日 14時09分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

 投資信託(投信)の販売が順調だ。投信とは、銀行や郵便局などで販売されている金融商品の1種。銀行などの金融機関が顧客(個人投資家)から資金を集めて1つにまとめ、別の運用会社に預ける。運用会社では投資の専門家が株や債券などに分散投資を行い、儲かった分を「分配金」として顧客に支払う、という仕組みになっている。

 多くの銀行では販売実績を上げており、郵便局でも伸ばしている。ただ、売り手側のセールストークに問題があるのも事実。実態を探るため、ある大手銀行の投信専用の窓口に電話をしてみた。

セールストークに神経質になっているのか、それとも知識不足か

 同銀行のWebページにある「投資信託月間販売件数ランキング」で、1番人気の投信について聞いた。すると女性のオペレーターは早口で「安定した分配があり、値上がり益の分配も期待したいという方に向いています。海外の債券、株式、リートなどに分散して投資をしています……」とまくし立てた。恐らくマニュアルの類を受話器の近く置き、投信の内容を説明していたのだろう。

 読み終えてホッとしたのか、女性はゆっくりと話し始めた。「他になにか、ご質問はございますか? 」。こちらが「分配金の状況を教えてください」と聞くと、「少々お待ちください」と電話を保留にされた。

 再びマニュアルでの確認を終えたのか、説明が始まった。「平成18年6月から投信の設定がスタートして、今年の3月から毎月の分配が始まりました。3月の分配金が100円、4月が150円、5月から8月が350円で……あれ? 」。ここで女性は気付いたようだ。今年はまだ8月を迎えていない。

 「す、すみません……少々お待ちください」と一方的に電話が保留となった。待つこと2〜3分で女性が電話に出てきた。「大変申し訳ございません。設定日が間違っていました。平成17年11月でした。本当に申し訳ございません」と丁寧に謝罪した。投信の販売をめぐって、メガバンクに行政処分が出たこともあり、セールストークに神経質になっているのか。それとも電話に出てきた女性が知識不足だったのか。

 続いてWebに掲載してある「累積リターン」について聞いてみると、女性は知らなかったようだ。そして3度目の保留となった。ちなみに累積リターンとは、分配金を再投資することによって算出された収益率をいう。

セールストークの罠「毎月のお小遣い」

 毎月分配型の投信では、“定番”ともいえるセールストークがある。そのセリフを是非、聞いてみたい。そこで「どうしてこの投信は人気があるのですか?」と質問すると「毎月、分配金が出るため人気があります。え、既婚者ですか? それでしたら毎月の“お小遣い”が増えますよ」。

 そう、この「毎月のお小遣い」が定番の殺し文句なのだ。多くの毎月分配型の投信が人気を集めているのは、この「毎月のお小遣い」というセールストークによるところが大きい。

 この投信は販売手数料が2.1%なので、100万円で申し込むと2万1000円の手数料が差し引かれる。上述の通り、投信の分配金は運用成績によって決まるため、毎月一定ではない。運用成績が良ければ分配金は増えるし、悪ければ分配金は減る仕組みだ。

 この投信では去年の秋から冬にかけて運用成績が好調で、分配金が580円の月もあった※。直近1年間の分配金を合計すると2050円なので、税金を差し引いて年間18万4500円の配当を手にすることができる。ただ今年の3月以降分配金は35円で動いていない。仮にこれから1年間ずっと分配金が変わらないとすると、35円×12カ月で3万7800円、それでも手数料を差し引いて年間1万6800円の儲けが見込める。

※分配金は1万円あたりの金額。資金が100万円のとき、分配金が580円であれば、5万8000円、35円なら3500円がその月の分配金として支払われる。

 もう1つ投信を申込む際に忘れてはならないのが、「信託報酬」だ。これは投資家が負担する運用手数料で、“目に見えない手数料”とも言われている。一般的に信託報酬が高いと基準価額が上がりにくいため、投資効率が悪くなる。この投信は信託報酬が年率1.36%、一時的に基準価額が上昇したこともあったが、大きく割り込んだこともあった。現在では、ほぼ横ばい状態が続いている。100万円の資金での信託報酬は1万3600円のため、仮に分配金が35円のままだとしたら、差し引きでほとんど利益はないことになる。

 このように分配金という「お小遣い」を手にして、それで「儲かった」と思っていたら間違いなのだ。投信を買った時よりも基準価額が上がって売却益を得て、さらに分配金を手にする。手数料のことも計算に入れながら、トータルで考える必要がある。

 ある証券会社の幹部は、投信の現状を危惧する。「金融機関は投信で儲けに走りすぎだ。自ら投信を作って高い手数料を抜けば、簡単に儲けることができる。だが、そうした投信では顧客が儲けることは難しい。手数料が高いからだ」と指摘する。さらに「インデックスファンドなど手数料の安い投信は、多くの金融機関が販売に力を入れていない。要するに儲けが少ないからだ」と断言する。

「貯蓄から投資へ」――約半数が知らない

 内閣府と金融庁は6月28日、「貯蓄から投資へ」に関する世論調査の結果を発表した。政府は家庭の金融資産を貯蓄から投資に振り向かせ、経済の活性化を図っているのだ。

 しかし「貯蓄から投資へ」という言葉を知らない、と回答したのは約半数に達した。また株式投資への意欲も、前回調査(2005年12月)よりも低下した。株式・投資信託への投資について「現在行っているし、今後とも続けたい」と答えた人は2ポイント減の11.3%、一方で「現在行っていないし、今後とも行う予定はない」は5.6ポイント増の74.1%だった。

 投資より貯蓄を選ぶ理由には「銀行や郵便局に預けていれば安心」(52.3%)や、「株式や投資信託は、収益を期待できる半面、元本が減る可能性もあるから」(43.3%)と、元本が減らない金融商品に根強い人気があることがうかがえた。このほか「株式や投資信託をよく知らないから」(40.2%)、「株式や投資信託をどのように購入したよいかわからない」(32.2%)、「証券会社や証券市場に対する不信感」(28.4%)という結果だった。

投資より貯蓄を選ぶ理由。「銀行や郵便局に預けていれば安心」がトップ

 家庭の金融資産を投資に回そうと、政府は旗を振り続けている。だが国民の意識は“笛吹けど踊らず”状態だ。金融庁は「前回の調査はライブドアショックがある前に実施した。そのため投資意欲が高かったのだろう。今後、新興市場に活気が戻ると、投資に対する意識が高まってくる」と予測する。

売り手と買い手の知識不足

 金融庁が指摘するように、現在は「新興市場の低迷」を受けて、個人投資家の間では“様子見”のムードが漂っている。株式の所有は前回調査から0.3%減少しているが、投信については1.1%増の10.2%だった。個人の金融資産が株から投信に、シフトしているかもしれない。

 また銀行や郵便局は、投資信託の販売に力を入れている。銀行は、貸出金が大幅に伸びない中、預金を獲得するより手数料収入がある投信の販売に注力するのも当然だ。だが、売り手としての責任を忘れてはならない。ずさんなセールストークによって、買い手の被害が広がる可能性があるからだ。

 金融商品の販売をめぐっては、売り手と買い手双方の知識不足が否めない。投信であれば、商品の特徴を知ることが大切だ。株式投信か公社債投信かなど、タイプをチェックし、株式か債券など投資対象も確認しなければならない。さらに基準価額や運用成績も知っておく必要がある。

 「投資初心者には投信が安心」と勧める金融機関は少なくないが、投信でも株でも、金融知識を高め、投資を行うことが重要なのは同じだ。「貯蓄から投資へ」について約半数が知らないという現状――まだまだ「投資へ」の“成長過程”なのかもしれないが、買い手である我々は今後、金融知識を身につけることを避けては通れないはずだ。

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