700MHz帯は誰のもの――ぶつからない車、それとも携帯向け放送? 神尾寿の時事日想

» 2007年06月22日 04時46分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 6月8日、マツダが2007年秋から広島地区で実施されるITS公道実証実験に参加すると発表した。マツダが参加する公道実証実験は、広島の産学官からなる「広島地区ITS公道実証実験連絡協議会」が実施するもの。この中でマツダは、ITS対応型ナビゲーションシステムの開発を担当し、数十台のマツダ車に搭載してデータの収集・分析を実施する。また、道路に設置されたセンサーやカメラなどから情報を受信しドライバーに情報提供をするインフラ協調安全運転支援システムも開発するという。

 広島に限らず、昨年後半から、ITSの公道実証実験が各地で活発化している。大規模なものでは、トヨタ自動車と愛知県豊田市が「インフラ協調安全運転支援システム」の公道実証実験を実施。トヨタの社員を含む一般市民の車両70台とタクシーなど30台の計100台が参加している。また、日産自動車は昨年10月から神奈川県でITS実証実験である「SKYプロジェクト」を実施している。トヨタ、日産ともに道路上の通信インフラとクルマが協調し、安全情報の取得や、逆にクルマからのセンサー情報の収集。さらにITSにおけるユーザーインタフェースの研究開発を行う。

 全国各地でITS公道実証実験が行われる背景には、以前本連載でも取り上げたIT新改革戦略における「2012年末の交通事故死亡者数5000人以下という政府目標」がある(6月1日の記事参照)。これを実現するには、ITSの安全情報共有機能による「ぶつからないクルマ」の開発が不可欠であり、これまで開発段階だった様々な安全機能・サービスの「公道実証実験」が各地で活発化したのだ。

インフラ協調型システム実用化で前進

 ITSの安全支援機能は多々あるが、最近の公道実証実験で目玉になっているのが、「インフラ協調型安全支援システム」だ。これは道路上のセンサーや通信インフラとクルマが連携し、安全情報を共有。それにより、ドライバーが事前に危険を察知するというものである。これまでITSで取り組まれていた安全支援システムは、車載センサーやカメラを用いてクルマの周囲の危険要因を察知する「自立型安全支援システム」だったが、"ぶつからないクルマ"の実現には、クルマが外部連携が不可欠という考えから、インフラ協調型の実用化と普及に向けた取り組みが加速している。

 日本のITS推進団体であるITS Japanは今年、安全支援システムの標準化や実用化を扱う作業部会J-Safety委員会を設立。ITS4省庁や国内メーカーと連携し、2010年のインフラ協調型安全支援システムの実用化を目指している。来年には、全国各地で官民合同の大規模公道実証試験も行われる予定である。

 ここで注目なのが、J-Safety委員会がインフラ協調型安全支援システムで使用するとした「通信インフラ」だ。同委員会の報告書によると、まずは5.8GHz帯のDSRCと、全国に約3200基設置されているVICS電波・光ビーコンの活用から始める。しかし、将来的には2011年のアナログテレビ終了後に再編される700MHz帯の活用も考えられている。実際、来年の大規模公道実証実験では「700MHz帯DSRCを使ったインフラ協調安全支援システムの実験も行われる予定」(ITS Japan)だという。

 アナログテレビ終了後の"跡地"で最も魅力的な700MHz帯の獲得を巡っては、自動車業界のITS用途以外に、MediaFLOなどモバイル向け放送の推進企業が名乗りを上げていた。どのようなプレイヤーが名乗りを上げているかについては別記事(前編後編)で以前書いた通りだが、総務省の議論ではVHFのハイバンド(207.5M〜222MHz)をテレビ以外の放送に割り当てるという意見が出ており、一方で、700MHz帯がITSで使われるシナリオが急浮上してきた。来年の大規模公道実証実験の結果次第では、700MHz帯獲得競争で、自動車陣営が大きく有利になる可能性もありそうだ。

 クルマ、そして新たなモバイル向け放送のどちらの視座でも、最近のITS公道実証実験の活発化は注目である。

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