クロレッツがテイカロキャンディを飲み込む日保田隆明の時事日想

» 2007年06月21日 00時00分 公開
[保田隆明,Business Media 誠]

著者プロフィール:保田隆明

やわらか系エコノミスト。外資系投資銀行2社で企業のM&A、企業財務戦略アドバイザリーを経たのち、起業し日本で3番目のSNSサイト「トモモト」を運営(現在は閉鎖)。その後ベンチャーキャピタル業を経て、現在はワクワク経済研究所代表として、日本のビジネスパーソンのビジネスリテラシー向上を目指し、経済、金融について柔らかく解説している。主な著書は「M&A時代 企業価値のホントの考え方」「投資事業組合とは何か」「なぜ株式投資はもうからないのか」「株式市場とM&A」「投資銀行青春白書」など。日本テレビやラジオNikkeiではビジネストレンドの番組を担当。ITmedia Anchordeskでは、IT&ネット分野の金融・経済コラムを連載中。公式サイト:http://wkwk.tv。ブログ:http://wkwk.tv/chou


 キャドバリー・ジャパンは6月13日、三星食品をTOBにより子会社化すると発表した。三星食品はテイカロシリーズなど、シュガーレスキャンディを多く製造・販売するメーカーだ。一方のキャドバリーという会社は、クロレッツ、リカルデント、ホールズ、メントスなど有名な商品をもつ世界有数のお菓子メーカーである。

 キャドバリーの親会社は英国のキャドバリー・シュウエップスである。キャドバリーとシュウエップスが合併してできた企業で、売上高は2兆円弱に達している。シュウエップス側は炭酸飲料を主に扱っており、セブンアップ(7up)やドクターペッパーなどのブランドを保有している。これらブランドは日本での人気はさほど高くはないが、米国では絶大な人気を誇る。ただ、キャドバリーとシュウエップスの合併は、当初こそ市場をにぎわせる材料となったが、現在ではあまりうまく行っていないという。

食品業界の再編はファンドから企業が主導へ

 そんな巨大お菓子企業が日本企業を買収することになった。食品業界は、ある程度のシェアがあれば、その後は安定的なキャッシュフローが見込めるため、投資ファンドなどが目をつけやすい業種だ。例えば、話題のスティールパートナーズは、明星食品、サッポロビール、ブルドックソースのほか、江崎グリコやハウス食品の株式も保有している(6月14日の記事参照)

 ファンドが有する株式は最終的に何らかの形で売却する必要があるが、大量に持つと市場では売れない。それは自らの売り圧力によって、株価を引き下げることになってしまうからだ。そのため一括で他社に売却したいところだが、買ってくれる企業が登場しないことには売却ができない。スティールが明星食品やブルドックソースに対してTOBを仕掛けたのは、その買い手をおびき寄せるためではないかという説もある(5月24日の記事参照)

 今まではファンド主導で動いていた食品業界であるが、キャドバリーという世界最大手のお菓子メーカーが動き出したことは、ファンドにしてみると出口の確保が容易になりつつあることを意味する。そして、企業にとっては危機意識が高まるきっかけになるのだ。

敵対的買収防衛の動きも増える

 国内では、味の素がカルピスを株式交換で完全子会社化するという動きも出てきた。味の素は20%強の株式を保有していたので、元々グループ会社だったものを完全子会社化しようということである。完全子会社化することで両社間でのシナジーが発揮しやすいなど、メリットは様々あるが、カルピスに対する敵対的買収防衛の意味合いもあったに違いない。食品業界において定番商品を抱えることは、安定的なキャッシュフローの創出につながりとても重要だ。そしてカルピスは定番商品の代表格である。

 これまでキャドバリーは日本で独自展開を行い、ある程度のプレゼンスを確保した。その後今回のM&Aに至ったわけだが、村上ファンドやスティールなどが地ならしをしてくれたお陰でM&Aを迫りやすくなったことは間違いないはずだ(5月15日の記事参照)

第2、第3のキャドバリーの登場は?

 キャドバリー以外にも日本で独自に展開し、プレゼンス(存在感)を有している世界的食品企業といえば、ヨーグルトメーカーのダノンがある。こちらはヤクルトの株式を20%保有しているが、しばらくは株式を買い増さないという契約が存在する。しかし5年前には、ファンドが食品業界を荒らすことなど想像もできなかったように、5年後の食品業界が大きく変化している可能性は高い。そんな状況を想像すると、買い増さないという契約がいつまでも保持されるとは考えにくい。

 そのほかまだ日本で目立ったM&Aをしていない世界的企業――ネスレなどの動向にも要注目といったところだ。

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