ビットワレット「Edyスマイルクーポン」「Edyハッピー優待」を考える(3)

» 2007年06月18日 13時37分 公開
[吉岡綾乃,Business Media 誠]

 →ビットワレット、Edyを利用したキャッシュバック&割引サービス

 →ビットワレット「Edyスマイルクーポン」「Edyハッピー優待」を考える(1):ビットワレットの狙い

 →ビットワレット「Edyスマイルクーポン」「Edyハッピー優待」を考える(2):導入事業者の事情

 6月1日から開始した「Edyスマイルクーポン」と「Edyハッピー優待」はいずれも、対象店舗でEdyを使って決済を行うと、その場で割引またはユーザーにキャッシュバックされる仕組みだ。別記事で紹介した通り、6月1日時点では全国のEdy加盟店のうち、5000店が本サービスに対応する。大手居酒屋チェーンやタクシー会社などの事業者が、それぞれ新規顧客の獲得や、固定顧客の優待などを目的に使っている(6月13日の記事参照)

 ビットワレットでは新サービスの開始に合わせて、おサイフケータイ用Edyアプリをバージョンアップしており、ユーザーからは利用しやすい環境が整った(旧バージョン用アプリからでも利用できる)。しかしこのサービスについてはいくつか気になる点がある。

新しいEdyアプリでは、起動画面に「お得メニュー」という項ができ、ここから「Edyハッピー優待」「Edyスマイルクーポン」を呼び出せる(左)。「Edyギフト」が届いているかどうかは、アプリのトップメニューから簡単に確認ができる(右)

カードユーザーがEdyギフトを受け取る方法

 気になる点の1つは、カードユーザーの使いにくさだ。EdyスマイルクーポンもEdyハッピー優待も、ユーザーへの還元は「Edyギフト」の形で行う。おサイフケータイユーザーはアプリから簡単にEdyギフトを受け取ることができるが、カードタイプEdyのユーザーの場合、Edyギフトを受け取れる場所が整備されていない点は問題だろう。

 現在EdyカードでEdyギフトを受け取るためには、PaSoRiやFeliCaポートが付いたPCを使うか、あるいはEdyに対応し、FeliCaリーダー/ライターを搭載したマルチメディア端末を利用する必要がある。ビットワレットでは「おサイフケータイのほか、家ではPCで、外ではマルチメディア端末を使って受け取っていただくイメージ。インテル・マイクロソフトとの取り組みにより、FeliCaポートが付いたPCは増えつつある(2006年12月の記事参照)」とコメントしている。

 とはいえ、個人向けPC※でFeliCaポートを積極的に搭載しているのはソニーのVAIOくらいで、あとはNEC、東芝のごく一部の機種にしかFeliCaポートは付いていない。日本の家庭にあるPCのうち、FeliCaポートが付いているPCはかなりレア、というのが現状だ。USBでPaSoRiを外付けする方法もあるが、自分でドライバを入れ、セットアップするのはなかなか面倒だ。しかもWebブラウザの種類によっては利用できないものもあり、広く普及するのは難しいと思われる。

※富士通や日立製作所の一部法人向けPCでもFeliCaポートを採用したものがある。

 家のPCで受け取れない場合は外で受け取ることになるが、これも受け取れる場所を探すのはなかなか大変だ。am/pmの一部店舗に設置されているマルチメディア端末の「appoints」、空港に設置されている「Webキオスク」、カラオケチェーン・ビックエコーに設置されている「DAMステーション」といったマルチメディア端末がEdyギフトの受け取りに対応しているが、“Edyが使える場所”に比べると、“Edyギフトを受け取れる場所”は非常に少ない。ビットワレットでは「将来的にはファミリーマートの『Famiポート』も利用できるようになり、全国的に受け取れる場所が増えていく予定」と説明しているが、スタート時期ははっきりしていない。当分の間「Edyギフトをもらっても、身近に受け取れるところがない」というカードユーザーは多そうだ。

ポイントなのか、販促費なのか

 2つ目は、加盟店が原資についてどう考えるかである。航空会社のマイルや大手家電量販店のポイントなどに代表されるように、一般にポイントは、消費も自分の店舗で行われる。ポイントが自社の中で回転するのに対し、EdyスマイルクーポンやEdyハッピー優待を利用したユーザーに付与したEdyギフトは、次に自社の店舗で利用してもらえるとは限らない。

 ビットワレットではマツモトキヨシのポイント制度などを例に挙げて「ポイントの連携・オープン化はトレンド。Edyギフトとして還元するといっても原資がビットワレットに戻るわけではなく、他のお店で使われるわけなので、広く使えるのは良いことだ。逆に、他の店舗を利用することで得たEdyギフトを自分の店舗で使ってくれるかもしれない、と(ハッピー優待/スマイルクーポン加盟店には)好意的に受け止めてもらっている」と説明している。

 確かにポイントのオープン化はユーザーにとってはメリットであり、最近のトレンドになっているのは事実だ。他業種との連携を進めることによって数あるポイント制度の中でも埋もれない、有力なポイントになりうるというメリットはあり、ユーザーに強く訴求するものではある。しかし一般のポイント連携は交換に手間や時間がかかるものが多く、Edyギフトのように、“貯めた分をそのまま即座に他店舗で使える”例はむしろレアケースだ。

 Edyは使える店舗が多い分、Edyギフトとして還元した分はむしろ他店舗へ流出する可能性のほうが高い。新規顧客の獲得や固定客の継続利用促進のための販促コストだと割り切れるところは良いが、ポイントは自社の中で回るもの、と考えている企業にとっては、Edyギフトという還元方法は受け入れにくいのではないか。

ハッピー優待/スマイルクーポンの設定は加盟店のニーズに合っているのか

 最後は、ハッピー優待とスマイルクーポンの顧客に対する設定がEdy加盟店のニーズに合っているのかどうかという点だ。このサービスでは、ユーザーの属性(性別、年齢など)と利用履歴に対して優待を付けることができるが、果たして加盟店にとって、属性と利用履歴の設定はそもそも有益なのだろうか。

 現在の紙のクーポン(PCを使ってWebサイトをプリントアウトするものも含む)は、氏名や住所を書いて利用するものが多い。店舗側は顧客のこれらの情報を知ることにより、ダイレクトメールなどを使って販促を行うのが一般的だ。Edyスマイルクーポンではユーザーの属性は分からないし、ビットワレットではEdyハッピー優待を利用したユーザーの一人ひとりの個人情報を、個人にひもづく形で加盟店に提供する予定はないとしている(利用者の男女比、年代などの分析データは提供予定)。

 ビットワレットでは「『個人情報を持ったり、データベースを管理することなく、個人情報を使ったサービスと同等の優待ができることがメリット』と加盟店には受け止めてもらっている」と説明しているが、前述のように、ハッピー優待やスマイルクーポンは、その仕組みの性質上、Edyギフトを付与した顧客が自分の店に戻ってきてくれる可能性が高くない。ダイレクトメール送付のような“お得意様獲得”という観点でサービスを行いたい店舗にとっては、個人情報を持つことは必須であり、このような優待サービスは使いこなすのが難しい。

 また、ハッピー優待やスマイルクーポンは、人(正確にはEdy番号)にひもづくという性質上、「特定商品に対しての値引きを行いたい」というニーズに応えるのも難しい。人に対して「○○円還元」「○○円割引」ではなく、「この商品を買ってくれたら○○円値引き」という使い方ができないのだ。

 ビットワレットでは「ハッピー優待やスマイルクーポンが、すべての業種のニーズに応えるとは考えていない。業種によっては、他のニーズもあるだろうし、とりうる施策も違うだろう。商品ごとへの対応、といったことが必要であれば、カスタマイズをしてもらうことになる」と話している。

 別記事で紹介したサークルKサンクスの「KARUWAZA CLUBカード」はまさにその例だ。KARUWAZA CLUBカードの主な特典は、特定商品の値引きとスタンプで、KARUWAZA CLUBカードで対象の商品を購入すると自動的に値引き価格で購入できる(「KARUWAZA値引き」)。

 特定の商品に対して割引を付けられるということは、重点的に売りたい商品、注目を集めたい商品の販売促進ができるということである。例えば特定のPB(プライベートブランド)商品などだけ割引する、といったサービスを行うことにより、顧客にPB商品をアピールする、という使い方が可能になる。同様に、セブン-イレブンで利用できる電子マネーnanacoでも、特定商品へのポイント付けが効果的に行われており、商品点数が非常に多いコンビニのような業種にとっては有効な施策といえる。記者も複数の小売流通関係者から「コンビニのような業態では、個人情報を使いこなすのは難しく、それよりは商品ごとの販促で全体の売上を上げる方が効果が高い。また、実際に役に立つほどの個人情報を集めるのも大変で、現在POSレジに見た目で入力している性別・年齢データのほうが、実はむしろ使い勝手がいい」という話を聞いている。

 Edy加盟店の数の多さに比べると、Edyスマイルクーポン/ハッピー優待の加盟店はまだまだ少数派だ。多くのEdy加盟店にとって、新サービスは本当に使いたいものになっているのかどうか。また、おサイフケータイもFeliCaポート付きPCも持っていないEdyユーザーにどれくらい利用されるのか……ユーザーと加盟店と両方の視点で、新サービスの利用状況に今後も注目していきたい。

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