“女体盛り”も登場――最新米国寿司事情

» 2007年06月15日 14時57分 公開
[新崎幸夫,Business Media 誠]

 寿司。それは日本を代表する食べ物として広く知られている。海外で“Sushi”といえば多くの人間がその形をイメージできるし、食文化の1つとして世界中のレストランでさまざまな国の人々に親しまれている。

 しかし広がるにつれてトラブルも起こるようになってくる。寿司が“Sushi”になる過程で、オリジナルからはだいぶ変わったものになってしまうのだ。

 米国では寿司といえば主に「カリフォルニアロール」を指す。日本の寿司屋ではまず出てくることがない寿司だ。さらにロサンゼルスでは「Hadaka Sushi」(裸寿司)という、怪しげな店舗まで登場した。……そう、名前からご想像できるとおりの“あの寿司”をサーブしてくれるレストランである。

 今、米国でSushiは、どうなっているのか。ロサンゼルスで最新“Sushi”事情を探った。

カリフォルニアロールは寿司なのか?

 ロサンゼルスで寿司を頼むと、大抵、中央にアボカドなどの具を巻いた巻物が出てくる。これがカリフォルニアロールだ。もう1つの特徴が、ご飯を海苔で巻いたものではなく「海苔をご飯で巻いた」ものが出てくるケースが多いことだ。これは“裏巻き”と呼ばれ、海苔の黒さを気持ちが悪いと感じる人が食べやすいように定着したテクニックだ。写真のように、外側にはゴマをまぶすことも多い。

裏巻きになっているカリフォルニアロール(写真はWikipediaより)

 他にも、ロサンゼルスには日本人には珍しい寿司がいろいろある。例えば、マグロをご飯で巻き、スパイシーな味付けをした「スパイシーツナロール」や、カニをクモの足にみたてた「スパイダーロール」などだ。いわゆる日本のにぎり寿司から見るとかなり異端の寿司だが、こういった海外のSushiたちもそれはそれで美味しく、料理の1つとして成立している。

 もちろん、ロサンゼルスにも“伝統的な寿司”は存在する。日本人の板前が、ちゃんとカウンターで握ってくれるような店にいけば、日本と変わらぬ味を楽しめる。しかし米国大手スーパー、例えば「Ralphs」などに行ってSushiコーナーをのぞくと、そこに置いてあるのはたいていカリフォルニアロール。日本人の筆者としては、「本当はちょっと違うんだが……」とつい思ってしまう。

 最近では、食文化の誤解をますます加速させそうな店も登場した。ロサンゼルスの歓楽街、West Hollywoodにある「Hadaka Sushi」がそれだ。ここでは「Body Sushi」が提供される。――“Nyotaimori”(女体盛り)、と書いたほうが分かりやすいかもしれない。今年3月25日にオープンしたばかりだが、地元メディアの報道によれば、この種の寿司を提供する店舗はロサンゼルスでは初だろうという。

Hadaka SushiのWebサイト。日本をイメージしたのか、障子のようなものが見える

女体盛りのお値段、12万円超

 Hadaka Sushiのサイトでは、“Sushi gone naughty”というキャッチフレーズが掲げてある。「寿司は淫らになった」とでも訳すべきだろうか。

 店でNyotaimoriを注文すると、女性スタッフが寿司を盛りつける器となって登場するが、バナナの葉を敷いた上に寿司を置くので食べ物が直接身体に触れるわけではない。値段は1100ドル(現在の為替レートで12万円以上)とあるが、この価格には、食事や飲み物の料金および税金は含まれていないというので、実際にはもう少し値が張ることになる。Los Angeles Timesはこのサービスを“sex-based segmentation”(性的な差別化戦略)と考えられる、と紹介している。

 店のWebサイトから、説明文を一部引用してみよう。

 「Sushiとは単なる食べ物ではなく……芸術と好色の、料理という形をとった表現である。当店では、女性モデルの生まれもった美しさと活力が優雅の極みへと高まる中で、新次元の美食を体験することができる……(略)」

 こうしたメニューを見て興味深く感じる日本人もいるだろうが、「とんでもないことだ」と感じる人も多いだろう。日本では、老若男女が女体盛りに親しんでいるかのように誤解されてはたまらない。「寿司が曲解され、ねじ曲げられてしまった」と主張したくもなる。

“テキーラと寿司”で、おしゃれな食事を

 もう1つの事例を紹介しよう。ロサンゼルスのお洒落な観光地の1つ、サンタモニカには「Sushi Roku」という“寿司バー”がある。ウォッカや日本酒、テキーラなどと一緒に、寿司や日本風の料理を楽しもうというコンセプトの店舗。“Omakase”コースが1人80ドル(9000円以上)と、決して安くはない。

 Sushi Rokuの経営を手がける、Innovative Dining GroupのLee Maen氏は同ビジネスが軌道に乗っていると胸を張る。実際、Sushi Rokuはサンタモニカだけでなく、West Hollywoodやラスベガスなど、地価の高そうな場所にも出店している。

 Sushi Rokuのコンセプトは分かるが、そこで出している料理は日本の伝統的な寿司とは異なるのではないか? という質問に、Lee氏は「確かにそうだ」と答える。「日本の寿司そのものではないかもしれないが、日本人の協力を得て、味にはこだわっている。……日本のものをそのまま持ち込むというのは、我々の目指すところではない」

動き出す? スシポリス

 このように、Sushiと名乗りながら実際の寿司とは一風異なる料理を、独特のコンセプトで提供する店は多い。また、オーナーや料理人が日本人ではなく、例えば韓国人や、中南米出身者が見よう見まねでSushiを握っている、という店も増えてきている。

 これが寿司の海外普及にとっていいか悪いかは議論が分かれるところだが、日本政府――少なくとも農林水産省はこの事態をあまりよく思っていないようだ。

 2006年、農水省が海外の“日本らしからぬ”日本食を追放すべく、「正しい和食」の店にお墨付きを与える認証プログラムを創設すると打ち出したとき、海外ではちょっとした話題になった(5月14日の記事参照)。日本政府が日本食を取り締まる、ということで、「Japan to dispatch “sushi police”」(日本がスシポリスを派遣する)という風に揶揄されたこともあった。

 逆を考れば、日本にもさまざまな国の料理が入ってきているわけで、日本ならではのアレンジを加えて定着しているものもある。たとえば「明太子スパゲティ」など、イタリア人が思いもつかないパスタだろう。しかし日本にあるイタリア料理店が全てイタリア政府の認証を受けているという話は聞かないし、店に入って「このスパゲティはイタリアの認定を受けているか」などといちいち確認する日本人は少ない。認証プログラムの是非については、日本人の間でも議論が分かれるかもしれない。

 ロサンゼルスに駐在する、日本のコンテンツプロバイダ勤務の日本人社員に感想を聞いてみた。ロスの日本食店でカリフォルニアロールを注文しつつ、彼は日本文化が乱用されているかのような危機感を覚えると話す。「日本の食がせっかく世界に広まっていくのだから、しっかり保護していかなくては……」。

 コンテンツプロバイダの人らしく、何か著作権侵害を受けているような、和食の“違法コピー”が出回っているような気持ちになるようだ。日本人が発明した料理なのだから、それを外国人が利用するにあたっては日本にメリットがなくてはならない、と彼は熱っぽく語る。

 「……まあ、そうはいってもカリフォルニアロールは美味しいので、好きですが」。そういって彼は、皿の上にある“Sushi”にケチャップ入りのソースをたっぷりと付け、美味しそうにほおばった。

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