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» 2007年06月11日 00時00分 UPDATE

藤田正美の時事日想:ポスト京都議定書は難航、中国とインドが反発

主要国首脳会議で温室効果ガスの削減が決まった。しかし国によって温度差があり、中国やインドなど発展途上国にとっては経済成長を妨げるものだと反論している。

[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。 東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」


  ドイツ北部の保養地、ハイリゲンダムで開かれた主要国首脳会議。議長国であるドイツのアンゲラ・メルケル首相の肝いりで、2012年に期限の切れる京都議定書後の枠組みづくりが提起された。そこでは長期的な目標として、2050年までに1990年レベルの排出量より50%削減するとしている。

 それに対して京都議定書から離脱し、温暖化ガスへの対策の遅れ(というよりは怠慢)を国内外から批判されている米国のジョージ・ブッシュ大統領は、今年1月にバイオエタノールの利用促進によるガソリン消費の節約を発表した。また、2008年末までに主要排出国で削減目標を話し合うとした。日本の安倍晋三首相も2050年までに「現状の」50%削減を提案し、米欧の溝を埋めたいと意気込みを語った(5月28日の記事参照)

国によって温度差がある

 急に世界は温暖化ガスへの危機感を高めたように見えるが、実際にはかなり温度差がある。世界最大の排出国米国の場合、少なくともブッシュ政権は、数値目標を定めての義務化については反対だ。国内的にはたとえば州政府や大企業などで独自に排出削減目標を定めたり、排出量取引をしたりという動きがある。連邦政府としての方針は、2009年に就任する次の大統領までは大幅に進ちょくすることは期待できないというのが大方の見方だ。

 それに最大の問題は、中国やインドなどの発展途上国だ。国としての排出量という観点で見る限り、中国は米国に次いで第2位の排出国、インドは第5位(2004年)となっている(参照リンク)。しかもこれらの国の排出量は、今後かなりの勢いで伸びることは間違いない。GDP(国内総生産)成長率を上回るスピードで温室効果ガス排出量が増えるはずだから、年間10%かそれ以上のスピードで排出量が増えるはずだ。その意味では、これらの国の排出を制限しなければ効果が上がらないのははっきりしている。

 しかし問題はそう単純ではない。1人当たり排出量という基準で見れば、まったく姿が変わってくる。米国は1人当たり20トンで世界最大のガス排出国だが、中国は3.7トン、インドは1.1トンに過ぎない。ちなみに、国としては第4位の日本も、1人当たり排出量では米国の半分とはいえ、年間10トン、中国の3倍、インドの9倍にもなる(日本政府や企業は何かというと、日本のエネルギー効率は高いと自慢するが、それでもこれだけの温暖化ガスを排出していることをわれわれは認識すべきである)。

中国やインドの反発は当然

 こうなると、中国やインドが排出量を規制されることに反発するのも当然だ。先進国はさんざん温暖化ガスを排出して、自分たちの生活水準を上げ、いま発展途上国が同じことをしようとするのを妨害するのか、という議論である。かつてマレーシアのマハティール・モハマド首相が、「自分たちがさんざん木を切っておいて、いまさら我々に熱帯雨林を伐採するなというのか」と憤ったのと同じ論理である。米国が数値で規制されるのを嫌がるのも、この中国やインドとの競争力の問題があるからだ。ただ京都議定書のように中国やインドを規制の範囲外にしてしまえば、競争力の問題だけではなく、温室効果ガスを大量に排出する“ダーティプラント”がそういった国へ移っていくことにもなりかねない。

 発展途上国と先進国の対立だけではない。いまのところEU(欧州連合)は温室効果ガス削減の優等生だ。しかしこれには、EUに続々と加盟している東欧諸国の効率が悪い工場が閉鎖されるなどの「裏技」があるからだと解説されている。EUと同じペースで削減を要求されたら、日本企業は著しく不利になると不平を言うのもうなずけなくはない。

 これらの問題をすべて解決してポスト京都の枠組みをつくることは、そう簡単ではない。しかも世界はいま、欧米対ロシアという「新しい冷戦時代」に入るか入らないかの瀬戸際にある。温室効果ガス規制という全地球的な問題を話し合うには、あまりいいタイミングとはいえないのである。

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