商用車が携帯通信モジュールを積むわけは 神尾寿の時事日想:

» 2007年06月08日 02時18分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 5月31日、いすゞ自動車とKDDIが商用車向けテレマティクスサービスを「みまもりくんオンラインサービス」の新バージョンを発表した(5月31日の記事参照)。同サービスは日本の商用車向けテレマティクスの草分けであり、ECU(エンジン制御コンピュータ)と通信モジュールを直結し、オンラインで管理する商用システムとしては世界初だ。いすゞ自動車によると、すでに同社製のトラック1万2千台で運用されているという。

みまもりくんオンラインシステムの車載端末(左)。みまもりくんに搭載されるKDDI製モジュール。CDMA 1X WIN相当の通信機能とGPS機能を備える(右)

 みまもりくんオンラインサービスの柱は、大きく3つある。

 1つは「低燃費運転支援」。これはECUのデータをもとにドライバーの運転パターンを分析し、エコドライブ技術を点数化。さらに燃費に悪いアクセル操作やスピードの出し過ぎを警告するものだ。いすゞ自動車では古くからトラックの省燃費運転技術を研究し、1995年からはトラックドライバー向けの「省燃費運転講習会」を実施してきた。そのノウハウが、低燃費運転支援システムに生かされている。

 2つめの柱は「安全支援」だ。これはECUのデータや運行記録をもとにした車両メンテナンス支援と、事故などトラブル発生時の緊急通報システムのふたつの機能による。物流におけるトラブルや事故は、事故そのものの被害だけでなく、輸送が中断することによる経済的な損失も大きい。それらを防ぎ、いざという時に経済的損失を最小限に抑えるのが目的だ。

 3つ目の柱が、トラックの「運行管理システム」である。みまもりくんオンラインサービスでは、全車両が通信モジュールを搭載し、オンラインでセンターに結ばれる。トラックの位置や目的地到着予想時間を正確に把握することで、ロジスティクスの精度を向上。物流における無駄やムラを最小限にする効果がある。

 さらに今回の新みまもりくんオンラインサービスでは、車載端末が国土交通省の定めるデジタル式運行記録計(通称:デジタコ)の認定を取得。国土交通省が定める運行記録データの収集も、オンラインで行えるようになった。

みまもりくんオンラインシステムのシステム概念図

原油高が商用車テレマティクスの追い風

 このように、みまもりくんオンラインサービスは、通信システムを活用することで「輸送のクオリティ向上」に多大な貢献を果たす。

 この市場で最も強い“追い風”になっているのが、昨今の慢性的な原油高による燃料費の高騰だ。商用車が使う軽油の小売価格は2001年後半を底値に値上がりし、現在では最安値の頃の1.5倍まで高騰した。一方で、輸送時業者間の競争が激しいことから、燃料費の値上がり分をそのまま荷主に請求できない状況が続いている。みまもりくんの省燃費支援システムを導入・徹底するだけで「15〜20%の燃費向上が見込める」(いすゞ自動車)というのは、輸送事業者が導入を検討するのに十分な理由となる。また、燃費低減をすることは、そのままCo2排出量の削減にもつながるため、環境貢献イメージも獲得でき、一挙両得だ。

 さらに、いすゞ自動車は今後みまもりくんオンラインサービスを、自社製のトラックだけでなく、他社の商用車やバスなどにも拡大する考えだ。また海外市場向けの展開も視野に入っているという。

 国内の貨物輸送におけるトラック輸送の比率は91.3%、トラックは約690万台、バスは23万台が稼働している。この市場に対してはいすゞだけでなく、ドコモやKDDIも独自にGPSロケーションシステムとしてアプローチしている。

 また、海外の商用車テレマティクス市場では、ダイムラークライスラー、ボルボ、ボッシュなどの自動車メーカーやソリューションサプライヤーのほか、新興のPND※メーカーであるオランダのTomTomなども参入しており、今後の需要拡大期に一気にシェアを穫ろうと虎視眈々だ。

PND……Personal Navigation Deviceの略。小型・軽量・安価なポータブルカーナビのこと、5月18日の記事参照

 原油高騰への対応と、環境負荷低減ニーズの高まり。さらに高度化・複雑化する物流・輸送需要など、商用車テレマティクスのニーズは明確であり、その必要性は日増しに高まっている。まさにこの市場は“夜明け前”であり、いすゞなど先行者グループ以外にも、新たなビジネスの可能性がありそうだ。注目しておいて損はないだろう。

オランダのPNDメーカー TomTomの商用車テレマティクスサービス。配送業者向け運行管理サービスを提供する(左)。ドイツのソリューションサプライヤー、ボッシュの「トレーラーテレマティクス」。トラックの位置把握や遠隔監視、盗難防止システムなどを備える(右)

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