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» 2007年06月05日 09時18分 UPDATE

山口揚平の時事日想:消費者金融は“悪”なのか?――じゃあ、誰が貸してくれるのさ? という素朴な疑問

かつての“サラ金”という呼び名に伴うイメージを払拭しながら急成長した消費者金融。しかし今、消費者金融は岐路に立たされ、大幅なビジネスモデルの変革を迫られている。そもそも消費者金融とはどのようなビジネスモデルなのかを見てみよう。【図版追加】

[山口揚平,Business Media 誠]

著者プロフィール:山口揚平

トーマツコンサルティング、アーサーアンダーセン、デロイトトーマツコンサルティング等を経て、現在ブルーマーリンパートナーズ代表取締役。M&Aコンサルタントとして多数の大型買収案件に参画する中で、外資系ファンドの投資手法や財務の本質を学ぶ。現在は、上場企業のIRコンサルティングを手がけるほか、個人投資家向けの投資教育グループ「シェアーズ」を運営している。著書に「なぜか日本人が知らなかった新しい株の本」など。


 消費者金融が追い込まれている(5月16日の記事参照)。金融庁の上限金利の引き下げにより、各社とも大規模な引当金費用を計上し、2007年3月期の決算では大きな赤字となった。

 最近は「過払い金の請求」の“商売”も大変繁盛しているので、電車のつり広告を見かける人も多いだろう。だが広告文面の「輝いていた頃のあなたを取り戻しましょう!」というメッセージを見て、「借り主の立場に立つというより、司法業者の回収報酬のためではないか」という印象を強く感じる人も多いのではないだろうか。

結局、誰が貸すのか?

 金融庁による消費者金融の締め出しの是非はともかくとしても、問題は、消費者金融が締め出された後、今度は誰がお金を貸すのかということである。いくら供給を制限しても、「借りたい」という需要がなくならない限りは、問題は解決しない。景気は回復しても年収格差が広がる中、借り手の需要が大幅に縮小することはどうやらなさそうだ。お金が必要な人が規制の届かないヤミ金に流れ、今以上の暴利を要求され、厳しい取り立てに耐えかねた結果、自殺者が増える……というシナリオは、容易に想像できるだろう。

 こういった事態を危ぶみ、政府も日本版グラミン銀行(4月24日の記事参照)の創設やNPOバンク、社会福祉協議会によるセーフティネット貸付などを検討しているが簡単ではないはずだ。政府が行うべきは、業者の金利に“キャップ”をはめることではなく、金融業者の業務プロセスを審査して悪質業者を参入させない仕組みを整えることではなかったか。

消費者金融は「悪」なのか?

 悪者になりがちな消費者金融だが、そもそも消費者金融は、「悪」なのだろうか。

 ビジネスモデルだけを見てみれば、消費者金融もメーカーなどと同じく、安く仕入れて高く売ることで利益を上げるというシンプルな構造である。ただ違うのは、モノを作らず、仕入れるのも売るのもお金そのもの、という点にある。問題が生じるのはビジネスモデルそのものではなく、運営面(取り立てが厳しい、それが違法な手段で行われることがあるなど)といえる。

 もう1つしばしば問題になるのが貸し付ける時の高い金利だが、今後は金利制限(上限20%)と貸付の総量規制(年収の3分の1)によって、売上には「蓋」がされることになるから(5月16日の記事参照)、コスト面での戦いを余儀なくされる。

 消費者金融の業績を決めるのは大きく以下の3つのコストだ。

(1)お金を調達する仕入コスト

(2)貸付する客を探すコスト

(3)お金を回収するコスト

 まず、お金を調達するコストを見てみよう。消費者金融にも仕入れコストがある。つまり、消費者金融自身もどこかからお金を借りているということだ。この仕入れコストは、金利の上昇により中長期的には上がってゆくだろう。

 次に、顧客を効率よく集めるためのコストが必要となる。今まではアイドルを使って大規模なテレビ広告を展開してきたが、それも難しくなる。今後は、投資対効果がより明確になるインターネット広告が積極活用されてゆくだろう。

 貸し付けたお金の回収も、これまでのように“力業”で回収していくわけにはいくまい。お金を貸す時点で、借り手の担保能力だけでなく、客がお金を何に使い、どう返済するのかといった将来計画を、銀行のように丁寧に見てゆくことも必要になるだろう。

 以前、本連載でバングラデシュのグラミン銀行について紹介したが(4月24日の記事参照)、グラミン銀行と日本の消費者金融の大きな違いは、前者が自分の店の出店資金などの“投資”的な資金を提供するのに対し、後者は名実ともに“消費”的な行動のための融資であるという面だ。

 現在、消費者金融で借りたお金の使い道としては、男性は飲食やギャンブル、女性は収入の減少やぜいたく品が多い。しかし今後は、生産的な使い方に対してお金を融通するモデルへシフトしなければならないだろう。つまり顧客の「担保・返済能力」よりも、「借り入れ意図」のチェックを重視し、従来の銀行業務のように借り手のリスクに応じて、金利を柔軟に変更するなどの対応をすべきだということである。すでに消費者金融と銀行の相互乗り入れも盛んで、いくつかの消費者金融は銀行の傘下にある。

消費者金融5社を比較

 こういった面から、2007年度の決算をもとに消費者金融各社を比較してみよう。

 まず規模が一番大きいのはアイフルで、営業収益、総資産ともにトップである。一方、自己資本比率を見ると武富士と三洋信販が30%と高く両者は財務的な安定性が高いと考えられる。各社とも今期は大幅な赤字を余儀なくされた。過払金の返還に備えて、貸倒引当金を計上したためだ。

ay_yy01.gif 売上、利益、純資産、時価総額で5社を比較する(クリックすると図全体を表示)

 ここから先の利益は、金融庁の方針に依存するだろう。もし金融庁が消費者金融への厳しい措置を少しでも緩和するならば、前期に各社が引き当てた貸倒引当金が戻ってくることになる。そうなると、引当率の高かったアコムや武富士の利益は短期的に上がることになるだろう。逆に、今の方針を貫くのであれば、引当率の低い(相対的に与信力のあると想定される)三洋信販やアイフルの利益が大きくなるだろう(5月31日の記事参照)。だが、アコムも積極的に改革を進めており、新規融資について金利を年12〜18%に引き下げたり、イーバンクと提携するなど新しい路線を探っている(6月4日の記事参照)。そのためか、市場からの評価もアコムは高く、時価総額は7300億円とトップである。

ay_yy02.gif 貸倒引当金の罠(クリックすると図全体を表示)

 いずれにせよ、今回の改革によって消費者金融業界全体が、コスト構造の見直しと大幅なビジネスモデルの変革を迫られることになるだろう。その過程において、今までの高金利と回収力を元としたビジネスモデルから、低金利でも顧客の長期的な資金需要に対応できる真の“生活者金融”が民間から出てくるきっかけになれば幸いだと思う。

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