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» 2007年05月30日 08時41分 UPDATE

神尾寿の時事日想: auがおサイフケータイに“本気”になった理由

おサイフケータイに対して積極的な通信キャリアといえばドコモ、が従来は定説だった。しかし2007年の夏モデルを見て感じるのは、KDDIがおサイフケータイの普及に本腰を入れ始めたということだ。その理由は?

[神尾寿,Business Media 誠]

 au、ソフトバンクモバイルの夏商戦モデル発表から1週間が経ち、“ケータイ夏の陣”を前にしたメディアの報道合戦も落ち着き始めている。5月25日には、ドコモが先陣を切り、「FOMA N904i」と「SH904i」を発売。2in1の初日トラブルという不運に見舞われたものの(5月26日の記事参照)、いよいよ夏商戦の幕が切って落とされた。ドコモの反撃が見事に決まるか、それともauとソフトバンクモバイルがいっそう躍進するか。ここから先は店頭での勝負になる。

 さて、前回のコラムでは触れなかったが、今年の夏商戦モデルには注目ポイントがもう1つある。それは「auのおサイフケータイに対するスタンス」である。

si_au07s-07.jpg 第二世代モバイルFeliCa ICチップの特徴を使った新機能「Touch Message」。FeliCa端末同士でデータのやりとりができる

 auの夏商戦ラインアップを見渡してみると、おサイフケータイが多いことに気づく5月22日の記事参照。auのおサイフケータイであるEZ FeliCa対応機種は11モデル。今回、発表された夏商戦ラインアップは全部で15機種だが、主力になるCDMA 1X WINのラインアップ12機種の中でEZ FeliCa非対応なのは、シンプル路線でマイナーバージョンアップの「W44K II」のみという状況だ。実質的な新商品である11機種はすべておサイフケータイになっている。auは今年の春商戦から、第2世代モバイルFeliCaチップの搭載を開始し、おサイフケータイのラインアップを増やしてきたが、夏商戦ではそれが徹底された形だ。

 さらに今回、auはモバイルFeliCaを使った新機能「Touch Message」を投入。FeliCaを使ったサービス面でも、これまでの“ドコモの後追い”という状況を打ち破った。昨年の夏商戦では、auはおサイフケータイ分野に極めて消極的な姿勢だったが、今年は老舗のお株を奪う勢いの積極姿勢だ。auが、いよいよおサイフケータイに「本気になった」ようだ。

auの方がおサイフケータイの利用促進で有利

 これはFeliCaのサービスを提供する事業者にとって、良い傾向と言えるだろう。なぜならauのユーザーの方が、おサイフケータイの各種サービスを積極的に活用する傾向にあるからだ。筆者がこれまで取材した先行導入事例でも、「auユーザーの利用意欲や利用率は高い」という声はよく聞いてきた。

 なぜ、auユーザーはおサイフケータイと“相性がいい”のか。

 その鍵になるのが、auユーザーのパケット料金定額制の加入率だ。auではダブル定額など加入しやすい定額制プランを導入、同時に音楽分野を筆頭に魅力的なリッチコンテンツサービスを訴求したことにより、WINユーザーの定額制加入率は約77%と高い。これに対してドコモのFOMAでは、パケット料金定額制加入率が27%しかない。

 この定額制の環境下で、auユーザーは様々なコンテンツやサービスを積極的に使っているので、新たなサービスに対する感度やリテラシーが高いのだ。ここがおサイフケータイ分野でも有利に働く要因になっていると考えられる。

 また、ユーザー心理でも、電子マネーのチャージやポイントの確認や交換で「従量制のパケット料金」は使いたくないだろう。定額制ならばこそ、おサイフケータイの様々なサービスに利便性を見いだせる。極論すれば、おサイフケータイ利用の前提は「パケット料金定額制を利用していること」であり、その加入率がドコモより高いauには、おサイフケータイの利用促進がしやすい土壌がある。

auとトヨタファイナンスの連携にも注目

ay_toyota02.jpg トヨタファイナンスが発行する「TS3 CARD (ティーエスキュービック)」ユーザー用のQUICPayアプリ。auの2006年秋モデル以降のおサイフケータイにプリインストールされている

 さらにauのおサイフケータイでは、トヨタファイナンスのQUICPayとの連携も注目である。auは昨年の冬商戦からすべてのおサイフケータイにQUICPayのアプリをプリインストールしており(2006年8月の記事参照)、トヨタファイナンスはこのQUICPay分野において、目下、JCBを上回る姿勢と勢いで会員を増やしている(3月20日の記事参照)

 auとトヨタファイナンスの連携は、東京にいるとあまり気付かないかもしれない。しかし、トヨタファイナンスのお膝元である名古屋では、今年に入ってから積極的に行われている。名古屋ではトヨタ本社が入るミッドランドスクウェアを筆頭に、駅前から繁華街にQUICPay加盟店が急増。auとトヨタファイナンスは共同で、QUICPayの会員獲得と利用促進のキャンペーンを行っている。

 トヨタファイナンスではクレジットカード事業「TS CUBIC CARD」とトヨタの国内販売ビジネスのポイント連携を重視しており、その中でQUICPayは“新規顧客層”獲得の戦略的な取り組みと位置づけている。ここに、auのおサイフケータイと連携していく鍵がある。

 「TS CUBIC CARDはトヨタ車と連携するカードなので、カード所有者は男性が多い。年齢層も高めで30代後半から50代にかけてが現在主流の顧客層になります。家族カードの発行数も相当数ありますが、メーンの会員様が年齢層の高い男性であるのは事実です。

 そこでトヨタファイナンスがQUICPayの普及を推進する狙いには、『女性層の会員拡大』があります。auのおサイフケータイと(プリインストールされた)QUICPayによる会員獲得では、トヨタディーラーや(提携カードを発行する)JOMOを窓口にするのとは違う会員獲得ができる。ここは女性層や若年層にリーチしやすいですし、相当な力を入れていきます」(トヨタファイナンス 執行役員 総合企画部長の後藤清文氏、(2006年9月の記事参照)

 おサイフケータイに本気になったauと、おサイフケータイに期待するトヨタファイナンス。この組み合わせは、ドコモと三井住友カードや、JR東日本に匹敵する市場の牽引力を持つだろう。

 質と量の両面で、auがおサイフケータイ分野に力を入れてきた波及効果は、想像以上に大きくなるかもしれない。

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