“超リアルな麻雀ゲーム”の次は“誰も作ったことのないゲーム”を作りたい――シグナルトーク栢孝文社長

» 2007年05月23日 14時07分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

 1999年セガに入社、2001年にはソニーへ転職したが、ゲーム業界の閉そく感から、2002年にシグナルトークを立ち上げたシグナルトークの栢孝文社長(かや たかふみ)。その後、ゲームの開発資金をファンドで調達、商品がヒットしたため出資者に利益を還元してきた。成功報酬として従業員には、利益の50%を分配するなど、新風を巻き込んできた。

 同社の主力商品がオンライン麻雀ゲーム「Maru-Jan」だ。特徴はリアルな表現を追求したこと。全自動雀卓メーカーと提携し、「牌の混ざり具合」を徹底的に研究した。

 シグナルトークでは「下請けはしない」という方針で、これまでゲーム作りにこだわってきた。納期など制約が多い下請けの立場では、品質の高いゲームを作ることができないという。そのためポータルサイトと提携することで、“対等な立場”として商品を提供してきた。

 これまで急成長を遂げてきた同社にとって、次なる狙いは何か。企画中だという“まだ誰もが開発していない”について、その構想を聞いた。

「Maru-Jan」では画像や点棒の音など細部にこだわり、全自動卓を再現させたという

方針として、下請けはしない

 

 ――外部スタッフを含め60人ほどと少ないですが、ゲームの企画から販売まで自社で行っています。

 「企画、制作、販売、運営、サポートまで一環して行っている。企画だけ、販売だけ、という会社が増えている中で、『効率が悪いのでは』という指摘がある。しかし、それは逆だと思う。トラブルが発生しても、素早く対応できる強みがある。さらに良い情報と悪い情報を、社員全員で共有できるというメリットが大きい」

ポータルサイト提携の狙いを語るシグナルトークの栢孝文社長

 ――ポータルサイトの提携を積極的に進めていますが、その狙いを教えてください。

 「22社とのポータルサイト提携は戦略の1つだ。その理由として『下請けはしない』という方針がある。高品質のゲームを作るためには、納期が決まっている仕事では、物理的に追求できない。下請けの場合は納期が決まっていて、内容まで決まっているケースが多い。そのためクオリティまで決まりかねない。そうしたリスクを懸念しているため、ポータルサイトとのコンテンツ提携を積極的に結んでいる」

 ――クリエイターが活躍できる場を作る、という会社のビジョンがありますが。

 「日本のゲーム産業の発展を実現させるため、クリエイターの“理想郷”を作ろうと考えている。クリエイターの世界は『好きなことをやっているから、安月給でも十分』といった風潮がある。だがヒット作が出た場合、それに見合った報酬でなければ、人材の確保が難しいと思う。

 昨年の売上は2億3000万円だったが、今年は4億円を目標としている。これまで年2倍成長を続けているので、決して難しいことではないはずだ。昨年の賞与は年10カ月だったが、今年は20カ月を目指している」

Maru-Jan登録者の実績数

 ――なぜオンラインで対戦できる麻雀ゲーム「Maru-Jan」を開発しようと思ったのですか。

 「これまで多くのゲームを作ってきて、本当に麻雀が面白いと感じた。なんで面白いんだろう、と自問を続けた結果、実際の麻雀を超えるゲームを作ることを決意した。麻雀をどこまでデジタル化できるのか、リアルな麻雀を再現しよう、というアプローチで始めた。

 配牌などでイカサマを仕組んでいるのではないか、という問い合わせも多い。開発にあたって全自動卓を製作している『大洋化学』と提携し、牌の積み方までプログラムに反映させた。さらに点棒の受け渡しの音など、細部に渡って全自動卓の雰囲気をゲームで再現させた」

 ――ゲーム作りにおいて、大切なことは何でしょうか。

 「ゲームによって違うが、何か1つのことを考えていればいい、ということではない。営業的な視点や開発のバグを少なくする、コンセプトを守るなど、偏った考えだけではゲームを作ることは難しいだろう。絶対に忘れてはいけないこととして、プロジェクトのベストを尽くすことだと思う。

 世界のトヨタでも常に改善を続けている。まして生まれたばかりのベンチャー企業では問題が山積みだ。いかに改善をして、ベストを尽くすかが大切ではなかろうか」

 ――これまでにない新しいゲームを構想中だと聞いてますが。

 「CGM的(Consumer Generated Media インターネットを利用してユーザーが内容を生成していくメディア)なオンラインゲームを考えている。ユーザーがコンテンツを作っていくようなゲームだ。会社としてはインフラを作って提供していく。例えばmixiやYouTubeに近いモデルだと思ってほしい。

 CGM的なゲームは、まだ世間では作られていない。Googleが急成長したように、ゲームの世界でも変化が速い。数年後には現在の大手ゲームメーカーを超えるような企業が生まれてくるかもしれない。もし一緒に『次世代のCGMゲームを作っていきたい』というプログラマーがいれば、連絡をしてほしい(笑)」

起業してみてから考えればいい

 ――社会貢献として、寄付をしているそうですが。

 「1月には土日(2日間)の売上50%を赤十字に寄付した。さらに能登半島地震の義援金として、4月には火曜日の売上20%を寄付した。こうした貢献は、オンラインゲームの会社では、初めての試みではないか。

 寄付をするにあたって、社員全員と話し合った。利益の半分を分配するという給与システムのため、寄付をすることは社員の報酬に関係してくる。『売名行為と批判されるのでは』という意見もあったが、被災地などにお金が届くのか、届かないのか。こう考えると『届く方がいい』ということで決定した。

 あと社会貢献は、社員のモラル向上にもつながると思う。社会貢献をしてからは『寄付をする会社が不正はしないだろう』といった声を各方面から聞いている。こうした声に対し、社員は意識を高めていかなければならない」

 ――起業を考えている人たちにメッセージをお願いします。

 「準備はしない方がいいと思う。資金面や事業計画など、色々な準備があると思うが、実際に起業してみないと分からないことがたくさんある。独立してみないと、たどり着けない知識があるし、社長という立場になれば、それまで会えなかった人たちと接する機会が増える。

 例えば、釣りに行こうとしている人が、経験もないのに釣りのことを計画しても意味がない。まずは1回釣ってみないと、分からないことが多い。それと同じことで、起業したあとから、様々なことを考えていけばいい」

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