au、ソフトバンク、ドコモ――三者三様で挑む「ケータイ夏の陣」 神尾寿の時事日想

» 2007年05月23日 12時27分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 5月22日、KDDIの携帯電話ブランドauとソフトバンクモバイルが、相次いで今夏商戦向けの新モデルを発表した。auは15機種、ソフトバンクモバイルは13機種を発表。昨年からのトレンドである地上デジタル放送「ワンセグ」に多くの機種が対応したほか、日常利用で便利な「防水」、チタンやアルミを使った「金属外装」、スタイリッシュな「スライドモデル」など、両キャリアともに多様な端末をお披露目した(参照記事1参照記事2)。

 今年の夏商戦向けモデルとしては、4月23日にNTTドコモがハイエンドモデルの「FOMA 904iシリーズ」5機種を発表済み(4月23日の記事参照)。これに加えて、夏商戦後半に向けてスタンダードモデルの「70xシリーズ」や派生モデルの追加発表があると予想されるが、とりあえず携帯電話3キャリアの夏モデルが出そろった格好だ。

904iだけでは、“準備不足の反撃”

 「さて、そろそろ反撃していいですか?」

 挑発的なキャッチコピーと、赤い星マークが街中にあふれている。「ドコモ2.0」と銘打たれた、ドコモの広告キャンペーンだ。昨年のMNP開始以降、新規契約者の獲得競争で“ひとり負け”の苦杯を飲まされたドコモが、「そろそろ本気を出しますよ?」というメッセージらしい。

FOMA 904i発表会で「DoCoMo 2.0」のロゴの前で話す夏野剛氏

 ドコモによると、ドコモ 2.0は携帯電話サービスやビジネスが大きく変わる契機であり、その“最初のステップ”が今夏商戦という位置づけだ。その先陣を切る904iシリーズでは、2つの電話番号・メールアドレスを1台の端末にまとめられる「2in1」をはじめ、モーションセンサーを使った「体感ゲーム」や、音楽分野でのブランドイメージ逆転を狙う「うた・ホーダイ」など、新サービスを意欲的に投入している。

 しかし、誤解を恐れずに言えば、904iシリーズと一連の新サービスだけでは夏商戦で「反撃」するのは不可能だ。au、ソフトバンクモバイルの返り討ちに遭う危険性すらある。

 なぜなら、店頭での競争で重要な“端末ラインアップの訴求力”が圧倒的に不足しているからだ。904iシリーズの機能や性能が大きく劣るわけではないが、端末数とバリエーション感が足りない。ラインアップ全体で見たときの、質感や高級感でも他社に比べて見劣りしている。また、2in1や体感ゲームといった新サービスが、訴求に時間がかかる説明商品であるのも不利なポイントだ。

 店頭、特に新規契約獲得やMNPの主戦場である量販店での競争では、消費者が各キャリアの端末を見比べる「相対評価」になる。そのためドコモ以上の端末ラインアップを他社が揃えれば、店頭で不利になるのは避けられない。auとソフトバンクモバイルが端末ラインアップで強力な布陣を敷いてきただけに、904iシリーズの“援軍”になる704iシリーズの陣容をどれだけ強化できるかが、ドコモが今夏から反撃体制を取れるかの鍵になりそうだ。

auは、多様さと高機能をバランス

 auの夏商戦向けモデルは、多くのモデルでワンセグを搭載したほか、入浴時に利用を想定した防水ケータイや、ウォークマンやEXLIMといったブランドコラボレーション、アルミやステンレスを使った金属ボディの端末など、多様なラインアップを揃えた。

カシオ計算機のデジカメ「EXILIM」ブランドを冠した「EXILIMケータイ W53CA」

 サービス面では、従来から先行していたGPS機能の活用を強化。災害時に帰宅支援を行う「災害時ナビ」を軸に、歩行者ナビゲーションサービスにタウンガイド機能を付加する「EZガイドマップ」などを投入する。さらにコミュニケーション分野では、モバイルFeliCaを使った「Touch Message」、メール機能を拡張した「ラッピングメール」などを用意した。

 auはMNPにおいて大きく契約者数を延ばしたが、MNP最大の商戦期だった“春商戦”を終えて、再び市場にテコ入れをしたい考えだ。KDDIコンシューマ事業統括本部長の高橋誠氏は、「夏に向けてMNPをもう1度動かしたい」と意気込む。

 夏商戦の布陣にもそれが現れている。端末やサービスの内容を高水準でバランスさせながら、様々なライフスタイルに合うようコンセプトの多様化を図っている。一言でいえば、“そつのない”陣容だ。

 さらに今回、au最大の武器になりそうなのが、“端末価格”である。今回の夏商戦モデルはどれもコストパフォーマンスが高く、「販売価格は1万円台が中心になる。2万円を超える機種はわずかしかない」(KDDI関係者)という。店頭価格が抑えられたのは、auが持続的に取り組んできたプラットフォーム(端末基盤)の共有化施策の奏功によるところが大きい。またauでは今年の年末商戦向けラインアップで新世代のプラットフォームに移行する計画であり、現行プラットフォームを使う夏商戦ラインアップが、“コスト的にこなれた”ことも有利に働いている。店頭価格が安く設定できることは、これから夏商戦を迎える上で追い風になりそうだ。

 一方で今回のラインアップには、auの弱点も垣間見える。かつてのauが掲げていた「音楽とデザイン」や「先進性」のイメージが、薄れてしまったことだ。ラインアップやサービス全体が総合力重視になったこともあり、auの姿勢やメッセージが明瞭さを失い、ぼやけてしまっている。ドコモと正面から戦いながら、ドコモとの違いをどう打ち出すのか。それが今後の課題になりそうだ。

ソフトバンクは「スタイル」で勝負

 「他社との違いは、“スタイリッシュ”にこだわり抜いたこと」

 ソフトバンクモバイルの孫正義社長は、そう断言する。夏商戦のキーワードは、まさに「スタイル」だ。

「fanfun 815T」のハローキティコラボレーションモデルについて説明する孫正義社長。外装パネル、裏面、内面、メニュー画面や待受画面をすべてキティ仕様で着せ替えられるほか、外箱もキティで“お店から帰るときから楽しい”

 端末ラインアップの充実ぶりは特筆すべきものがある。シャープ製の新AQUOSケータイ「912SH」、ディスプレイ部にセンサーキーを備えたフル画面デザインが特徴の「FULLFACE 913SH」のハイエンドワンセグ端末2モデルをツートップに、外装にチタン素材を使った「814T」、2億4000万パターンの組み合わせを実現したトータルコーディネートケータイ「fanfun 815T」、パナソニックモバイルコミュニケーションズ製のスライド端末「810P」、さらにWindows Mobile 6 対応端末「X01T」などスマートフォン2機種が加わる。また、全機種、スリムさを軸にしたスタイリッシュなデザインと、上質かつ豊富なカラーバリエーションを重視。ラインアップの質と量の充実ぶりは他キャリアを圧倒している。

 ソフトバンクモバイルは以前から店頭での競争力・訴求力を重視しており、端末ラインアップの充実に力を入れてきた。今回の夏商戦モデルもその傾向が顕著であり、特に家電量販店での注目度では、ドコモやauを上回るのは間違いないだろう。

 ソフトバンクモバイルは「ホワイトプラン」をはじめとする料金プランの魅力で新規契約者を獲得。今年の春商戦からは端末ラインアップの訴求力も増してきたが、今回の夏商戦モデルでは一足飛びに他社を上回る競争力を得た。

 しかしその一方で、基地局整備によるエリア拡大では当初の公約が果たせないなど、インフラ面での弱さは依然として残る。今回の端末ラインアップでは、ドコモを上回る8機種のHSDPA対応端末を発表したが、HSDPA対応基地局数は「約8000局」(孫氏)という状況であり、地方展開は進んでいないという。料金と端末の分野ではスピード感のある舵取りを実現した同社だが、“インフラ整備”の面ではスピードを上げられずにいる。また、ソフトバンクモバイルは「都市部で強いが、地方郊外で弱い」という構図も残っており、これらのミスマッチの解消が、夏商戦に向けての課題になりそうだ。

 MNP最大の商戦期が終わり、三者三様の姿勢で臨む2007年の夏商戦。その趨勢は短期的な勝敗のみならず、中期的な業界動向にも影響しそうだ。

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