インタビュー
» 2007年05月11日 08時00分 UPDATE

EC最前線インタビュー:Web2.0はお金にならない――ネットプライス・東園基恒氏

“インターネットでモノを売る”ECサイト。本連載では、注目のECサイトを運営する会社に、現場の目線で「ECの今」を語ってもらう。第1回目に登場するのは、PCサイト、携帯サイト両方を運営し、共同購入「ギャザリング」を特徴とするネットプライスだ。

[吉田卓司,Business Media 誠]

 インターネットを利用した電子商取引、EC(Eコマース、Electronic Commerceとも)が急速に普及している。PCを使ってネットでモノを買うのは、今や当たり前。例えばAmazon.co.jpは、大手リアル書店をしのぐ勢いで成長を続けている。またECサイトのうち、携帯インターネットを利用して買い物をする「モバイルコマース」も一般的になってきた(2005年6月の記事参照)。ゼイヴェルがF1、F2層をターゲットに運営するECサイトガールズウォーカーなどは、1日平均300万人もの利用者数を誇る。

 最近はこのように、リアル店舗とはまた異なるラインで成長を続けているECサイトが多数存在する。本連載では、自身も大手ECサイト「Oisix(おいしっくす)」の立ち上げ・運営に携わり、現在はECコンサルティング業務も行っている吉田卓司氏がインタビュアーとなって、ECの最前線で活躍するトッププレイヤーに話を聞いていく。

ネットプライスの「ギャザリング」とは?

 連載第1回に登場するのは、「ネットプライス」の東園基恒(ひがしそのもとつね)氏。ネットプライスは、商品の購入申し込み者が増えるごとに、商品の価格が段階的に安くなるという、インターネットを使った共同購入の仕組み「ギャザリング」を特徴とするECサイトだ。

ay_higashisono.jpg ネットプライス販売本部シニアマネージャー兼モバイル統括の東園基恒氏

 ネットプライスでは2000年3月からギャザリングを導入したECサイトをスタート。また、同年9月からは携帯向けECサイトの「ちびギャザ」も運営している。現在の売上比率は、PCが4割に対して、携帯は6割と、携帯のほうが売上が多い。

 ネットプライスでは、現在1500のメーカー、ベンダーから商品を仕入れている。販売する商品ジャンルは、ファッション、美容・化粧品、生活雑貨、家電製品、食品などさまざまだ。1つの商品の販売期間は1週間程度で、この間に雑誌・テレビ・ラジオやインターネットなど約150の提携媒体と連携して集客を行う。多いものだと、1万件以上の申し込みを1週間で集めるという。

ay_netprice00.jpgay_netprice03.gif PCサイトのネットプライス(左)と、携帯向けサイトのちびギャザ(右)

ユーザーの7割は女性、30代女性が最も多い

吉田:東園さんは、ネットプライスでこれまでどのような仕事をしてきたのですか?

東園:最初は商品のバイヤーアシスタント。次にバックエンド、つまり受注管理やメルマガ配信など業務管理システム中心の仕事をし、既存顧客を活性化させるためのプロモーションの部署を経て、最後にネットプライスで一番売上の大きい、モバイル(編注:携帯インターネット部門)の販売統括になりました。

吉田:今、ネットプライスを利用するお客様はどういったユーザー層が多いのですか?

東園:女性が7割で、中でも30代半ばの方が中心です。20代後半の方もいらっしゃいますが、やはり30代の方が多いですね。

吉田:それは意外ですね。私のイメージでは、てっきり男性が若干多いか、半々くらいだと思っていました。

東園:男性の割合は少ないですが、客単価は男性の方が若干高いですね。しかし、顧客単価は総じて昔より上がってきているんです。つまりユーザーが携帯やショッピングに慣れてきたということだと感じています。

吉田:携帯ECでは「モバゲータウン」や「ガールズウォーカー」などが勢いがあり、全体的に若いユーザーが急増している印象があるのですが。ネットプライスでは、10代ユーザーの層は増えていないですか?

東園:実はあまり(10代ユーザーは)多くないのです。ショッピング市場の中心はやはり30代前後の女性ですからね。使えるお金の金額も子どもとは違いますし。

 でも、昔からのお客様も多いですよ。つまりお客様と一緒に成長してます。かなりコアなお客様も多くて、例えば、朝起きて携帯でチェック、その後会社に着いてPCでチェック……なんて方もいらっしゃいます。大変嬉しいことですよね。本当はそんなに(1日何回も)価格は変わらないのですが(笑)。

 とはいえもちろん、現在急増している若いユーザーの取り込みは課題だと思っています。

ギャザリングはコンテンツ

吉田:ネットプライスさんと言えば、「ギャザリング」を武器にJCBやイートレード証券、Gyaoなど、大手サイトに露出していく独自のアライアンス戦略で有名ですね。

東園:私たちは、ギャザリングをコンテンツとして捉えています。各提携先のコンテンツとして使ってもらえればWIN-WINの関係になると思いますし、実際にそうなっています。

吉田:この5年間ネットの最前線でお仕事をされてきて、笑える話、笑えない話があれば教えてください。

東園:ちょうどシステム中心の仕事をしていたころに、上場直後に基幹システムのアップグレードをしたんです。このときは、外の開発会社さんと一緒に行ったのですが全く新しいシステムだったので、準備も1年がかりでした。しかしリニューアル直後は(上場直後なのに)ダウンしてしまって、本当に眠れない日々を過ごしました。

吉田:あはは、確かに。Oisixも立ち上げ当初はシステムの不具合もあって2−3日寝れませんでした。注文は数件しかなかったのに(笑)。御社の場合、上場直後というのが厳しいですよね。投資家からのプレッシャーもありますし。

東園:そうなんです。それから、ちょうど上場前後から目標数字の詰め方が変わりましたね。

吉田:「おい! 今月のこの数字どうするんだ、お前!」みたいな感じですよね。

東園:ええ。予算もそうですね。これまで“目標数値”といってたものが“予算”に変わりました。

吉田:それはOisixも一緒です(笑)。逆に笑える話はありますか?

東園:ネットプライスが上場できたのはうれしかった話ですね。上場日に社長が証券会社から帰ってきたときは、みんなでエレベーターホールいっぱいに膨らませた風船を並べて、パーティー状態で迎えました。また(上場することで)会社の知名度が上がり、ベンダーさんからの商品提案や、業務提携の話もかなり増えました。よりよい商品を集めることができるようになったと思います」

5年前と今とで変わったこと

吉田:5年前と今でネットプライスにとって何が一番大きく変わったと思いますか?

東園:最も感じるのは“インターネットで物がこんなに売れるんだ”ということ。ネットショッピングが普通になってきたことです。ただし、当時はまだサービスも珍しかったのでやりやすいという感はありました。今は競合も増えてきましたからね。私たちがいくら売りたい商品であっても売れないんです。完全にユーザーにパワーシフトしています。売ろうとするのではなく、“売れるものを買いやすくする”という考えかたでいかないと駄目です。

吉田:具体的に言うと、例えばWebサイトの使いやすさとか?

東園:そうなんです。その観点で、最近はトップページの必要性がなくなってきていると思っています。

 お客様は欲しい商品が決まっている場合、商品の検索をかけてダイレクトに商品ページに行って購入されます。この場合、わざわざトップページを通す必要がなくなってきています。

吉田:なるほど、トップページがなくなる流れ、というのは興味深いですね。でも一方でお客様が店ではなく商品だけを見て買うのは、お店としてはブランドロイヤリティーを高めにくくありませんか。

東園:そうなんです。ユーザビリティの観点ではそこにあり、一方、ブランド観点で我々はそうしたくない、という乖離(かいり)があります。

Web2.0はお金にならない

吉田:いわゆる「Web2.0」についてはどのように考えていらっしゃいますか?

東園:お客様を主体にしてユーザーへのサービスを主軸にする、という意味では良いと思います。一方でWeb2.0に乗っかっても、それ単体ではお金にはならないと思います。ネットプライスもmixi内でコミュニティを立てていますが、結局一番売れるのはバナー広告経由なんですよね(笑)。mixiのバナー広告では、実は「毛抜き」が一番売れたんですよ。

吉田:毛抜き? それは何か秘けつでもあったんですか?

東園:秘けつはクリエイティブを作る仕組みです。このときのバナーは、ちょっと昼間は口にしにくい(刺激的な)ものだったので(笑)。

 一般的には、商品の説明文章やキャッチコピーといったクリエイティブはMD(商品開発)が作りますよね。でも、MDはどうしてもメーカー視点になってしまう。それでネットプライスでは、クリエイティブ専任の担当者を置いているんです。クリエイティブ担当者は、MDの商品プレゼンを受け、“消費者の目線”でクリエイティブを作ります。

吉田:確かにMDはどうしてもメーカーと接しているし、売り手目線になってしまいがちですね。実は、Oisixでも販促ページのキャッチは、販売担当が書いています。これは、ECが成功する秘けつかもしれませんね。

東園:それからmixiの企画は専門の担当がいて、普通の企業では考えられないことを考えるのが仕事なんです。例えば、高級ブランド“DOLCE&GABBANA”のケースでおにぎりを作ったりとか。そんな“ありえないこと”をした結果、そこでの口コミが発生し、認知が高まったと思います。

吉田:あはは! なるほど、企画でコミュニティの話題を作って認知・集客を高めていく、いわゆるバズマーケティングの手法ですね。

東園:mixiに参加している若い人は、面白いものを求めてるんですよ。だから我々は素直にそういった面白がってもらうコンテンツを作るんです。

ay_netprice01.gif mixiの中にある、ネットプライスのPR用コミュニティ
ay_netprice02.jpg mixiのコミュニティ内企画として作った「DOLCE&GABBANA」のケースを用いたおにぎり。見かけはコンパクトだが容量があり、大盛りご飯2杯分が詰まっているという

今、一番注目しているのは「ニコニコ動画」

吉田:最後に、注目されている企業、サービス、コンテンツなどがあれば教えてください。

東園:今一番はニコニコ動画ですかね。

吉田:確かに。先日再開してからすごい勢いで増えていますね。

東園:本当に上手いな、と思います。モバゲータウンとかもそうですが、最近の私のキーワードは「ライブ感」ですね。コメントがリアルタイムで入り、ライブで短時間にコンテンツが作られていく。そういうところがすごいな、と思うし、今後注目されると思います。

吉田:なるほど。「ライブ感」というのは、ネット特有だし、今後ECでも1つのキーワードになりますね。大変参考になりました。どうもありがとうございました。

筆者より一言……ECサイトの世界でも“ライブ感”が重要

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 いかがでしたか? 最後に出てきたキーワード「ライブ感」というのに、私はピンときました。

 最近、ジャパネットたかたさんが、インターネットでもライブで通販を始めています。その場でコンテンツがどんどん変わる“ライブ感”というのは、ECの世界でもコンテンツの魅力を上げる1つの手法だと思います。今後こうしたライブコンテンツによって、コンバージョン率を上げる施策が増えていくのではないかと思います。

吉田卓司:2000年にオイシックスを創業。代表取締役副社長として、感動食品専門スーパー「Oisix(おいしっくす)」を日本でもトップクラスの食品ECサイトに育てた。現在はECコンサルティングも行っている。


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