“3Gへの移行”が明暗を分けた、KDDIとドコモの2007年3月期決算神尾寿の時事日想:

» 2007年05月09日 00時00分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

 昨年、番号ポータビリティ制度(MNP)が導入され、何かと話題が多かった携帯電話産業。その中で、NTTドコモとKDDIの2007年3月期決算が相次いで発表された。

 まず、“飛ぶ鳥を落とす勢い”で好調なのが、携帯電話ブランド「au」が躍進するKDDIだ。同社の2007年3月期の決算は、携帯電話事業と固定通信事業の連結売上高は前年比9%増の3兆3353億円、営業利益は16.2%増の3447億円。増収増益という結果だった(4月24日の記事参照)。この好業績を支えたのが携帯電話事業で、auおよびツーカーブランドでの携帯電話事業の売り上げが前年比6.7%増の2兆6774億円、営業利益は同8.8%増の3857億円となり増収増益。固定通信事業の営業利益の−490億円を穴埋めする形になった。

 KDDIは新規契約層やMNPによる移行層に最も人気のあるキャリアであり、3月末の累計シェアは29.1%に達している。auが牽引した年度純増シェアも55.8%で、4年連続で純増首位の座を獲っている。

 一方、業界トップのNTTドコモは、売上高こそ拡大したものの、営業利益は前年比マイナスの増収減益である。2007年3月期の結果は、売上高が前年度比0.5%増の4兆7881億円、営業利益は前年度比7.1%減の7735億円。売上高は前年度比で222億円増えたが、営業利益は通期予想の8100億円を下回ってしまった。2006年度の純増シェアは30%と、好調auに比べると振るわなかった。

3G時代のコスト・ビジネス構造で明暗を分ける

 MNPや新規契約獲得において、確かにauは好調だった。しかし、MNPの利用率は開始前に言われたほどではなかったのも事実だ。KDDIが増収増益、ドコモが増収減益という結果になったのは、3G時代に向けたコストやビジネス構造の構築による差が大きい。

 ドコモが減益になった要因としては、端末販売数の増加で販売奨励金のコストが増したことと、FOMAの販売比率が増えたため端末調達コストが増加したことがある。FOMA基地局整備など設備投資負担も大きかったが、それ以上に「FOMA(3G)端末を作り、売れば売るほど損になる」構造が、営業利益に響いたのだ。実際、同社の営業費用は前年度比813億円も増加している。

 コストのかかるFOMAを売っても、キャリアの収益の柱であるARPU(月間電気通信事業収入)やMOU(月間利用時間)低下の下支えにそれほど貢献しなかったこともドコモの課題になった。今後のデータ通信ビジネスやコンテンツビジネス拡大の“基礎”になるパケット料金定額制の加入率が27%と低いのも問題である。

 一方、KDDIは3Gへの本格移行がドコモより早かったこともあり、3G端末の調達・販売コスト増大の抑制と、3GユーザーのARPU拡大を実現している。

 まず端末コストだが、auはクアルコム社製の統合チップセットを全メーカー・全機種が搭載し、基本機能ソフトウェアの多くを共通化するなどして、開発・製造コストを低減している。このような“共通プラットフォーム戦略”はドコモも推し進めているが、KDDIの方がいち早く着手し、リードしている分野だ。また販売コストの面でも、KDDIが支払っている販売コミッション(販売奨励金)の単価は通期で平均約3万7000円であり、2006年3月期と同水準に抑えた。KDDIはau端末の開発・製造から販売まで、全域にわたってコスト削減を徹底している。

 さらに高速データ通信に対応したCDMA 1X WINは、通期のARPUが8710円と高く、パケット料金定額制の契約率が77%と高い。WINの契約者はau全体の53%に達しており、この高収益な優良顧客層が拡大しているのも、KDDIの優位性になっている。

ドコモは2007年度に3G体制構築なるか

 3G端末のトータルコストを抑え、一方で、3Gによる高収益モデルを確立する。この「3G体制」構築で出遅れたことが、ドコモとKDDIの構造的な差になった。

 むろん、ドコモも手をこまねいているわけではない。共通プラットホームの構築・拡大や、通信機能とアプリケーション処理機能を1チップ化してコストを抑えたLSIの導入により、同社では2007年度をピークに端末調達コストは低減するとしている。今年後半の登場が予想される905iシリーズから、新世代プラットフォームの導入が始まるだろう。また販売コストに関しても、販売コミッション(販売奨励金)の抑制や専売チャネル(ドコモショップ)の整理統合で圧縮していく構えだ。さらにパケット料金定額制では、音楽配信サービスの定額化や高度化したゲームアプリ、オークション、映像コンテンツの拡充などを行い、契約率を増やす。

 一方、先行するKDDIは、プラットフォーム戦略をさらに進化させた「KDDI Common Platform」(KCP) を導入する。これにより端末の高度化をしながら、さらにコスト削減ができるという。

 携帯電話契約者数の右肩上がりの成長期が終わり、iモードから始まったコンテンツサービスの需要拡大も落ち着くなかで、携帯電話キャリアが“増収増益”で成長し続けるための舵取りは以前よりも難しくなっている。シェアや純増数の推移だけでなく、各キャリアの収益構造や次世代に向けた体制作りが健全に進んでいるかどうかも、注目である。

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