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» 2007年04月24日 04時50分 UPDATE

山口揚平の時事日想: ノーベル平和賞に輝く新しい銀行、グラミン銀行は“性善説”

成長意欲のある貧困層に、自活のための小口貸出を行うマイクロファイナンスが注目を集めている。慈善性と経済性を両立させるポイントは、そして消費者金融との違いは何だろうか。

[山口揚平,Business Media 誠]

著者プロフィール:山口揚平

トーマツコンサルティング、アーサーアンダーセン、デロイトトーマツコンサルティング等を経て、現在ブルーマーリンパートナーズ代表取締役。M&Aコンサルタントとして多数の大型買収案件に参画する中で、外資系ファンドの投資手法や財務の本質を学ぶ。現在は、上場企業のIRコンサルティングを手がけるほか、個人投資家向けの投資教育グループ「シェアーズ」を運営している。著書に「なぜか日本人が知らなかった新しい株の本」など。


 2006年のノーベル平和賞の栄誉は、バングラデシュの経済学者ムハマド・ユヌス氏と、同氏が創設したグラミン銀行に贈られた。ユヌス氏の功績は、“マイクロファイナンス”の普及にある。

 マイクロファイナンスとは、成長意欲のある貧困層に、自活のための小口貸出(平均5万円)を行なうもの。金利は月平均3%(年利20〜25%)程度であり、途上国の闇金融の金利(年利100%程度)よりはるかに低い。

 このマイクロファイナンスの素晴らしさは、“慈善性”と“経済性”の両立にある。世界の人口の70%を占めるといわれる貧困層への融資が、社会全体の富の増大に果たす役割は大きい。しかしそれだけでなく、このようなチャリティ的要素をビジネスベースでペイさせている点が評価される理由だ。マイクロファイナンスは金融のプロとしてもっともチャレンジングな領域であり、世界のエリートが今熱い視線を送っている。

貧しい人にお金を貸す――消費者金融とマイクロファイナンスはどこが違う?

 一般に言われる消費者金融とマイクロファイナンスの違いはどこにあるのか? それは、性善説と性悪説の違いだと私は思う。

 マイクロファイナンスでは、人間の経済力と倫理観は異なる、という基本的な考えから出発する。つまりお金があるかないかは、お金を返すか返さないかと関係ないということだ。それは単純にモラルの問題なのである。

 実際にグラミン銀行の回収率は、貧困層への貸し出しをメインとしているにも関わらず95%を超えるという。顧客の95%は自営業を営む女性だ。一方で、同国では政府系銀行が金持ちへの貸し出しているが、こちらの回収率はわずか10%に満たない。

 ユヌスはこの状況を皮肉って、「ヘリで空からお金をばら撒いて、“もしよかったら将来、利息をつけて返してくれ”と叫んだほうがましだ。与信や専門家のコストも要らないからね。それでも回収率は10%を超えるだろう」と言っている。持てるものへの安易な資金提供は、貧困をさらに増大させる事態しか起こさない。

 グラミン銀行は、借り手を信頼し、法的な手段にのって回収を迫るようなことはしない。ユヌスは、すべて自分たちでビジネスをマネージできているし、クレジットという言葉は、その名のとおり相手を“信用”することから始まっている、と述べる。もちろんこうしたビジネスが最初からうまくいったわけではなく、試行錯誤を繰り返しながらグラミンは成果を上げてきたのである。その経緯は、「ムハマド・ユヌス自伝――貧困なき世界をめざす銀行家」に詳しい。

投資のために貸すか、消費のために貸すか

 さて、マイクロファイナンスが長期的視点で投資的行動に対して行なわれる一方で、消費者金融は、短期的視点で消費的活動のための融資を主とする。前回のコラムでもご紹介したが、投資と消費の本質的な違いは、その時間軸の長さにすぎない(4月17日の記事参照)

 投資とは「将来のために今のお金を使うこと」である。消費とは「今の満足を得るために今のお金を使うこと」である。前者は例えば、商売道具の購入や事業の運転資金のための借り入れに当たるが、後者はギャンブルなどが当てはまる。

 マイクロファイナンスと消費者金融の顧客は、「お金がない」という1点では共通するが、その原因が、環境的要因によるものなのか、内的要因(人の考え方)によるものなのかという点で大きく異なる。つまり、消費者金融は、「金は、貸付け、取り立てるべきもの」という点に力点を置いており、基本的に“お金にルーズ”な人をターゲットとしている。これに対し、マイクロファイナンスは、モラルの高い人に融資を行うのである。

 翻って、我が国の個人向け金融の状況を見ると、そのほとんどは名実ともに“消費”者金融である。「たまにはババンと」というテレビCMに代表されるように、その目的は、借り手の短期的満足に向けられるものだ。

 今、消費者金融各社は、金融庁の規制強化(貸出金利の実質引き下げ)により、厳しい舵取りが求められている。これまでのような消費性の強い層に向けて、莫大な広告予算を割いてテレビCMを打ち、強引な回収を迫る手法では生き残ることはできないだろう。“金貸し”としての思想的転換が必要である。それは、融資先をより投資性の高いものに振り向けるとともに、借り手側の意識変革を促すような教育・啓蒙を実践することである。

 ハーバード大学が面白い調査結果を発表している。卒業生の経済的成功を決める要因について調査をしたところ、「将来その人が経済的に成功するかどうかを決定付ける唯一の要因は、意思決定を行うときに考慮に入れる時間軸の長さである」ということが分かったのだという。

 より長期で考える人が、より経済的に成功する――言われてみれば単純なことだ。銀行やノンバンクも、これまでのように単に担保をチェックして法律で相手を縛るのではなく、より長期的視点に立ち、お金を社会に“流す”という銀行家本来の視点を忘れてはならない。

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