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» 2007年04月20日 02時10分 UPDATE

神尾寿の時事日想・特別編:Suica/PASMOの1歩先行くサービスを――関西の共通IC乗車券「PiTaPa」の今

エリアが広がり、岡山や名古屋でも利用できるようになった関西の私鉄・バス共通乗車券「PiTaPa」。後払い(ポストペイド)方式を生かした割引や各種新サービス、おサイフケータイクレジット「iD」との共用化が進む理由など、PiTaPaの最新事情について聞いた。

[神尾寿,Business Media 誠]

 関東では私鉄・バス事業者が採用する「PASMO」が何かと話題になっているが、私鉄・バスでの共通IC乗車券システム採用は関西が先達だ。スルッとKANSAIの「PiTaPa (Postpay IC for "Touch and Pay")」である。PiTaPaは2004年4月にサービスを開始し、2006年1月にはJR西日本の「ICOCA」との相互利用を実現している。都市全体で、JR・私鉄・バスをシームレスに繋げるIC乗車券システムは、関西の方が先に始まっていたのだ。

 さらにPiTaPaは日本で唯一の“ポストペイ(後払い)方式”のIC乗車券システムであり、きめ細かい割引が自動で受けられるなど、他のIC乗車券システムに比べて「利用者の声」を最大限に取り入れたサービスになっている。また、PiTaPaを使った電子マネーやポイントプログラム、改札機通過通知サービスなど、付加価値サービスが充実しているのも注目すべきポイントである。

ay_pitapa02.jpg PiTaPaカード

 PiTaPaはこの4月、対応エリアをさらに拡充・拡大した。京阪神での採用路線が増えたほか、新たに近畿日本鉄道の採用により、名古屋・奈良・三重までPiTaPaエリアが広がり、利便性が増している。

 今日の時事日想は特別編として、スルッとKANSAI PiTaPaビジネスサークルコアリーダー執行役員の松田圭史氏に、PiTaPaの最新状況について聞いた。

ay_pitapa.jpg スルッとKANSAI PiTaPaビジネスサークルコアリーダー執行役員の松田圭史氏

iD/PiTaPaの共用化が進む

 PiTaPaは複数の私鉄・バス事業者が採用する共用IC乗車券システムだ。そのネットワークは西日本を中心に広範囲にわたり、西は岡山から東は名古屋まで採用事業者は広がっている。

 「4月1日のエリア拡大で(西日本の)大手事業者は鉄道を中心にほぼ採用していただけました。これにより乗降人口の約80%まで、PiTaPaのエリアはカバーできたことになります」(松田氏)

ay_pitapa03.gif PiTaPaの利用可能エリア

 採用エリアの拡大も手伝い、利用者数も増加している。現在のPiTaPa会員数は約67万人。IC乗車券としての利用率は全社局平均で10%だが、一部の社局では「利用率20%を超えている」(松田氏)状況だ。プリペイド方式のSuicaやPASMO、ICOCAなどと比べると会員数や利用率は見劣りするが、一人あたりの稼働率は高く、「一ヶ月で見れば稼働率は80%を超えている」(松田氏)という。

 「PiTaPa決済(電子マネー)の加盟店も広がっています。現在加盟店数は1万5000店舗で、このうち駅ナカ店舗は10%ほどですね。それ以外は駅周辺の商業施設や店舗です。また、以前からPiTaPaと(三井住友カードの)iDの共用リーダー/ライターの導入を進めてきましたので、大半の店舗がPiTaPa/iDの共用対応になっています」(松田氏)

 PiTaPaのシステム運用は三井住友カードが担当しており、電子マネー部分の加盟店業務も同社が行っている。そのため、以前からPiTaPa/iDの共用端末が導入されており、“PiTaPa電子マネー端末でiDが使える”状態にあった。鉄道系のFeliCa決済とFeliCaクレジットの連携では、関東ではJR東日本のSuicaとiDの共用端末整備が進んでいるが、関西ではPiTaPaとiDの共用端末が普及してきている。

 なお、iD以外の方式とPiTaPaとの共用化については、「名古屋ではQUICPay、関西でも一部の商業施設でEdyとの共用化を求める声はあります。それらについては我々も検討を進めています」(松田氏)

PiTaPa決済は「公共交通の利用促進のためにある」

 現在、FeliCa決済は様々な方式が存在し、互いに利用者の増加や加盟店の拡大に奔走している。今年に入ってから共用端末整備も始まってきているが、各社「競争しつつ、連携する」というスタンスであることは間違いない。交通系のSuicaやPASMOも、駅ナカや沿線ビジネスを重視しながら、電子マネー事業の拡大に期待している。

 PiTaPa決済の加盟店は増加しているが、スルッとKANSAIにとって電子マネー事業はどのような位置づけなのだろうか。

 「我々のPiTaPaにかける想いというのは、『公共交通の利用促進と振興』というところにあります。PiTaPa決済もあくまでこの延長線上です。電子マネーを1つの(独立)事業として考える、といったスタンスではありません」(松田氏)

 SuicaやPASMOの電子マネーは、「鉄道会社のビジネス領域の拡大」や「駅や沿線ビジネスの収益性向上」が狙いにある。しかし、PiTaPaはむしろ逆で、本業である鉄道・バスの利用促進のためにPiTaPa決済を位置づけている。そこには関西の私鉄・バスで「輸送旅客数が年々減少してきている」(松田氏)事情がある。

 「PiTaPa決済には、駅や駅周辺の商業施設で(PiTaPaを)利用していただくと貯まる『ショップdeポイント』があります。ここで貯めたポイントは500ポイントごとに50円分として、毎月の鉄道・バス利用料から差し引きます。PiTaPaで公共交通にお乗りいただき、さらに買い物をしてもらうことで電車・バスが割引される。公共交通の利用促進を重視しているのです」(松田氏)

 PiTaPa決済とショップdeポイントの関係は、ショッピングセンターなど大規模商業施設で買い物をするともらえる「無料駐車券」をイメージすると分かりやすいだろう。店舗で買い物をすると駐車場の無料券がもらえる代わりに、ショップdeポイントとして「電車・バスの料金割引用」がもらえるのだ。スルッとKANSAIがPiTaPa決済の加盟店を拡大するのは、このショップdeポイントが付与される店舗を増やし、電車・バス利用者のメリットを大きくするところに狙いがある。

 「ショップdeポイントで公共交通の利用促進を図ると同時に、PiTaPa決済の加盟店様には売り上げ拡大の効果が明らかに表れます。特にコンビニやスーパーでの客単価向上の効果は大きいですね。PiTaPaはポストペイなので、(残額を気にせず)ショッピングでも利用しやすい点は、お客様と加盟店のどちらからも評価されています。今後もPiTaPa決済は駅周辺の商業施設に展開し、鉄道・バスと沿線店舗との連携を重視していきます」(松田氏)

 なお、PiTaPa関連のポイントでは、各採用会社が発行するクレジットカードと連携した“グループポイント”もある。こちらはPiTaPaカードすべてで平等に付与されるショップdeポイントと異なり、各社局が設定した条件でポイントやマイルが付与されるものだ。

 例えば、阪急電鉄の「HANA PLUS PiTaPa」では、阪急電鉄・能勢電鉄・北大阪急行電鉄・阪急バスに乗った場合に利用額に応じてHANA PLUSポイントを付与する。このように鉄道会社がクレジットカードのオプションで発行するPiTaPaカードでは、発行会社系列の鉄道区間でポイントがつくケースが多い。これらは関東の私鉄各社が行っているPASMOと自社クレジットカードの連携と同じく、独自ポイントで自社路線の顧客を囲い込む戦略だ。

PiTaPaを使った付加価値サービスも続々登場

 スルッとKANSAIは、PiTaPaカードを軸にした関連サービスの開発にも熱心だ。本連載でも以前、立命館小学校での導入事例をリポートしたが(2006年6月の記事参照)、ほかにも阪急不動産がマンション電子錠としてPiTaPaカードを使うなど、様々な応用サービスが誕生してきている。

 「最近の動きではPiTaPaで使える宅配ロッカーサービス『ポス・ポーター』や、PiTaPa加盟店が独自のポイントサービスを構築できるASPサービスなどを投入しました。お客様のPiTaPaカードを、様々なシーンで使えるようにしていきたい」(松田氏)

ay_pitapa04.gif ポス・ポーターの仕組み

 PiTaPaは誕生からこれまで、利用者の声に耳を傾けながら、使いやすいIC乗車券と決済のサービスを構築。新ビジネスや新サービスにも熱心に取り組んできた。関東ではSuica/PASMOが注目されているが、関西のPiTaPaからも依然として目が離せそうにない。

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