中国の超大国願望藤田正美の時事日想

» 2007年04月18日 00時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。 東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer


 安倍総理が昨年9月に就任して早々に訪中したことで、日中関係は劇的に改善した。というより小泉政権の時代に、日中関係を修復できないと悟った中国が安倍政権成立にすべてを託したと言い換えてもよい。中国にとって日本との関係を改善することが喫緊の課題だったからである。2006年に日本の対中投資は約30%も減っている。対中投資が減っているのは日本だけではないが、いかに外貨準備高が増えたとはいえ、中国にとっては、大スポンサーのひとつである日中関係をいつまでも「政冷経熱」の状態に置いておくことは得策ではなかったからだ。

 しかし同時に中国は、アジアでの存在感をますます強めている。すでに経済のみならず外交でも「目覚めた龍」どころか「跳躍する龍」になっている。確かに、まだ中国のGDP(国内総生産)は日本の半分程度にすぎない。しかも1人当たりにすると日本の20分の1以下である。ただ、これは通常の為替レートを使ったときの計算。PPP(購買力評価)で計算すると、すでに日本を抜いて世界第2位の経済大国になっているという見方もある。2003年に発表されたゴールドマン・サックスの「BRICsリポート」では、2015年までに中国はGDPで日本を抜くとされているが、そのクロスポイントは早まる可能性が大きい。(参照リンク)

グローバル・プレーヤーを目指す中国

 中国は、現在2ケタ成長の真っ最中。この勢いを維持するために、世界中で資源を買い漁っている。そのために、中国は世界政治の舞台でも影響力を強めようとしている。たとえば、2006年だけで温家宝首相は15カ国を歴訪。そして胡錦涛主席は米国、ロシア、サウジアラビア、モロッコ、ナイジェリア、ケニヤと訪問した。そして昨年11月には、アフリカ48カ国と「中国アフリカ協力フォーラム」を北京で開催している。ここで中国は2009年のアフリカ諸国に対する援助を2006年の倍にすることのほか、優遇借款あるいは金利の減免といった支援も約束した(参照リンク)。ちなみに、日本が国連安保理常任理事国になりそこねたのは、アフリカ諸国の票の取りまとめに失敗したことが大きな理由だったという。

 まさに中国は「グローバル・プレーヤー」になろうとしている。シカゴ地球問題評議会とアジアソサイエティが共同で調査したところによると、中国人の87%が「中国は世界でより大きな役割を担うべきである」と考えているという。そして大半の中国人が「中国の影響力は10年以内に米国と並ぶだろう」とも見ている。(参照リンク)

外交戦略の修正が必要な日本

 北朝鮮の核開発問題を6者協議で今年、ようやく一定の合意までこぎ着けることで、中国は存在感をアピールすることができた。もちろん北朝鮮核兵器開発は、東アジアの軍事バランスを崩す事態で、日本の核武装をも誘発しかねない。その意味で中国にとっても死活的に重要な問題であったから、中国が主導する意味があった。中国の外交プレゼンスが一段と高まることは日本にとって必ずしも都合の悪いことではないとしても、ただ資源という観点から見ると日本の立場が相対的に弱くなることの懸念は大きい。

 中国は成長のエンジンを止めないために、資源を求めて活発に活動している。なかでも目立つのはロシアとの協力関係だ。ロシアは天然ガスで世界一の埋蔵量を誇る(第2位はイラン)。さきごろロシア政府が横やりを入れて株を無理矢理譲渡させたサハリン石油ガス開発プロジェクトは、中国への供給を前提としている。さらにエネルギー分野での中国とロシアの協力は、中央アジアでも展開される見通しだ。ということは中央アジアで原油をめぐる米中ロの競争が激しくなるということだ。中国はロシアとともに、上海協力機構を構成している。メンバーは、中国、ロシア、タジキスタン、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギスタンの6カ国、経済協力だけでなく軍事的な色彩ももっている「非米同盟組織」である。

 中国が米国に対抗しうるスーパーパワーになることは、日本にとって必ずしもマイナスではないだろう。中国人は「21世紀は中国の時代」と考えているそうだが、民主主義国家でない国が、超大国になったときに、日本は今までの外交戦略を修正せざるを得なくなるかもしれない。われわれ日本人は、その心の準備はできているだろうか。

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