日興コーディアルグループは2度東証を困らせる?保田隆明の時事日想

» 2007年04月05日 01時34分 公開
[保田隆明,Business Media 誠]

 日興コーディアルが上場維持となり、シティグループからTOBを受けたタイミングの3月14日、同社は「当社および当社子会社に関する事項の公表について」と題したプレスリリースを発表した(参考リンク)。その中の1つに「日興アセットマネジメント株式会社の株式上場について」という見出しのものがあり、“日興コーディアルの子会社である日興アセットが上場準備をする”ということが明示してある。

 日興アセットは元々上場準備を進めていたものが、日興コーディアルの不正会計問題噴出により、その上場準備作業を一旦休止していた。このプレスリリースは、日興アセットの上場準備がまた再開されるということを意味している。

東証の方針は「子会社上場は推奨せず」

 一方、東京証券取引所では「上場制度整備懇談会」という場所で、投資家がより安心して株式投資ができるように様々な議論がなされており、そのことは別記事でも触れたとおりだ(ITmedia AnchorDeskの記事を参照)。この春に発表される中間報告では、東証が子会社上場を推奨しない方向性を盛り込むことが検討されていると見られる。

 日興アセットは日興コーディアルの子会社なので、上場した場合には東証が推奨しない子会社上場の形式となる。日興アセット上場後に、日興コーディアルが大量の株式を売却してしまい、子会社でなくなれば問題ないが、おそらく当面は親会社たり続けると思われる。

 一方、同懇談会では上場審査基準、上場廃止基準についても議論されており、上場廃止と上場維持の中間的措置に関しても話し合われている。もともと、昨年の秋に懇談会が発足したときから上場廃止基準に関しても議題に上っていたが、このたびの日興コーディアル証券問題で、当議題の重要性が増したのは間違いないだろう。

日興アセットが上場する必要性は?

 日興コーディアルに対して東証が下した上場維持の結論に対しては賛否両論あった。とはいえ、上場廃止にすべきだったという意見も多く存在する中、今度はそういう大きな議論を巻き起こした当の日興コーディアルの子会社である日興アセットが、東証が推奨しない子会社上場を果たそうと頑張っているということが、日興コーディアルのプレスリリースに明示されているのには、少なからず違和感を覚えてしまう。

 そもそも、資産運用会社である日興アセットが上場をする必要性はどれぐらいあるのだろうか? 例えば、メーカーであれば最新鋭の工場を設立するために数百億円の資金が必要なので、リスクマネーを提供してくれる株式投資家から資金調達をするために上場をするというのは理解できる。しかし資産運用会社は、お金を運用したい投資家から直接資金を預かり、それを運用して、運用手数料を得るビジネスモデルだ。他人のお金を運用することが本業ゆえに、自らが上場する必要性は高くない。実際、日本で上場をしている資産運用会社はスパークス・グループ程度しかない。

 子会社上場は禁止されるわけではなさそうなので、もちろん誰もそれを止めることはできない。また、子会社の上場益を親会社が新規事業や他社買収に活用することにより、企業価値の向上を図る戦略も当然あるだろう。とはいえ、東証が子会社上場を推奨しないと言う理由は一般投資家保護の観点からくるもののはず。日々投資家と対峙し、それを顧客とする証券会社、資産運用会社がその代表的な存在になるようでは、笑い話にもならないのではないだろうか。

 いっそ子会社上場ではなく、完全に外部に売却してしまえばこういうノイズもなくなるのに……と思うほど。「懇談会の議論の結果を軽んじる行動に出たのは、東証をさんざん困らせた日興コーディアルグループでした」ということになってしまうようでは、今度こそ真剣に東証は困ってしまうのではないだろうか。

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