好況アメリカの住宅バブルが弾ける? 藤田正美の時事日想:

» 2007年04月04日 00時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

 つい数週間前まで、米国経済は「軟着陸する」という見方が強かった。FRB(連邦準備制度理事会)のアラン・グリーンスパン元議長が「年内には景気後退に向かう可能性がある」と語り、株式市場はこの発言で動揺したものの、結局はたいしたことにもならず収まっている。ところが急に雰囲気が変わっている。住宅ローンの焦げ付きが金融機関の収益に響き、それが景気を急暗転させるきっかけになるのではないかという不安が広まっているのである。

 その住宅ローンとは、「サブプライムローン」と呼ばれる低所得者向けの融資のこと(参考リンク)。当然、金利も高く金融機関としてはうま味があるが、焦げ付くリスクも大きい。3月に住宅ローン銀行協会が発表したところによると、返済が滞っている割合は13%、実に8人に1人に達している。低所得者向けであるということは、債務者である人々は景気が下向きになったときに真っ先にその影響を受ける階層であるということも意味する。この焦げ付きのために、すでに30社ほどのサブプライム住宅ローン会社が破綻している(参考リンク)

米国景気の行方、楽観論と悲観論

 もっともこのサブプライムローンの焦げ付きが米国の景気にどの程度影響するかについては、意見が割れている。この低所得者向けのローンの割合がそれほど大きなものではないため、実際に返済ができなくなっても全体からみれば微々たるものだという。サブプライムローンの残高は6500億ドルだが、米国の債券市場は全体で40兆ドルと圧倒的に大きい。もし6500億ドルのうち20%が弁済不能になっても大したことはない、というのが楽観論者の主張だ。住宅は別にして米国の経済全体はうまく行っているとする(たしかに失業率はまだ4%台と低い)。

 この楽観論に対して悲観論の勢力もこのところ強まっている。サブプライムローンの焦げ付きが金融業全体が縮小するきっかけになる可能性もあり、その場合は米国経済は景気後退に陥るという見方だ。一部では、このサブプライムローン問題を2000年にはじけたITバブルになぞらえるアナリストもいる。

米国バブルもやがて弾けてしまうのか?

 楽観論と悲観論のどちらが正しいにせよ、米国の住宅市場がバブルだったことは間違いない。もちろんそれは住宅価格が上がっていたことに表れているのだが、それだけではない。住宅ブームが長く続くためには、住宅を購入する人の裾野を広げていくことが必要だ。つまりこれまでは金融機関が敬遠していたような人々に対して、ローンを貸し付けて住宅を買わせるのである。

 最近では、サブプライムローンが住宅ローンの20%を占めているとされ、残高でも全体の10%に達しているという。短期金利が安かったときには、住宅ローンを借りやすくするために、変動金利はもとより返済開始時は金利1%というような低金利のローンも盛んに売られていた。それでも住宅市場が停滞してきたときには、さらに審査を実質なしにして貸し付けるというようなことも行われたという。

 もちろんこうした変動金利あるいは初期低金利のローンは、借りるときはいいが、金利が上がってきたときには債務者の負担は急増する。あるエコノミストの試算によると、2004年以降に実行された変動金利型ローンの60%は、月々の返済額が25%以上増えることになるという。

 それでも住宅価格が上がっているときはよかった。返済できなくなればまた新しいローンを組むこともできたし、家を売れば借金を十分に返せたからである。しかし米国の住宅価格は一部の州では昨年来すでに下落している。こうなると今まで通用した「出口戦略」が使えなくなり、返済不能、住宅は競売になり、さらに住宅価格の下落に拍車がかかってしまう。

 まるで1991年に日本の土地バブルがはじける前と同じ状況に米国は陥っているようだ。ただ個人への貸し付けであることと、住宅ローンそのものが証券化※されて流通しているため、これで大手金融機関が巨額の不良債権を抱えるということにはなるまい。そこは日本のバブル崩壊とは違うところだ。ただそれでも米国が景気後退に陥る可能性は否定できず、そうなったら日本の景気も(少なくとも心理的には大きな)影響を受けるはずだ。これから夏場にかけて、米国から目が離せない。

※証券化:住宅ローンに限らず、銀行はさまざまな債権をリパッケージして債券として売り出す。日本でも最近は「リート」などの名で、主に商業ビルなどを小口債券化する例が増えている。


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