“店頭効果”の重視が顕著な、ドコモ・auの春商戦モデル 神尾寿の時事日想

» 2007年01月17日 13時27分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 1月16日、NTTドコモとauが、それぞれ春商戦向けの新モデルを発表した(参考記事1記事2)。

 ドコモはスタンダードモデルの703iシリーズを中心とした10機種、auは主力モデルを刷新したW51シリーズ10機種というラインアップだ。どちらも大半のモデルが2月後半までには市場に投入される模様であり、昨年後半に投入された冬商戦モデルと合わせて、MNP開始後初めての春商戦に臨む布陣となる。

 今回、投入されるドコモとauの春商戦モデルは多数・多岐にわたるが、そこに共通するのは、特に家電量販店など併売店での訴求力や店頭効果が重視されていることだ。3キャリアが横に並ぶ売り場で目立ち、かつ分かりやすい魅力になる機能に力が注がれている。

「ワンセグのau」で店頭効果を狙う

 auのW51シリーズのキーワードは「ワンセグ」だ。KDDIの小野寺社長自らが「音楽の次は映像」と述べており(1月16日の記事参照)、春商戦モデルではワンセグ端末を一挙に7機種追加。高画質液晶の搭載、テレビ視聴や長時間視聴への対応など、機能面でもワンセグ分野の強化を行った。

 小野寺氏は同社のワンセグ対応端末の稼働台数が147万台以上であると明かし、ユーザーニーズの高さを強調した。しかし、それ以上に重要なのが、ワンセグが店頭で“分かりやすく、売りやすい商品”であることだろう。最近は専売店だけでなく家電量販店・専売店でも実機の展示がされるケースが増えているが、その中でワンセグはユーザーの関心を集めやすい。その店頭効果は、以前からある音楽機能以上と言えるだろう。

 さらにワンセグのもう1つのポイントが、「多くのユーザーが、同一価格帯ならばワンセグ付きを選ぶ」ということだ。これはカメラ付き携帯電話の登場初期と同じ傾向であり、ユーザーが「実際にその機能を使うかどうか」とは別問題である。これは一般ユーザー、特に若年層ほど顕著であり、auが今年の春商戦にワンセグをぶつけてきたのは正しい選択と言えるだろう。

 また、ワンセグには大画面液晶の搭載を促し、それをPRしやすいという付随的な効果もある。auは今回の春商戦モデルで2.6インチから3インチの液晶を主軸にラインアップしたが、これは現在の“売れ筋の条件”になる画面サイズだ。

 一方、デザイン面では、auはワンセグを筆頭とする機能面の充実と引き替えに、やや妥協した印象は否めない。au design projectの「MEDIA SKIN」は別格としても、ラインアップ全体を見ると、auは「スリムかつシンプルに見える」という今期のトレンドが押さえ切れていないのだ。

 誤解を恐れずに言えば、筆者の目にau春商戦モデルの多くは野暮ったく映った。これまでauがデザイン分野で高評価だったのは、“au design project以外”のモデルも、その時々のデザインのトレンドを巧みに掴みながら、半歩先を行く先進性があったからだ。しかし、今回の春商戦モデルでは、MEDIA SKIN以外にデザインで唸らされるものがなかった。“デザインのau”に、やや翳りを感じたのは偽らざるところだ。

「デザインのドコモ」でワンセグの遅れを覆せるか

 ドコモの春商戦モデルとなる703iシリーズのキーワードは「デザイン」だ。N703iu、P703iu、D703iでスリム化を推し進め、中核モデルとして優れた先代のデザインを洗練させたN703iDを配置。スリムでシンプルというトレンドのデザイン要素をしっかりと捉えた。さらに他のモデル群も、auに比べてスリムで、多様なデザインニーズが押さえられるように配置されている。今期のラインアップ全体で比べると、デザイン分野の強さはauよりもドコモにあると感じた。

 また、703iシリーズはデザインだけでなく、機能面でもバランスの取れた進化をしている。P703iu以外のすべての機種が、メガメール/デコメ絵文字と着うたフルに対応し、ユーザーニーズの高い基本性能を903iシリーズ相当に底上げした。おサイフケータイ対応の5機種(N703iD、P703i、SH703i、SO703i、F703i)は新バージョンのFeliCaチップを搭載しており、メガアプリ対応端末も5機種ある(D703i、F703i、P703i、SH703i、SO703i)。スリム・コンパクトを実現しながら、基本機能の進化でも手を抜かなかった点は高く評価できるだろう。

 703iシリーズはデザイン面での訴求力が十分にあり、家電量販店や併売店でユーザーの目を惹く存在になるだろう。記者会見では販売価格について明言されなかったが、903iシリーズの店頭価格が値下がりする中でも、価格的なヒエラルキーが崩れることはないという。地域・店舗によるが、現在の903iシリーズが1万円台後半から2万円代前半まで値下がりしており、今後さらに値下がりする可能性が高いことを鑑みると、703iシリーズの価格帯は1万円代半ばから、キャンペーン的な価格では1万円前後まで下がることも考えられる。デザインと価格の両面で、家電量販店・併売店での競争力は高い。

 一方、ドコモの最大の弱点であり、春商戦の鬼門になりそうなのが、「ワンセグの遅れ」である。ドコモのワンセグ端末は、シャープのAQUOSケータイ「SH903iTV」、三菱電機の「D903iTV」、パナソニックモバイルの「P903iTV」が昨年10月に発表済みで、昨日新たにソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ製のBRAVIAケータイ「SO903iTV」が発表された。しかし、この中で春商戦に間に合うのはSH903iTV、D903iTV、P903iTVのみであり、これらは発表から3ヶ月以上が経過して目新しさが薄れてしまっている。ソフトバンクが昨年の段階で911SHを発売し、auが春商戦向けに7機種もワンセグ端末を投入する今となっては、なおさらだ。ドコモのワンセグ分野の取り組みは、auやソフトバンクモバイルに比べて、“周回遅れ”とも言える状況にある。

ワンセグか、それともデザインか

 今回の春商戦モデルでは、ドコモとauどちらもがMNPを意識し、店頭での競争力を重視した。だが、ドコモは全体的なデザインと基本性能の底上げを行い、auはワンセグに軸足を置き、両社がアプローチする方向は異なっている。

 今後、両社のマーケティングがどれだけ奏功し、注力したポイントにユーザーの支持が得られるか。市場ニーズがどちらにより多く流れるかが、MNPをめぐる競争に大きく影響する。これから始まる春商戦の市場動向の動きからは目が離せないだろう。

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