固定電話会社を脅かす韓国の携帯電話向け新サービス韓国携帯事情(2/2 ページ)

» 2006年06月09日 23時30分 公開
[佐々木朋美,ITmedia]
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韓KTが是正措置を申請した韓LGTの「気分ゾーン」

 すでに本連載でも何度か触れているが、韓LG Telecom(以下、LGT)は4月末から、「気分ゾーン」サービスを開始した。これはBluetooth搭載の携帯電話を利用して、固定電話よりも安く通話できるサービスだ(5月11日の記事参照)

 自宅の電話回線を、手持ちの携帯電話で安価に利用できるとあって、気分ゾーンサービスは好評を博し、サービス開始から約1カ月で1万2000人以上の会員を獲得した。5月にはLGTの携帯電話加入数が4万1781回線ほど純増したが、それを牽引したのがこの気分ゾーンサービスだとの評価もある。

 ただしこれを傍観するわけにいかないのが、韓国最大手の固定電話事業者である韓KTだ。同社は5月末、LGTの気分ゾーンサービスが「事実を歪曲し利用者の利益を大きく阻害するものである」とし、情報通信部傘下の通信委員会に是正措置をとるよう要請した。

 同社は気分ゾーンサービスが固定電話よりも安いとうたっているものの、実際には高くつくと主張している。というのも、気分ゾーンを利用するために固定電話を解約すれば、そこへ電話をかける人は携帯電話へかけるのと同じ料金が発生するため、固定電話より通話料が高くなるからだ。また気分ゾーンを利用するには、約37万ウォン(約4万3000円)相当のサービス対応端末と約1万9800ウォン(約2300円)相当のBluetooth機器、そして月1万ウォン(約1100円)以上の基本料金を支払わなければならない。これらの点から、LGTの顧客が不利益をこうむっているというのだ。

 KTの真意は、電話の接続料が増加することによる利益減少と損失の拡大を食い止めたいというところにある。KT加入者がLGT加入者へ電話をかけると、KTはLGTへ接続料として通話料の一部を支払う義務がある。しかし、この接続料は後発の通信事業者に有利なように決められているため、LGTがKTへ支払う接続料より、KTがLGTへ支払うそれが高く設定されている。つまり、気分ゾーンサービスの加入者が増えれば、KTは接続料による収入が減り、LGTへの支払いが増えるわけだ。

 自社の電話網を利用しないサービスが好評という状況に、KTは危機感を募らせている。

Photo LGTの雑誌広告。「お詫び文」という題目で目を惹くが、よく見てみると「KTやHanaro Telcom等、固定電話事業者にご心配をおかけしました。(中略)LGTだけの便利で手頃な特権を顧客に提供する以外に何の意図もありません」といったやや挑発的な内容だ

急速に広がる固定電話対抗サービス

 固定電話の存在を揺るがすようなサービスは、気分ゾーンのほかにも急速に広がりを見せている。

 例えば通信会社のDACOMは6月から、Wi-Fiを利用したVoIPサービスを開始している。同サービス専用のWi-Fiフォンを利用すれば、市内外への通話および国際電話を利用することが可能で、まずは企業顧客を対象としたマーケティングを行うという。

 利用料金は国内通話が3分で45ウォン(約5円)、携帯電話との通話は10秒で14ウォン(約1.6円)となっており、同サービス加入者間での通話は無料だ。このような料金は、固定電話と比べ市外電話は最高82%、携帯電話は3%程度安い価格だという。

 また韓国ではVoIP利用の際、「070」で始まる電話番号を割り当てられることになっているが、基幹通信事業者であるDACOMの場合は、既存の市内電話の番号をそのまま利用できるため番号が変わらず、変更に伴う手間もないという利点がある。

Photo DACOMのサービス利用の基本料は、既存の番号を利用する際は4000ウォン(約470円)/月、070を利用する際は2500ウォン(約290円)/月と後者がやや安い。番号を変えると告知作業などの手間が発生する企業などは前者の利用が便利だ

 IP電話に関しては、情報通信部が「070」で始まる電話番号制度を設けるなど政府ぐるみで制度を整えてきたにもかかわらず、ユーザーの認識不足や、最大手のKTが消極的だったこともあり、それほど普及していなかったことが問題視されていた。そのためDACOMのサービスは、VoIP活性化の起爆剤となるのではと期待する見方もある。

 周知の通り韓国におけるブロードバンドインターネット接続の普及率は高く、最近は固定電話に加入せず携帯電話だけで済ませる人も多い韓国の状況を考えれば、通信業者が転機に立たされていることは想像に難くない。

佐々木朋美

 プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。


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