米Intelなどを中心に各社が参画する移動体通信向けの「WiMAX」(IEEE802.16e)は、通信事業者の間でも関心の高いトピックの1つだ(2005年7月4日の記事参照)。しかし、クアルコムジャパンの松本徹三会長は、次世代の通信インフラとしてのWiMAXについて懐疑的な見方を示した。
その理由としては、WiMAXの移動環境での「平均」スループットが既存のEV-DO Rev.AやHSDPAと比較しても決して速くはないことを挙げた。これは10MHz幅の帯域では、WiMAXのセクターごとの平均スループットは8Mbpsを下回り、10Mbpsを超えるHSDPAやEV-DO Rev.Aに及ばないとの検証結果に基づいている。
また、WiMAXのセル半径はEV-DO Rev.Aより小さく、基地局の数はEV-DO Rev.Aの2倍以上必要になる計算だという。このことから、WiMAXで多数の基地局を用意し、携帯電話に近い使用感が得られる通信サービスを提供するにはコストがかかりすぎ、3G(とその発展型)と競争可能な安価なサービスを実現するのは難しいのではないか、との考えを表明した。
しかも「固定環境ではWi-Fi、移動通信では3Gの使い勝手がいいため、その中間に位置して中途半端なWiMAXがカバーするMAN(Metropolitan Area Network)は果たして存在するのだろうか」(松本氏)という挑戦的な発言も飛び出した。
次世代の通信技術に求められるもの。それは「ユーザーニーズに合致した、使い勝手がよく、コストの安いもの」であると松本氏は話す。「夢のような技術というものはない。数が多く出る(=ユーザーの支持を得る)ことによりコストが下がり、広く普及する。ニーズを的確に捉えた使いやすいものこそが目指すべき方向だ。」
松本氏は技術の素晴らしさや、標準化の動向だけで判断しては、事業性を見誤るという。確かに過去にも「標準」といわれながら普及しなかった規格や技術が多くある。そんな中でQualcommは、何か1つベストなものを決めるのではなく、標準を超えて多くの技術を統合し、場所や目的などに応じて最適な通信システムが選べることが重要だという。例えば都市部では、外出先などでも時間や場所を問わず手軽に使える3Gと、家やオフィス、ホットスポットなど、特定の場所で時間をかけて利用する無線LAN(Wi-Fi)を両方サポートした端末などは非常に有用であるとした。
そのためのソリューションとして、同社は「MMX」(Multicarrier Multilink eXtensions)を提供する。このソリューションについては、2005年11月にQualcommの長期ロードマップに追加されている。EV-DOの発展型(Rev.AやRev.Bなど)をベースとした「DMMX」と、W-CDMAの発展型(HSDPA、HSUPAなど)をベースにした「HMMX」を用意する。どちらも受信ダイバーシティやイコライザー、Pilot干渉キャンセラー、4GV(VoIP用第4世代音声符号化方式)、MIMO(Multi Input Multi Output)などの技術を応用する。そのうえで、GPSやBluetooth、802.11a/b/g、FLO、そして将来的には802.20やUWBなども含めた異なる無線リンクを統合する計画だ。
詳細な説明はなかったが、DMMXおよびHMMXはオールマイティーな通信チップを目指しているという。利用できる範囲を広くするとこで、さまざまな機器に採用され、それによってコストが下がれば、さらに採用機器の増加につながっていくとした。
本格的な普及期に入った3Gについては、EV-DO Rev.Aの商用サービスがいよいよ今年開始されるが、今後さらに周波数効率を高め、QoSとマルチキャストを利用したサービスの向上と高いピークデータレートを実現する、EV-DO Rev.Bの標準化が2006年代1四半期に完了する旨も発表されている。
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