FeliCa/モバイルFeliCaの歴史を振り返る(後編)神尾寿の時事日想・特別編(2/2 ページ)

» 2005年10月26日 19時31分 公開
[神尾寿,ITmedia]
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 しかし、オクトパスでは公共交通の利用はもちろん、公衆電話や駐車場、自動販売機やコンビニエンスストアなど汎用性のあるサービスが前提にあった。信頼性やメンテナンス性、セキュリティは重要項目であり、事業者のリアルな視点から、電池レスを始めとする様々な“改善要求”が突きつけられた。FeliCa開発陣にとって正念場だった。

 「例えばバッテリーをなくすと言っても、現在の電磁誘導の構造ができあがるまでには、当時の開発者は大変な苦労をしていました。しかしオクトパスの稼働スケジュールは決まっている。その中での開発だったのです。他にも、オクトパスは初めての事例で、しかもいきなりの(公共交通という)本番ですから、あらゆるものをゼロから準備する必要があった。FeliCaチップの生産工場を作り、リーダー/ライターを開発し……とにかく大変だった」(竹澤氏)

 これらの苦労が実を結び、1997年にオクトパスカードは本格スタートした。一方でFeliCaは、オクトパスの事例を通して現在につながる礎をほぼ作り上げた。公共交通を軸に、様々な小売店舗で電子マネーとして使える。最近オフィスビルで見かけるようになったFeliCa社員証と入退出管理システムも、最初の導入事例はオクトパス・カーズ社だった。

「Suica」で日本に凱旋

 香港オクトパスカードが成功する一方で、日本での市場もいよいよ本格化しだした。1990年にJR東日本でのFeliCa採用は見送られたが、駆動部の多い磁気式自動改札機の寿命は、導入当初から10年程度と予想されていた。JR東日本では、90年代初期から「次の更新」で引き続き磁気式自動改札機を使うか、130億円あまりの追加投資をして非接触ICカード型に切り替えるかを天秤にかけていたという。

 そのような中でJR東日本では1994年から1997年まで3回の実証実験を行い、非接触ICの効果を測定。1998年に非接触IC型の自動改札機導入を決定している。しかし、この時はまだFeliCa採用が確定したわけではなく、厳しい条件の競争入札が行われた。

 「JR東日本が非接触IC技術を正式採用する際に、オクトパスでの成功は大きかったと思います」(竹澤氏)

 競争入札時、すでにオクトパスで実用化していたFeliCaは試作品を提出し、高速な読み取り性能やマルチアプリケーションなどの性能を披露できた。一方、競合した他の非接触IC技術を推すメーカーは、試作品すら出せないところもあったという。こうして2000年にJR東日本での採用が決まり、2001年にSuicaが誕生したのである。

 また同じ2001年には、ビットワレットの電子マネー「Edy」も誕生。JR東日本が初めての、そして巨大な公共交通の事例となる一方で、汎用電子マネー分野でのFeliCa利用も始まったのである。

次なるステージとしての「モバイルFeliCa」

 雌伏の90年代を経て、FeliCaは非接触ICカードの成長株に躍り出た。非接触ICカード技術としては、他にフィリップス社などが推す「Type A」と、モトローラ社などが推す「Type B」があり、この中でType Bは日本の住民基本台帳カードでも使われているものだ。しかし、オクトパスやJR東日本など、性能を重視する事業者がFeliCaに“お墨付き”を与えたことで、その性能の高さが評価されるようになった。日本の民間事業者にとって、FeliCaはデファクトスタンダード(事実上の標準)に近い位置を占めた。

 2001年夏、軌道に乗りつつあったFeliCaは、新たなチャレンジを開始した。おサイフケータイのコア技術「モバイルFeliCa」の開発である。モバイルFeliCaは非接触ICのリアル連携処理に加えて、ネットワークサービスとの融合や、後から様々なアプリケーションを追加することができる(9月27日の記事参照)。FeliCaはもとよりマルチアプリケーション機能など柔軟性・拡張性の高い仕様であり、その礎が携帯電話との融合、モバイルFeliCaへの発展を実現したといってもいいだろう。

 モバイルFeliCaの開発は携帯電話の生活インフラ化という時代の流れに乗り、2004年夏にNTTドコモからおサイフケータイが発売された(2004年6月16日の記事参照)。そして2005年秋、au(7月11日の記事参照)とボーダフォンもおサイフケータイを導入(9月20日の記事参照)。今後の携帯電話にとって、モバイルFeliCaは重要な機能になっている。

 こうしてFeliCaの歴史を振り返ってみると、初期コンセプトの優秀性と公共交通分野のニーズにしっかりと応えた真摯さにより、FeliCaが「実際に使いやすい」非接触IC技術になった事がわかる。その流れをくむモバイルFeliCaとあわせて、今後の生活・社会インフラとしての広がりは、まだまだ続きそうだ。

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