テレビ局側は、ワンセグに何を期待しているのだろうか。TBSの湯川氏は“TBSの期待”とした上で、3つポイントを挙げた。
1つは、見る場所を選ばないこと。「例えば新潟地震の時、トンネル内で止まった新幹線内でテレビが見られれば、情報が得られた。災害時は安否確認のため携帯電話に輻輳が起こるが、テレビが見られれば回避できる。ワンセグのデータ放送を使えば、ローカル情報もきめ細かく出していける」
2つ目は、データ放送を使った双方向性だ。データ放送を受けてユーザーが反応を返す。それを番組作りに生かせるのではないかというもの。「テレゴング的なこと、選手への応援メッセージ、ゲームなどに参加してもらって、成績を出すことも考えられる」
3つ目は、データ放送をトリガーとして使う方法だ。「テレビは受動的メディアだと言われるが、ワンセグのデータ放送では、受動的放送を見に来た人が、アクティブに通信することが可能になった。これをトリガーとして、コンテンツを広げていけるだろう。コマースなどにつなげることも考えられる」。事前調査では、ワンセグでの双方向機能を利用したい人が8割に上っており、活用の幅は広がりそうだ。
しかし一方で、“使い方はユーザーが決める”という思いもある。「若い人が(ワンセグの)使い方を考えてくれるのではないかという期待もある。例えば、女子高生がテレビを見ながらチャットをするとか。あまりお仕着せのサービスをやってはいけない」(湯川氏)
ワンセグのもう一方のプレーヤーである携帯キャリアの期待は何か。メディア連携のやり方を模索してきたKDDIは、放送をトリガーとして通信に誘導する──という戦略を、ワンセグにも当てはめる意向だ(2004年6月28日の記事参照)。
「FMケータイで、放送と通信の融合の可能性を確認した」と、KDDIの中村博行氏。1年半前に登場したFMラジオチューナー付き携帯電話は、単にFMラジオを搭載しただけではなく、FM局とのつながりを重視した。ラジオで流れている楽曲の着メロや着うたを、簡単にダウンロードできる仕組みを用意し、放送をトリガーとして通信を活性化させる取り組みにチャレンジしてきた(2003年9月24日の記事参照)。
現在FMケータイは、10機種300万台が稼働しており、2005年度末には500万〜700万台に達すると中村氏は予測している(2004年9月9日の記事参照)。同じ取り組み方でワンセグにも挑むKDDI。テストケースとして、アナログテレビ搭載の携帯電話も発売しており「ビジネスモデルを見ても、ワンセグの準備は完了している」(中村氏)状況だ。
「リアルタイム視聴だけでなく、録画したものを見る、タイムシフト用途にもワンセグは向いているのです」。そう技術的な仕様について話すのは、ソニーの小野正道氏。
ワンセグの映像エンコード方式であるH.264は、非常に圧縮率の高いことで知られる。1時間の番組を保存しても100Mバイト弱。ドコモが発表したモバHO!対応端末のように、1Gバイトのメモリを搭載すれば10時間の録画が可能だ。アナログ放送と違い、最初からH.264にエンコードされて送られてくるため、端末側にエンコーダを載せる必要もない。
技術的に可能な“録画”ではあるが、提供者側の議論はまだまとまっていないのが現状だ。「権利問題が発生するので難しい。(外部メモリを使ったり通信でやりとりするのではなく)端末の中に保存するだけであれば、キャリア・メーカーと話し合って決めていきたい」(TBSの湯川氏)。「録画は、端末が出てから決めていくこと」(KDDIの中村氏)
固定放送のHDD録画同様、技術的にはスキップされ得るCMをどうするかといった問題や、データ放送の特徴であるリアルタイムな双方向性が失われるといった課題も、録画にはついて回る。
ちなみにワンセグは携帯だけでなく自動車内での視聴も期待されており、車載向け機器の開発も進んでいる。その内の1社、パイオニアは固定テレビ向け放送とワンセグを自動切り替えできる車載機の開発も行っている。
移動機器での固定テレビ向け放送の受信には、キャリア合成方式のダイバーシティアンテナが必須だ。性能を上げるためには2つのアンテナの位置を離す必要があり、自動車の大きさでもなんとか受信できる……というのが現状。パイオニアが開発中の車載機では固定テレビ向けが受信可能なエリア(受信感度がいいエリア)ではハイビジョン放送を表示し、感度が悪くなったらワンセグに切り替えて表示する。これはサイマル放送だから実現できることだともいえる。
ただし、「ハイビジョンとワンセグは同期が取れていないので、切替の再に遅い方に揃えなくてはならない。チャンネル切替で待ち時間が発生したり、バッファメモリが必要になるといった問題がある」(パイオニアの市川俊人氏)。
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