「スーパーでEdy」の結果は? アサノ社長インタビュー (後編)神尾寿の時事日想:

» 2005年05月31日 09時53分 公開
[ITmedia]

 2003年4月から電子マネー「Edy」を導入。いち早く、FeliCa携帯の「おサイフケータイ」にも対応した仙台のスーパーマーケット「アサノ」。電子マネーの導入と、FeliCa携帯は小売りビジネスの現場に何をもたらしたのか。前編に引き続き、アサノ代表取締役社長である浅野正一氏のインタビューをお届けする。

次のステップは「FeliCa携帯」の普及促進

 Edyカード「おさいふカード」の導入に成功し、アサノでは平日レジ決済の3割〜5割が電子マネー利用になった。次のステップはおサイフケータイを筆頭とするFeliCa携帯の普及促進だという。

 「我々の大きな目標は、(Edyカードよりも)おサイフケータイへの移行です。おさいふカードはお年寄りでも使えるというわかりやすさがありましたが、機能面ではおサイフケータイにはかなわない。特に液晶画面で残高照会ができるのは(店舗側の)メリットが大きいですね」(浅野氏)

 浅野氏によると、店舗のEdyチャージ端末でよく見かけられるのが、お年寄りによる「残高照会」だという。

 「来店されるとまず(チャージ端末で)残高を確認して、少なくなっていたらチャージし、それから買い物を始めるというお客様が多い。お年寄りを中心に、そういう習慣ができています。しかし、残高照会が携帯電話でできるなら、そちらの方が便利ですし、当然ながらチャージ端末の利用効率もあがります」(浅野氏)

 また、現在はレシートに印字している取得ポイントや、割引ランクの確認も、携帯電話側でできるようになる。Edyカードではなく、FeliCa携帯のEdy機能を利用する第1のメリットは、「手元で確認」にあると、浅野氏は話す。

 「あとは、メールですね。おサイフケータイなら、お客様に対してダイレクトにメールが送れる。今、(アサノの)メール会員は2000人ほどで、目標は3000人ですけれど、最初はまったく集まらなかった(苦笑) おサイフケータイのアピールをして、ようやく若い人からメール会員が集まってきたところです」(浅野氏)

小売り店の広告メール活用、コスト削減以外の効果

 前編で紹介したとおり、アサノではEdy導入の原資を、チラシ広告の半減と、販促用クーポンの廃止から得ている。その点で、広告媒体をメールに移行するのは中長期的な目標だ。

 「(広告媒体としての)メール利用はコスト削減効果もありますが、それ以上に顧客コミュニケーション手段として、従来の広告とは違う活用ができるメリットが大きい」(浅野氏)

 その一例としてあげるのが、メールの即時性の活用だ。スーパーなど一般小売店で使われるチラシ広告の場合、印刷や配布のタイムラグがあるので、広告内容は1週間前には決定しておかなければならないのだという。しかし、これはライバル店との競争に不確定要素が生じるだけでなく、仕入れ値の変化リスクを負う事になる。

 「例えばタマゴを原価ギリギリで売り出そうとした時、チラシの原稿締切の時点では、(セール時の)仕入れ値は分からんのです。タマゴが(予想仕入れ値より)値上がりしたら赤字になりますし、大きく値下がりしてライバル店が安い価格で通常販売したら、『セール品なのに安くないじゃないか』という事になる」(浅野氏)

 しかし、広告媒体がメールならば、その内容は配信直前まで変更が可能になる。セール時の目玉商品の価格は、仕入れ値の動きを直前まで見て決められるので、変動リスクを軽減できる。また、ライバル店とセール品が競合したら、「別の目玉商品を作って、セール当日の朝に広告メールを送る」(浅野氏)といった活用法も考えられる。

 また、EdyのOne to Oneマーケティング機能と、FeliCa携帯のコミュニケーション機能を融合させて、年代別や店舗別にセール内容を変化させることも、将来的には行いたいという。

 「小売業の経営において、チラシなどの広告宣伝費は必要とはいえ負担の大きいもの。(費用対効果で)アンバランスさも出てきているので、これは減らしていく方向で考えなければならない」(浅野氏)

キャリアに強く望むのは「簡単操作のFeliCa携帯」

 アサノがFeliCa携帯に期待するのは、広告媒体としての機能だけではない。

 「地方の過疎化を考えると、近い将来、『配達』の重要性が増してくると考えています。実際、東北地方ではコンビニエンスストアすら作れない場所が増えている。(将来は)お客様が来店せずとも商品が買える、注文配達の販売方法が必要になります。

 しかし、電話で注文を受けて配達するのでは、(コールセンター設置・維持など)コスト負担が大きい。店舗サービスの延長線で考えるならば、FeliCa携帯のメールで注文を受けて、決済までノンストップで行ってしまう仕組みが必要ですね」(浅野氏)

 他にも、TV電話やカメラ機能を使った新しい販売促進プランなど、アサノはFeliCa携帯を足がかりに、携帯電話の様々な機能を小売りビジネスに活かそうとしている。

 だが、一方で、浅野氏はキャリアに対して強い要望を持っている。

 「今のFeliCa携帯は操作が複雑すぎて、(おさいふカード利用の多い)お年寄りが使えません。若者を意識したものばかりで、誰でも簡単に使えるFeliCa携帯がない。これではFeliCa携帯の普及や利用を促進したくても難しい。お年寄りでも使える簡単なFeliCa携帯を早く作って欲しい」(浅野氏)

 NTTドコモは現在、おサイフケータイ機能をハイエンドモデル「901iC/iS」シリーズにのみ投入。auやボーダフォンも、ハイエンドモデルからモバイルFeliCa機能を投入する方針だ。

 しかし一方で、アサノの先行事例では、「シルバー層に電子マネーが好評」という結果が現れた。また、浅野氏のインタビューでわかるとおり、FeliCa携帯への移行と利用促進は、小売業のビジネスにおいてメリットが大きく期待されている。

 FeliCa携帯の潜在的な可能性を引き出すためにも、各キャリアは「モバイルFeliCa搭載機はハイエンドモデルのみ」という状況から、早く抜け出すべきだろう。普及価格帯のモデルはもちろん、ドコモの「FOMA らくらくホン」などアクセシビリティ考慮モデルへのモバイルFeliCa搭載も急ぐべきではないか。

 FeliCa携帯の潜在市場は、都市部や若年層に限ったものではない。アサノの事例をみれば、携帯電話の「生活インフラ化」が裾野の広いものである事がわかる。近い将来におけるビジネスの拡大、波及効果の広がりは、キャリアも含めた携帯電話業界の予想を超える規模になるかもしれない。

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