携帯電話業界に対する「G-BOOK ALPHA」のインパクト神尾寿の時事日想

» 2005年04月15日 10時46分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 4月14日、トヨタ自動車がテレマティクスサービスを一新。「G-BOOK ALPHA」を発表した(4月14日の記事参照)

 テレマティクスはまだ本格的な普及段階に入っておらず、先代G-BOOKも大ヒットとはならなかったため、携帯電話業界からは注目を浴びてないかもしれない。しかし、今回発表されたG-BOOK ALPHAは、自動車ビジネスの根幹を変え、携帯電話業界にも大きな影響を与えるものだ。中でも、飽和しつつあるハンドセット市場に対する、通信モジュール市場の創出による影響は大きい。

 今回のG-BOOK ALPHAで特徴的なのは、テレマティクスの第一義を「安全装置」とした点だ。新型の1xEV-DO通信モジュール「DCM」は、単独で通信・通話機能を持ち、エアバッグ連動型ではカーナビが破損しても自動的に位置情報付きの緊急通報を行う。「交通事故で死にたくない」というのは万人のニーズであり、カーナビの機能拡張のようにニーズの分かれるものではない。交通事故死亡者を減らすには画期的な仕組みといえる。

 トヨタではG-BOOK ALPHAを純正カーナビとセットにし、「メーカーオプション品」として販売する方針だ。しかし、例えば年内の日本導入が予定されている「レクサス」ブランドなど、アッパーミドルクラス以上の車種から事実上の標準搭載に近い販売方針をとる可能性が十二分にある。また新型DCMは単独でGPS測位機能を持ち、カーナビと切り離しても成立する構造を持つ。このため将来、「エアバッグ+DCM」の簡易型G-BOOK ALPHAヘルプネットの安価なサービスが作られる可能性がある。安全装置という位置づけならば、小型車や軽自動車、商用車までリーチを伸ばせるのだ。

カーナビの機能拡張でも有用なDCM

 さらにG-BOOK ALPHAでは、カーナビの機能拡張でもDCMをフル活用している。新たに搭載された渋滞予測・回避サービス「Gルート」である。

 渋滞予測サービスは、ホンダが「インターナビ」で始めた分野であり、現在は日産「カーウイングス」も対応。また通信を使わない形では、パイオニアなど市販カーナビでも採用が進んでいる。このためトヨタは後発という事になる。

 しかし、G-BOOK ALPHAが他社と違うのは、通信の頻度が高く設定されていることだ。ホンダや日産の渋滞予測サービスは携帯電話による「回線交換接続」が前提であり、ルート設定時に渋滞予測をする仕組みだ。一方、G-BOOK ALPHAではルート走行中も分岐点直前などで最新の渋滞予測データを参照し、常に新しい情報を使う。またルート案内をしていない時でも、周囲の渋滞予測データを気軽に参照できる。センター情報の参照も速い。これらは高速通信・データ通信定額制を実現したDCMを通信インフラとしているからだ。

 トヨタがカーナビの機能拡張でもDCMを活用してきたら、当初から“カーナビ”に軸足を置いているホンダ・日産のテレマティクス、市販カーナビメーカー各社も、うかうかしていられないだろう。カーナビの商品力で負けないために、トヨタと同様に通信モジュール採用を真剣に考えなければならなくなるだろう。

 G-BOOK ALPHAは、クルマでの「通信モジュール活用」の点だけ見ても大きなインパクトを持つ。トヨタのシェアの中で通信モジュールが普及するだけでなく、トヨタへの対抗措置から、自動車メーカー/カーナビメーカー他社での通信モジュール採用を加速化させる可能性が高い。

 携帯電話キャリアにとって、クルマが「もう1つの巨大市場」になる日が、いよいよ現実的になってきた。

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