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最新シネマ特集〜叫(さけび)〜

黒沢ホラーの集大成! 葉月里緒菜の幽霊におののく

港湾沿いの埋立地にある工事現場で、水溜りに倒れこむ赤い服を着た女の遺体が見つかった。殺人事件として捜査に関わった刑事・吉岡は、被害者の周囲に残る自分の痕跡に、「自分が犯人ではないのか?」と疑いを持ち始める。次第に自分の記憶さえも曖昧になり、心が揺れながらも、次々と起こる同じ手口の殺人事件を追い続ける。
捜査の中、吸い込まれるように再び最初の現場に足を運ぶと、誰もいないはずの闇の中から吉岡に向かって
「どうして私と一緒にいれくれなかったんですか…」
と声がかかる。振り向くと、死んだはずの赤い服の女の姿が、浮かんでは消えて…。
現世に対して何か心残りを抱えるものが幽霊となってしまうとすれば、彼女は何を伝えようとしているのか?

黒沢清監督の「葉月里緒菜の幽霊役を見たい」という一念からキャスティングを行ったと打ち明けていたが、狙いは見事に成功している。血の気のない白い肌と対照的な真っ赤なワンピース姿で、黒目がちのその瞳を見開いて迫ってくる姿は、夢に出てくるのではないかと思うほど強烈だった。女性としてはあまり嬉しくない話だろうが、彼女の一番の当たり役なのではないだろうか。

ミステリー、ホラーといったジャンルにくくらずに見て欲しいと監督自身も語っているが、今回は、「犯人は誰なのか?」という謎解きの部分もあり、お得意のホラーもありと、さまざまな手法で観客の心を追い詰めてくる。息が詰まるほどの緊張感の連続は、いまや日本の若きクロサワとして世界で認知されている監督の集大成ともいえる作品になっている。
主演には監督と同じ年の役所広司。その恋人を、「天使の卵」ではたおやかな女性像を見せていた小西真奈美が感情の起伏のないキャラクターという新境地で演じている。

この映画を見てからしばらくは、赤いワンピースを着た女性に夜道で出会う度に身体がこわばってしまうかもしれない。

叫(さけび)

2006年/日本/104分
監督:黒沢清
出演:役所広司、小西真奈美(「天使の卵」)、伊原剛志、葉月里緒奈、オダギリジョー、加瀬亮、平山広行、奥貫薫、中村育二、野村宏伸

2月24日(土)、シネセゾン渋谷、新宿武蔵野館他にて全国ロードショー

http://www.sakebi.jp/

(C)2006「叫」製作委員会

筆者プロフィール
北本祐子
+Dstyle編集担当。
雑誌編集畑から異動によりインターネットの世界にデビュー。
映画は本数よりも、好きな作品を何度も見る派。それでも、年間鑑賞作品数はDVDを入れると200本ぐらい。3度の飯もお酒も好きだけど、甘いものがもっと好き。会社の近くのパティスリー・サダハル・アオキのスイーツを食べ尽くすのが目下の目標。




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