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世界中の時計宝飾ブランドと万国の来場客で埋め尽くされる会場
トレンドに敏感な時計人が集う会場

 世界各国から集まってくる目の肥えたバイヤーやジャーナリスト、そして時計愛好家がお目あてにしているのは、やはり老舗の時計メーカーや高級ブランドが出品する渾身の新作モデルだろう。今年1年のトレンドを左右しそうな時計を嗅ぎ分ける敏感な時計人ばかりが集結しているのだから、連日朝から閉場まで人で溢れているブースほど、その年の流行を牽引する可能性は大のハズである。それとは逆に「あのブランドの新作はイマイチじゃないか?」などというレッテルを貼られることがあれば、会期半ばにしてパソコンやモバイルで瞬く間に世界中に広められてしまうという怖い一面もあるだけに、有名ブランドといえどもアグラをかいてはいられないのだ。その緊張感がヒシヒシと伝わってくるのも、ビッグでゴージャスなバーゼル・ワールドならではだ。そんな一面があることも気にかけながら会場を見まわしてみると、各ブランドがしのぎを削る力の入れ具合が自然と伝わってくるのである。

パテック フィリップ(左)、タグホイヤー(右)

 古くから使用されているメインホールには、ビッグネームばかりが軒を連ねている。入場口を通過して間もなくパテックフィリップやロレックス、ブレゲ、オメガといった時計の王道として名高いメーカーのブースが目に飛び込んでくる。入場して1分も経たぬうちに時計の世界に引きずり込まれるといっても決して過言ではないだろう。そして、中央の通路を100メートル歩くあいだに、レーシングウォッチのタグホイヤーやパイロットウォッチのトップメーカーであるブライトリング、ラグジュアリーなゼニス、エグゼクティブなショパールなどなど見逃せないブランドばかりが立て続けに現れる。

 特に1000万円を下らないトゥールビヨンといわれる高価なメカニズムのモデルは、今年も多くの有名時計メーカーから発表されていた。そんなスペシャルモデルを数多く見ることができるのも見本市ならではだ。おかげで、朝9時に会場入りしてから、この100メートルの距離を興味深く見て歩くだけで、あっという間にランチタイムの時間になってしまった。

エルメス(左)、ディオール(右)

 この時期、スイスは夏時間に入っているのだが、この季節の名物としてホワイトアスパラガスがある。茹でた状態の肉厚で大きなホワイトアスパラガスが5本ほど皿に盛られているというシンプルな料理だが軽めのランチにはうってつけとあって、これを食す人たちが多く我々もこの名物料理を楽しんだ。

 午後には女性のあいだで常に話題となっているブランドを見てまわったが、エルメスやグッチ、シャネル、ディオール、ヴェルサーチ、D&Gなど、いずれのブランドも女性だけでなく男性にもオススメのコレクションが並んでいるのが興味深い。ここ数年のバーゼル・ワールドでは、これらのブランドを筆頭にパヴェダイヤモンドの時計が数多く出品されているようだ。従来の宝飾時計に加え、クロノグラフやダイバーズウォッチなどに宝石を散りばめたスポーツタイプが女性にもウケて、ラグジュアリースポーツというカテゴリーが再び人気を呼び、男女で楽しめるユニセックスモデルとして親しまれているのだという。この潮流が、大手時計メーカーのトゥールビヨンやミニッツリピーターといったコンプリケーションモデルにまでダイヤモンドを組み合わせるというトレンドをもたらしたのも昨今の傾向なのだとか。新興市場のロシアや中国が18金やプラチナに宝石をふんだんに埋め込んだ時計を好んでセレクトすることも理由のひとつに挙げられるそうだ。

ヴェルサーチ(左)、D&G(右)
セイコーやシチズンも出展

 また、我々にとっては日本からセイコーとシチズンが出展しているのが嬉しいかぎり。日本の技術力が海外のメディアやバイヤーから注目されている光景は見ていて誇らしくなる。技術をアピールする場としては、通称“アカデミー”といわれる独立時計師協会のブースが存在する。個人の時計師が作成した斬新な構造の時計は、少量生産品として流通するだけでなく、オートクチュールの見本として出品されている。さらに、大手メーカーがその画期的な機構を採用するために契約を結びに来ることさえあるというのだ。今では有名ブランドとなったフランク ミュラーもこのアカデミーから巣立ったそうである。

セイコー(左)、LEGO(右)

 ブロックで知られるLEGOをはじめ子供に人気のブランドがブースを構えているのはユニークだった。大人の男女にだけでなく、ファミリーに向けた時計の提案を考えるブランドが参加しているのは微笑ましい。時計はスイスの主要な産業だけに、我々日本人が子供時代に自動車工場に見学に行くように、スイスの子供は社会科見学として時計工場に見学に行くそうだ。きっとその子供たちの中から時計業界に進んで未来のバーゼル・ワールドを担う人物が現れるのだろう。

AHCI(左)、G.P.F.(右)