今もなお輝き続けるデザイン、Canon Dial35-コデラ的-Slow-Life-

» 2009年06月12日 16時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 ハーフカメラは一時期ちょっとしたブームになったことから、関連書籍も多く出版された。その多くで表紙を飾っているのが、キヤノンの「Dial35」である。

ハーフカメラの代名詞ともいえる「Canon Dial35」

 そのデザインを見ても、若い人はネーミングの由来が分からないだろう。“レンズの周りに配置された露出感度切り替えダイヤルが、ダイヤル式の電話みたいだから”ということで名付けられた。ちなみにキヤノンの公式サイトでは「ダイアル」と表記されている。

 発売されたのが、1963(昭和38)年11月。なんと筆者の生まれた翌月のことだ。キヤノンはハーフカメラとしては後発参入であった。同年2月発売した、同社初のハーフカメラ「Demi」に続き、矢継ぎ早に投入されたのがこのDial35だったわけである。

 周りのダイヤルのような部分の裏には、ISO感度(当時はASA)に応じたサイズの穴の空いたパネルがはめ込まれており、これがシャッタースピードと対応しながら、露出計への光量を調節している。感度制御の方法としてはオーソドックスな手法だが、普通はカメラ内部に入れ込んでしまう構造だ。それをあえてデザインとして表に出してしまったセンスが、当時も今も斬新な輝きを放っている。

昔の電話のダイヤルみたいなデザイン

 機能もかなりユニークだ。底部に出っ張っているのは、ゼンマイである。ゼンマイによる自動フィルム巻き上げは「RICOH AUTO HALF」が先駆者だが、Dial35はフィルム装填後の自動コマ送りまでこのゼンマイノブの回転でやってのけた。さらには撮影後のフィルムの巻き戻しもこのゼンマイで行なっており、フィルム送りの完全自動化を成し遂げている。

 また通常ハーフカメラは普通に構えると縦長の構図になるわけだが、Dial35はフィルムを縦方向に装填することで、通常の35mmカメラと同じ、横構図を標準としている。まあ横のものを縦にしただけと言えばそれまでだが、こういった構造のハーフカメラは案外少ない。

CanonとBell & Howell

 今回の実機は2台。いずれも、ライター仲間である「すずまり」さんからの預かり品である。ついに人のカメラまで修理するようになってしまった。

 Dial35は、Canonブランドのほか、米国の映画機材メーカーBell&HowellにもOEMされていた。改めて両方を比較してみると、米国向けのほうはフロントパネルが違う。さらに距離がフィート表示だったり、電池の種類が違うなど、意外と細かくカスタマイズされているのが分かる。また文献ではハードケースに入っていたという記述を読んだことがあったが、実物を見たのは初めてだ。

豪奢なハードケース入りのBell & Howellモデル(左)。米国モデルは距離がフィート表示になっている(右)

 国内モデルの方は、すでに指定電池が生産中止になっており、そのままピッタリはまる代用電池もないそうで、みんな苦労しているようだ。

米国モデルは薄型1.3Vの水銀電池1個(左)。国内モデルはHP型という長いタイプ(右)

 距離は目測で合わせるタイプで、Demiも同様である。ただDemiは最初からゾーンフォーカスを前提としている。一方Dial35は、ファインダーを覗けばゾーンを示す表示が出るが、フォーカスレバーのところにちゃんと距離が刻んである。また露出計を使ったAEだけでなく、レンズ脇のレバーを引っ張ればマニュアルで絞りを変えることもできる。誰でも簡単に撮れるというのがハーフカメラに課せられた使命ではあるのだが、Dial35は上級者にも十分手応えのあるカメラとなっている。

 さて症状は、Canonのほうは露出計が動かず。Bell & Howellのほうはファインダーがくもっている。Dial35は、修理のしにくいカメラとしてもその名をとどろかせている。ただ今回は同じようなモデルが2つあるので、お互いをリファレンスにしながら、修理ができるだろう。

小寺 信良

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映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。


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