フィットはなぜ売れ続けるのか? ロングセラーの秘密郷好文の“うふふ”マーケティング(1/2 ページ)

» 2009年05月28日 07時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

マーケティング・リサーチ、新規事業の企画・開発・実行、海外駐在を経て、1999年より2008年9月までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略、業務プロセス改革など多数のプロジェクトに参画。 2008年10月1日より独立。コンサルタント、エッセイストの顔に加えて、クリエイター支援事業 の『くらしクリエイティブ "utte"(うって)』事業の立ち上げに参画。3つの顔、どれが前輪なのかさえ分からぬまま、三輪車でヨチヨチし始めた。著書に「ナレッジ・ダイナミクス」(工業調査会)、「21世紀の医療経営」(薬事日報社)、「顧客視点の成長シナリオ」(ファーストプレス)など。中小企業診断士。ブログ→「マーケティング・ブレイン」


 「10万台VS.3万5000台

 これは何の数字か? 前者はトヨタ「プリウス」の発表後の1週間の販売実績(予約を含む)。10万台という規模は、並に売れる車種の年間販売台数に近い。後者はホンダ「インサイト」の2009年2月から5月までの累計販売実績。4月は1万481台と、月間販売台数でトップに立った(参照記事)。ハイブリッドの低価格戦略と“エコカー減税”の効果で、自動車業界久々のグッドニュース。

 だがこちらの数字、「124万1025台」もすごい。これはホンダ「フィット」発売後、8年間の国内累計販売台数。2008年度月間販売ランキングでは1位10回、2位が2回。2回の2位も僅差で“カローラ群”に破れただけだ。発売後7年間で世界200万台突破。

 クルマが売れない時代に着実に売れ続けるフィット。今や街中フィットがあふれている。だが流行品にありがちな“もう飽きたよ”的な感覚はない。

下駄替わり but 下駄クルマじゃない

 あふれてもありふれない不思議なクルマ、“コモディティ”(日用品)に落ちない存在感。「下駄替わり」「トンガらない満足」「ファーストカーでもセカンドカーでもOK」、こんな声がオーナーボイスの代表例だろう。高級車からの乗り換え派も目立ち、ダウングレードしても劣等感なく自然体で乗れる。「コンパクト=女性ターゲット」の図式を越えてフィットの購買層は男女半々、クルマを知り抜くシニアも、初心者にもぴったり。“下駄替わり but 下駄クルマではない”のがフィットだ。

ホンダのフィット

 人気の秘密は「お得感」「広々スペース」「燃費」など色々あるが、“リア・クォータウィンドウ”にそれがギュッと詰まっていると思う。“斜め後方45度”からフィットを眺めてみよう。この角度から見ると、小市民的なダサさに埋没せず、かといって個性的過ぎることもない。クルマの造形の魅力とは、実は“後方斜め45度”のアングルに集約される。小学校高学年まで、クルマのデザイン専門家だった私の持論だ。

4枚のウィンドウ配置の永遠の美

 幼少時代から粘土でモックアップを作り、車内もエンジン、ミッション、シート、ガソリンタンクまで精密に再現していた。ノートというノートに数知れぬクルマのデザインを描いた。ちなみに縮尺は精密に1/24だった。

 その専門家視点から語らせてもらえば、クルマのデザインとは線をどう交差させるかに尽きる。フロントノーズからフロントガラス、そしてルーフトップに至る曲線をどう引くか? ヘッドランプからフロントホイールアーチ、ドアパネル、リアフェンダーまでのラインをどう描くか? これらの線に囲まれる“サイドウインドウ”のカタチが、クルマの個性を決定づける。

出典:『CARTOP Mook HONDAフィット』

 グラスエリアを大きく取った“4枚のサイドウインドウ”に破たんがない。多くのクルマは顔は良くても“斜め後方”でがっかりする。なぜならそこに線が集まるがゆえに処理がむつかしいのだ。だがフィットでは、コモディティに落ちず、デザイン臭が抜けている。後方ピラーとリア・クォータウィンドウの形状に永遠の美がある。街にとてもフィットするデザインの秘密がここに圧縮されている。

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