シンプルでレトロなデザイン、YASHICA Half17-コデラ的-Slow-Life-

» 2009年05月12日 09時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 “ハーフカメラ”と言われても、今では何のことだか分からない人も多いと思う。よくレンズの画角を「35mm換算で〜」などというが、これは長らく35mmフィルムが撮像面だったからだ。今は撮像素子のサイズがAPS-Cやフォーサーズといった、35mm版よりも小さな撮像面が登場しているが、大昔にも小さな撮像面を用いるカメラというのが存在した。

 それがハーフカメラである。一般のフィルムで1コマ撮るところを、サイズを半分にして2コマ撮れる。横長の画角を半分にするわけだから、当然、縦長が基準になる。写真で考えると変な感じだが、それはフィルムが横に走るから。映画の場合はフィルムが縦に走ることになるので、実はこのハーフというサイズが、映画では35mmの標準である。

 ハーフカメラは戦前から存在したが、国産カメラメーカーが勃興し、日本でブームになったのは、1959年から1967年ぐらいまでの約10年弱の間でしかない。それでも低価格で庶民のカメラであったことから、沢山のモデルがリリースされ、大量に製造された。

 「ヤシカ」は50年代の二眼ブームから続いたカメラの老舗メーカーだが、ベストセラー機である「ヤシカ エレクトロ35」の前後に、ハーフカメラを数モデルリリースしている。当時はハーフの中でも大口径のレンズを使用した高級路線であったと聞くが、今の目で見ると、それほど大きくもない。もっとも、比較対象がRICOH Auto Halfとかだったら(参照記事)、十分大口径と言えるが。

 ヤシカのハーフはそれほどヒットしなかったようで、中古市場に出回っている数はそれほど多くない。従ってジャンクとはいえ、結構な値が付いている。そのHalf17は、委託販売ということで7000円で売られていた。露出計は動かず、シャッターも動かないということであったが、外装がそこそこ綺麗ということで、この値段であった。

 ジャンクにしては高いと思ったが、以前からヤシカのカメラは1台ぐらい触っておきたかったので、購入した。

露出計動かず、シャッター降りずの満身創痍(そうい)だった「YASHICA Half17」

紆余曲折のYASHICAブランド

 Half17の17という数字は、レンズの解放F値が1.7だからである。のちに露出方式を変えた「Half14」というのが出ているが、これには解放F値が1.4のレンズが付いていた。今の感覚で言うとF1.7は相当明るいレンズだが、単焦点でハーフサイズということを考えると、実はそれほど珍しいスペックでもない。

17の数字が誇らしげ

 ただ富岡光学器械製造所がヤシカに供給していたYASHINONレンズは、現在でもブランドとして高く評価されており、ヤシカ エレクトロ35も大口径レンズがウリだったそうである。

富岡光学のYASHINONレンズ

 セレン素子を使った露出計を搭載し、オートではF1.7〜16、シャッタースピード1/30〜1/800秒の可変だったという資料がある。マニュアルでは絞りは手動で、シャッタースピード1/30秒固定となる。距離は4点ゾーンフォーカスで、目測である。画角は35mm換算で、約45mm。

4点ゾーンフォーカスだが、距離メーターは付いている(左)。フィルム巻き上げは底部のダイヤル(右)

 ヤシカはカメラメーカーとして一眼レフまで製造したが、どちらかといえば低価格な大衆機を得意としたメーカーだったようだ。特に露出の電子制御に関して積極的に取り組み、富岡光学の明るいレンズと合わせて、暗部に強いとされた。

 しかし他方面での事業の失敗とオイルショックによる景気後退で、1975年に経営破綻、1983年には京セラに吸収合併された。日本ではこの時点でYASHICAブランドは終焉を迎えたが、海外では知名度が高く、京セラ製の低価格モデルはYASHICAブランドで販売されたそうである。

左肩に輝くYASHICAのプレート

 しかし2007年には京セラ自体がカメラ事業から撤退し、YASHICAブランドは香港の販売代理店に売却された。最近では、この香港の会社と日本のエグゼモードが共同でYASHICAブランドのデジカメを販売するというニュースも流れたりした(参照記事)

 思うにYASHICAブランドの価値は、ほとんど富岡光学のレンズにあったように思う。その技術が引き継がれなくてもYASHICAの名前が存続することに、違和感を感じてしまう。

小寺 信良

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映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。


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