“デジタル”で魅力を広めたアナログカメラLOMO「LC-A」+D Style News

» 2009年03月28日 09時35分 公開
[小笠原由依,ITmedia]

 デジタルカメラ全盛の今、フィルムを使って撮影するアナログカメラは我々にとってなじみの薄いものとなりつつある。しかし、現像するまで仕上がりが分からないワクワク感や使うフィルムによって表現が変化するといった楽しみのあるアナログカメラを愛する人もいまだに多く、その中でも意図しない描写が生まれたり独特の色味が出るトイカメラは、アートに関心を持つユーザーにも親しまれている。

photo 現在販売されている「LC-A+」と、往年の「LC-A」

 2009年6月19日、ロシア発祥のトイカメラLOMO「LC-A」が発売から25周年を迎える。これに合わせてカメラの輸入代理店であるロモグラフィージャパンは、25周年を記念したキャンペーンを発表、4〜6月にかけてユーザーを中心としたさまざまなイベントを展開していくという。

 ところで、このアナログなカメラが“デジタル”な手法でユーザーの輪を広げていることを、ご存じだろうか。

 まずは、簡単にこのカメラの歴史からひもといてみよう。LC-Aは当初、ロシア圏の人々の普及機として流通していたが、次第にこのカメラの独特の表現に魅了されて全世界の人たちが手にとるようになる。

 世界に広まるきっかけの一端を担ったのはウィーンの2人の大学生。旅先で偶然見つけたこのカメラに2人が魅了され、その魅力を周囲の人に広めたことでLC-Aは徐々に人気を高めていった。彼らは、その写真やカメラのよさを伝えるためLomographic Societyという団体までも設立している。

 こうして世界中に広まっていったLC-Aだが、その人気に反して1994年に生産が一時中止となる。Lomographic Societyがロシアまで出向いた直談判などで生産が再開されるも、2005年には完全に生産を終了。理由は、当時の製造元LOMO PLCの生産ラインのハイテク化、そして手作りで生産するこのカメラを作れる技術者が高齢化してしまったことなどから生産が難しくなったのだ。

しかし、Lomographic Societyはあきらめなかった。「ロシアで作れないのなら、作れるほかの国を」と奔走、2006年に工場をロシアから中国に移してボディ生産を復活。ユーザーから要望の多かったケーブルレリーズや多重露光スイッチなどを新たに搭載した“新生LOMO”「LC-A+」を誕生させたのだ。

photophotophoto 「LC-A+」。価格は3万1500円
photophotophoto LC-A+ではケーブルレリーズが追加されたため、シャッターボタンに穴が(左)。新旧並んで比較。右のLC-A+には中のフィルムを確認する小窓も新設されている(中央)。多重露光スイッチも追加された(右)

 「フィルム」「手作り」「生産中止→復活」――こんな事情だけ聞くと、“アナログ”な印象しか持たないかもしれない。しかし、このカメラの人気が高まったきっかけは、1995年に開設されたLomographic SocietyのWebサイトという極めて“デジタル”な手法だった。

 このWebサイトは、もともと写真を掲載するサイトとしてオープンしたという。「当時のWebサイトは文字ばかりのページが多く、このように“写真を見せる”サイトは新鮮だった」(ロモグラフィージャパン代表、浪上大輔氏)ことからサイトに注目が集まった。ほどなく、特徴的な写真をサイトで見たユーザー間で、それを撮影したカメラ・LC-Aの評判が高まる。しばらくすると「自分も欲しい」という問い合わせを受け始め、Eメールでの受注販売に至ったという。直販だけだった販路がECにつながり、ネットを通じて全世界に広まっていった。

ユーザーが主役の25周年記念イベント

 LC-Aの誕生日である6月19日は「WORLD LOMO DAY」と呼ばれ、セレブレーションイベントが予定されている。このイベントでは、エンブレムやボディを包む革に工夫を凝らした25周年記念の限定モデルが発表されるという。

 このイベントを筆頭に4〜6月にかけて多様なキャンペーンが展開される。4月に開催する「Lomography Journey」は、ユーザー主導のフィールドトリップイベント。グーグルマップと連携した同サイトに、各地の写真と撮影した場所の解説をアップする。5人のチーム制で、写真を掲載したチームの中から厳選された25チームには、ユーザーが主体となって運営するバースデーイベント「Lomographic Golden Party」(5月に開催予定)の開催権利が与えられる。

 「The Great LC-A Race」は、オーストリア・ウィーンを目指して世界各所にちらばった4台のLC-Aをリレーし、一番最初にたどり着いたチームに賞を与えるレース。ウィーン周辺からだとすぐ終わってしまうため、世界地図の4つ角からスタートさせる。36枚撮りのフィルムを入れ、36人で1枚ずつ写真を撮ってはカメラを次の参加者に郵送し、ウィーンへの最速の到着を目指す。カメラにはGPSを内蔵する予定で、サイト上でもその動きを確認できる。

 また、日本とタイのLOMO愛好家の連動企画「don't think just(double) Shoot!」も予定。タイと日本の25人の写真家が、それぞれの国で写真を撮影し、巻ききらないままフィルムをお互いの国へ送る。受け取ったフィルムはもう一度LC-Aに装填し、多重露光で撮影することでタイと日本の風景が融合した写真ができあがるという仕掛けだ。「言葉の壁はあっても、お互いにLC-Aの使い方は分かる。そういう形でコミュニケーションのきっかけを提供したい」(ロモグラフィージャパン 北川卓司氏)

 今回の展開されるイベントは、どれもユーザーが主役だ。「デジタル全盛の中でも、ユーザーがアナログカメラを使い続けてくれたのは、その良さをユーザー自体が認識し、みずから広めていってくれたからだ。そういったユーザーたちに感謝の気持ちを込めたイベントを展開していく」(北川氏)。

世界中のアナログ写真を好きなときに

photo 東京・南青山にある旗艦店「Lomography Gallery Shop Tokyo」

 ロモグラフィージャパンは、元祖のサイトとは別に日本語専用サイトを運営している。このサイトでは、同社が取り扱うカメラや周辺機器を買うことができるほか、コミュニティーも運営、ユーザー登録すれば写真ギャラリーも制作できる。「デジカメで撮った写真もアップできないわけではないのに、デジカメで撮影した写真をアップする人がいない」(浪上氏)とユーザーたちのアナログカメラへの思いの深さを感じさせる。

 「写真は“言葉”ではないが、(世界で通じる)言語だと思う」と語る浪上氏。今後は、Lomographic Societyのサイトコンテンツを日本語化して取り入れいく方針だという。「(日本語化で)国境を無くしていきたい。グーグルで検索すれば世界中の情報が手に入るが、うちのサイトを見れば世界中のアナログ写真が見られるようなサイトを目指す」(浪上氏)


photophotophoto 旗艦店には多様なトイカメラがそろえられている
photophotophoto LC-Aと同じ“トイカメラ”の「Diana+」専用のインスタントバック「Diana Instant Back+」も新発売される。価格は9240円

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