確かな手応えを感じるNikon F-コデラ的-Slow-Life-

» 2009年03月13日 10時20分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 ファインダはダメだったが、クリーニングとウエストレベルファインダで復活したNikon F。先日、ニコンのFマウントが50周年を迎えたというニュースが出ていた。そう、このFマウントが始まった最初のカメラが、このNikon Fなのである。

 Nikon Fをよく観察すると、アクションにいろいろな謎が隠されているのが分かる。例えばシャッターボタンには赤いポッチが付いていて、巻き上げるたびに1回転くるりと回る。同じ位置に必ず戻るので、一見無駄なようだが、実はNikon Fは、フィルムの分割巻き上げにも対応している。フィルムの巻き上げが中途半端だとシャッターが降りないが、この時この赤いポッチが真正面に居ないので、フィルムの巻き上げが不完全だということが分かるわけである。

 シャッターボタンは、フィルムのパーフォレーションガイドのシャフトからまっすぐ上に伸びた位置にある。今のカメラの感覚からすると若干シャッターボタンが後ろにあるわけだが、きちんと1枚分回転したかを表わす機構をシャッターボタンと兼用するための工夫であったのだろう。

 シャッタースピードダイヤルの中央部にも、同じく巻き上げのたびに黒いポッチがくるりと回るようになっている。これは完全に1回転するのではなく、シャッタースピードの数字1段階ぶんズレている。シャッタースピードを設定するための本来のポッチは本体側に付いているので、なんだろうと思っていたのだが、実はこれ、フィルムをすでに巻き上げたかどうかがここで分かるようになっている。

 巻き上げていない時は設定スピードと一段ずれたところを指しているのだが、巻き上げているとちゃんと設定値のところを指すのだ。つまり、外と内のポッチが正しくシャッタースピードを指していると、撮影可能だということなのである。

photophoto 巻き上げ前。ダイヤル中央部の黒マークがシャッタースピードとズレている(左)巻き上げ後。黒マークが設定スピードと一致している(右)

50年たっても全く問題なし


photo 低い位置の花も、しゃがまずに撮れる

 手持ちの中ではもっとも古いFマウントのレンズ、Nikkor-S Auto 50mm/F1.4とExtention Tubeを持って、撮影に出かけた。最近は少し暖かくなって、梅が咲き始めている。本格的な花の季節にはあと少しだ。花を撮るには、ウエストレベルファインダがいい。というのも、大抵花というモノは低い位置に存在するので、アイレベルでは地べたに這いつくばって撮影しなければならないからである。


photo Extention Tubeで撮影。独特の世界観がある

 これまでウエストレベルファインダで、多く花を撮ってきた。現在手持ちのカメラとしては、Exakta Varex IIbとZeiss Jenaの組み合わせ、Edixa ReflexとPentax SMC-TAKUMARがある。

 こうして撮影した花は名刺に小さくプリントして、アイコンとして使っている。上記2つの組み合わせで各10種類ずつ、計20種類の違った絵柄の名刺が存在するわけだが、今回の撮影で30種類に増えそうだ。


photo 何も手を加えずにこの色が出るのは、フィルムならでは

 Extention Tubeは以前から持っていたので、NIKKORレンズで接写したことはあったが、ウエストレベルで撮影するのは今回が初めてだ。ファインダを覗いてみると、びっくりするほどの高解像度で鮮やかな色彩が飛び込んでくる。アナログだから当たり前なのだが、レンズからスクリーンまで、とにかくガラス物のレベルが高い。


photo Nikkorらしいキレの良さは50年後も健在

 カメラ小型化の時代に、ニコンはカメラを小さくするのが下手だと言われた。しかしそこにリソースを割かなかったぶん、現在のデジタル一眼にも繋がるFマウントの一大帝国を築いた。老舗光学メーカーの多くが倒産、合併吸収などで消滅した現在でもなお、大正6年創業という日本で一番古い光学機器メーカーがこうして元気に輝いているのは、単に運が良かったわけではない。

小寺 信良

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映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。


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