異論を認めぬ永遠の名機、「Nikon F」を貰う-コデラ的-Slow-Life-

» 2009年02月24日 11時30分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 「カメラ修理」という妙な趣味に理解を示してくれる人は周りに何人か居るが、筆者の義理の兄もその1人である。本人は写真には興味がないのだが、そういえば家に古いカメラがあったはず、といって倉庫を探し回ってくれる。以前紹介した「RICOHFLEX Holiday」も、義兄が探し出してくれてものだ。


photo 年季が入りまくりのNikon F

 去年の夏に帰省したとき、そういえばこんなのも出てきたがどうか、と取り出してきたのが、なんと「Nikon F」であった。おそらく一眼レフをフィルム時代に入門した人なら、名前ぐらいは聞いたことがあるだろう。1959年(昭和34年)に発売されたこのカメラは、それから多少の改良を加えながら15年間販売され続けたスーパーロングセラーである。

 今の視点で見ると、Nikon Fは全然すごくない。露出計が内蔵されていないだけで、機能的には全く普通に使えるカメラである。しかも一眼レフとしては、国産メーカーとしては最後発であった。にも関わらず多くの人の記憶に残っているのは、今でも「普通」と思えるスペックのものを、一眼レフの黎明期であった50年前に完璧に近い形で完成させ、市販品として売ったという事実があるからである。

 Nikon Fがカメラ産業に与えた影響は計り知れない。100%視野角のファインダは、のちにリリースされた広角レンズを取り付けた際に、その画角が完全に把握できるというメリットを産んだ。またスクリーンを交換式にして、プロが専用機としてカスタマイズすることができた。

 ファインダが交換式なのはすでにExaktaなどで実現しており、当時はすでに古くさい機構だったが、拡張性を優先してこれを搭載した。この機構がのちにレンズと連動する露出計付きの、「フォトミックファインダ」を産むことになった。

 ミラーのクイックリターンはすでにアサヒフレックスが実現していたが、大口径のバヨネットマウントを搭載して素早いレンズ交換に対応し、機械式での完全自動絞りを実現した。自動絞りと言われても今では当たり前すぎてなんのことやら分からないが、要するにレンズの絞りを絞っても、ファインダを覗いている時は解放のままで、写真を撮る瞬間だけ絞るという機構である。

 こうしてNikon Fは頑丈なボディ、豊富なレンズ群、モータードライブなど多彩なアクセサリで、伝説となった。

ホコリまみれの名機


photo 革も硬化して、剥がれかかっている

 譲り受けたNikon Fは、義兄が学生時代に新橋のカメラ店で、中古で買い求めたものであったという。ただ相当にホコリを被っており、お世辞にも良い状態とは言えなかった。表面の革も剥がれかかっており、その隙間にもホコリが溜まっている。

 ファインダを覗いてみたが、案の定プリズムが腐食しており、万全とは言えない。ただしファインダを外したことはないようで、スクリーンは大変綺麗だった。のちに調べて分かったことだが、標準ではスプリット式のスクリーンが付いているのだそうである。しかしこのカメラには、センターにターゲットサークルのある、格子状のグリッドが入ったものが付けられていた。前の持ち主が交換したのだろう。

photophoto プリズムは腐食がひどい(左)スクリーンは奇跡的に綺麗だった(右)

 シリアルナンバーは、6450851。最初の2桁が西暦を著わすので、1964年(昭和39年)製造の、前期のものであるようだ。シャッターの前方にあるマークも、コレクターからは「富士山」と呼ばれる「NIPPON KOUGAKU TOKYO」の文字が見られる。フィルム枚数のリマインダは、20と36の2種類。昔は標準フィルムが20枚撮りだった頃の名残である。

photophoto 富士山マークが前期の証(左)ASAの目盛りから、裏蓋は後期のものと判明(右)

 Nikon Fは裏蓋が蝶番でボディに固定されておらず、全部取り外すスタイルであるが故に、ボディと裏蓋の組み合わせが違っている個体も多いという。この裏蓋もフィルム感度のリマインダが1600まで目盛りがあることから、どうやら後期のものがくっついているようだ。初期のものは目盛りが400までで、1600までになったのは69年製造以降のものだそうである。

 シャッターを切ってみると、一応ちゃんと動くようだ。シャッタースピードも高速から低速まで、ちゃんと変化する。ただしシャッター幕は若干カビが生えている。相当掃除しないとダメだろう。

photophoto シャッター幕もカビが生えている(左)モルトも腐食。先が思いやられる(右)

photo レンズはSoligorの28mm/F2.8

 レンズはSoligorの28mm/F2.8が付いていた。Soligorはドイツの光学製品ブランドとして知られるが、元は日本発祥で、複数のレンズメーカーがOEMしていたようである。数が少ないという意味では珍しいのかもしれないが、本家Nikkorレンズを越える性能とは思えない。後玉のコーディングがまだらに剥げてしまっており、手間をかけて直すほどのものでもないだろう。Nikonのレンズなら、結構種類は揃えてある。

小寺 信良

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映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。


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