2008年の夏興行はジブリアニメ「崖の上のポニョ」の圧勝に終わったが、続く冬もどうやら1本のアニメが日本中を席巻しそうな予感。それはアメリカのジブリ的存在、ピクサースタジオの最新作「WALL・E/ウォーリー」である。 |
ピクサーの新作に外れがないことは、これまでの実績で証明されているが、「ウォーリー」は全米興収2億ドルを突破し、アカデミー賞ノミネートが確実視されているほど評価が高い。監督はアンドリュー・スタントン。ジョン・ラセターの愛弟子にして、「トイ・ストーリー」から「モンスターズ・インク」、「ファインディング・ニモ」まで全ての脚本を担当したストーリーテラーである。「ファインディング・ニモ」で監督デビューも果たし、アカデミー賞の長編アニメ賞に輝いた。 主人公はオンボロのゴミ処理ロボットで、前半はほとんどセリフすらない驚くべき作品。機械的な音を発し、自分の名前は言うことができるが、基本的には会話はない。人間が登場する後半までは、ロボットの手振り身振りと機械音だけで心情を表現する。まるでサイレント映画を見ているようだが、台詞がなくてもここまで喜怒哀楽を表現できるのかと、ただただ感心。前半のシンプルなラブストーリーから後半はSFに様変わり。さらに、環境破壊という現実社会の問題もサラリと提起しているが、説教臭くないのがいい。 とくにおススメなのが冒頭30分。ウォーリーがたったひとりで黙々と働く姿はあまりに健気で、涙が自然と溢れてくる。老若男女すべての人にオススメしたいハイレベルなアニメである。 |
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そんなある日、巨大な宇宙船が着陸し、白く輝くロボットが降り立った。どうやら地球探査のためにやって来たらしいイヴにドキドキのウォーリー。気を引くため宝物の植物を見せると、イヴは体内に植物を取り込み、そのままフリーズしてしまう。そこに宇宙船が再び現れイヴを連れ去る。ウォーリーは宇宙船に必死にしがみつき、彼女を助け出そうとする。やがてイヴが地球にやって来た本当の目的を知ることになるウォーリー。果たして、彼らを待ち受ける運命とは!? |
アンドリュー・スタントン監督が「人類が地球を去るときに、最後のロボットのスイッチを切り忘れたら……」というアイデアを思いついたのは、1994年の「トイ・ストーリー」制作中のとき。その後、孤独なロボットが他のロボットに恋をするという物語がひらめき、冒頭30分間の脚本を一気に書き上げてしまった。 ところで、ウォーリーの愛くるしい顔は双眼鏡のようだ。それもそのはず、スタントン監督は、野球観戦中に双眼鏡を動かしていて、ふと「まるで感情を表現しているみたい」と思いついたのだ。立方体のゴミ圧縮機に双眼鏡を載せて、ウォーリーの原型が完成したというわけ。 |
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そんな彼の前に現れたイヴは、空を飛ぶことができ、右腕には光線銃のようなものを装着している。彼女が銃をぶっ放すと、ビクビクと物陰に隠れるウォーリーのかわいいこと。このあたりは「猟奇的な彼女」を思わせる。 |
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ウォーリーは人間の言葉を話さない。感情表現は機械音で行われるが、それを生み出したのがベン・バート。彼は「スター・ウォーズ」のR2-D2のピポパ音、ダースベイダーのスーハー音、それ以外にも「E.T.」や「インディ・ジョーンズ」も手掛けた、まさに“音の天才”なのだ。 ウォーリーやイヴの“声”から宇宙船の音まで、本作のために作った音は約2400ファイルにのぼるという。これは「スター・ウォーズ」1本の2.5倍にあたるとか。 ロボットたちの“声”はまず人間の声を録音し、コンピュータに入力、その声を一度分解。次に音の速度などを変えてから、再合成。その結果、ウォーリーはモーターが巻き上がるような声に、イヴは音楽的に、という特徴になった。イントネーションや音質で不思議と感情が伝わってくる個性的なロボットたちの“声”は一度聞いたら忘れられない。ウォーリーの“声”は、バート自身の声が元になっている。 ちなみにウォーリーはソーラー充電式で、充電完了音はMacの起動音というのも愉快だ。 |
ピクサーといえば同時上映の短編アニメもお楽しみのひとつ。世紀のマジシャン・プレストが相棒のウサギにエサをやるのを忘れてしまい、さあ大変。ステージ上で偉そうに振る舞うプレストに、ウサギが巧みな仕返しを思いつく。ユーモアのセンスにキャラクターもバツグン、「ウォーリー」同様、こちらもクオリティーが高い。 ピクサーの短編アニメ13本と、ピクサーの歴史を紐解くドキュメンタリーを収録したブルーレイ「ピクサー・ショート・ファルム&ピクサー・ストーリー完全保存版」も発売中なのでお見逃しなく。 |
「WALL・E/ウォーリー」 2008年 アメリカ |
取材・文/本山由樹子
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