工業デザインの夜明けを体現するKonica II B-コデラ的-Slow-Life-

» 2008年11月04日 18時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 1950年代のカメラというのは、機構的にはプリミティブなパーツの集合体である。レンズ、シャッター、フィルムが別々の機構で存在し、それぞれを人間が手で設定していく。特にパーフォレーションがないブローニー判のカメラでは、巻き上げが行き過ぎることもあるし、二重露光も起こるのが当たり前であった。フィルムを巻き上げるとシャッターがチャージされるようになるのは、もう少しあとのことである。

 Konica II Bも、フィルム巻き上げとシャッターチャージは別々に行なう必要がある。シャッターチャージしなければシャッターが切れないのは当たり前だが、フィルムを巻き上げないとシャッターボタンが下りないという工夫を加えることで、二重露光は完全に防止されている。


photo レンズがせり出したところ。1センチぐらいしか違わない

 そもそもKonicaシリーズが画期的だったのは、レンズが沈胴式ながら、せり出す機構を蛇腹ではなく、がっしりとしたヘリコイドにしたところである。沈胴式とはいっても1センチぐらいしか縮まないので、わざわざそれをやる必要があったかどうか微妙だが、布地を使わずすべて金属で作り上げるというところがポイントだったのだろう。

 ドイツでZEISS IKON CONTESSA 35が登場した同年、Konica Iですでに蛇腹を捨てたわけだから、相当な先進性である。

 フィルム巻き上げ、チャージまで行なっても、レンズが撮影位置になっていないと、これもまたシャッターが下りないようになっている。徹底的にフィルムを無駄にしないという設計は、フィルムメーカーでもあった同社としては相反する思想のようだが、その愚直なまでの誠実さが実に日本らしい。

敗戦から10年で「工業デザイン」の余裕


photo 左右で異なるS字のラインが飽きのこないデザインとなっている

 コニカシリーズはたくさんあるが、筆者はKonica IIシリーズが一番エレガントだと思っている。特に正面の金属パネルが美しいS字にカットされた部分だ。当時カメラはシンメトリックなデザインがよしとされていたが、あえて左右のカーブをずらし、アクセントを付けている。

 このカーブは、機構的にこの形にカバーする必要があったわけではなく、あくまでも正面ののっぺりとした部分に「動き」をもたらすため、純粋にデザインとして取り入れられたものだ。

 1950年代当時、インダストリアルデザイナーという職種があったかどうか、またその必然性が今のように重視されたかどうか。そういう時代に設計者自身がここまで考えたというところに、日本人の個人能力の高さ、美的感覚の鋭さを感じる。


photo シャッターの拡張機能があった部分は、エンブレムで埋められた

 Konica II Bのスペックは、当時としては至って平均的なものである。シャッタースピードは 1〜1/500秒、レンズはHexar 50mm/F3.5。バルブモードはあるが、T(タイム)モードはなくなっている。以前のモデルでこのモードダイヤルがあった部分に、「Konica B」のエンブレムが埋め込まれている。

 このHexar(ヘキサー)という名前は、ギリシャ語で数字の6を表わすHexに由来する。6角形を表わすhexagon、16進法を表わすhexadecimalの、あのHexである。


photo 日本が誇る名門、Hexarレンズ

 言うまでもなく小西六は、6という数字に縁のある会社であった。そもそも薬種問屋であった小西屋六兵衛店からスタートしたわけだが、写真にあこがれ、この店で写真材料を扱うことを決意したのがのちのKonicaの創業者となる杉浦六三郎(後年杉浦六右衛門と改名)である。Hexarはまごうことなき、日本発のレンズブランドなのである。

 Konica II Bの裏蓋は、厳重にロックがかかるようになっている。開けるためには、底部のネジを起こして半回転させるわけだが、さらにネジをたたんで隠しボタンを押すことで、ようやく開くという仕組みになっている。当時はよほど裏蓋が開いてしまうという事故が多かったのだろうか。


photo 裏蓋は二重ロックになっている

 だがその半面、閉めるときはネジをきちんと半回転戻しておかないと、カメラを置くとその自重でボタンが押されてしまい、蓋が簡単に開いてしまうというデメリットを産んだ。これは現代のユーザーがKonicaシリーズを使ったときに、一番多い事故だそうである。

 なにごともゆっくりゆっくりだった時代では妥当だったものも、昨今の性急な事象に慣れた現代では非効率的に映る。

小寺 信良

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映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。


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