実動するハーフカメラの元祖「Univex Mercury II」-コデラ的-Slow-Life-

» 2008年09月22日 11時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 クラシックカメラ道楽で一つのジャンルを形成しているのが、ハーフカメラである。読者の方にはもしかしたら、ハーフカメラをご存じない方もあるかもしれない。実は筆者も、クラシックカメラに興味を持つまでは知らなかった。

 普通のカメラは、フィルムに35×24mmのサイズで撮影するものだ。ハーフカメラはこれを縦半分にしたサイズ、18×24mmで撮影する。

 したがって画角は、縦長がデフォルトとなる。もっともそれはフィルム送りが横方向だからで、フィルムを縦方向に送るカメラならば、普通に横長の画角になる。この方法は、実は映画のフィルムカメラと同じフィルム送り、画像サイズとなる。

 ハーフカメラは、1本のフィルムに2倍撮影できること、筐体がコンパクトにできること、撮像面積が小さいため被写界深度が深く、ピント合わせが楽なことなどがあって、日本では戦後の高度成長期の少し前となる昭和34年(1959)頃から約10年間にわたり、ヒット商品となった。

 筆者は昭和38年(1963年)生まれだが、3歳ぐらいまでの写真は、縦構図で少し判型の小さな名刺サイズぐらいのものが多い。これはどうやらハーフカメラで撮影したものを、親父の道楽が高じて自分で紙焼きしたもののようである。

 ハーフカメラ自体も非常に挑戦的で、珍品・希少モデルも多い。ただ中古市場では人気が高いこともあって、同年代のフルサイズのカメラよりも高いことは、珍しくない。

 ハーフカメラの誕生は、日本でのブームよりももっと前にさかのぼる。最初のハーフカメラは1930年代ごろに作られたといわれている。その第一期生の中で、現在までよく知られ、しかも実動する筐体が多いのが、「Univex Mercury」である。

ロータリーシャッター


photo 一度見たら忘れられない形、「Univex Mercury II」

 初代Mercuryは独自規格のフィルムで、専用マガジンに自分でフィルムを詰めて使うというものであった。だが第二次世界大戦の影響で安価な輸入フィルム供給が難しくなると、汎用フォーマットとして定番の位置を固めつつあったパトローネ入りの135フォーマット、すなわち現在の35mmフィルムに対応する必要がでてきた。

 初代と構造はほとんど同じで135フィルムに対応したのが、ちょうど第二次世界大戦終戦の1945年に発売された、「Univex Mercury II」である。


photo 裏蓋に会社名が刻まれている

 メーカーであったUniversal Camera Corporationは、ニューヨークに拠点を構えるカメラメーカーで、元々は映画用のカメラを作っていた。同じ米国のカメラでも、最初からコンシューマにフォーカスした質実剛健のArgusに対し、プロフェッショナルユースから派生したMercuryは、今の基準から見ても機構・構造ともに納得できる、優れた設計だ。

 Mercuryシリーズ最大の特徴は、上部に広がるクジャクの羽根のような、半円のでっぱりである。これはただのデザインではない。実は回転する円盤をシャッターとして使う、ロータリーシャッター方式なのである。本体内に入りきれなかった円盤の上半分が、この部分に入っている。


photo 裏側から見ると、円盤が入っているのが分かる

 例えば「パックマン」のような円盤を想像してもらえばいいが、その口にあたる隙間がフィルム前を通過することで、シャッターとなるわけである。円盤の回転スピードは常に一定で、パックマンの口の開き具合でシャッタースピードを変えていく。口が少ししか開いていなければシャッタースピードが速く、口が大きく開いていればシャッタースピードが遅いというわけである。

 なかなか頭のいいやり方だが、実は映画などフィルムで動画を撮るカメラのシャッターは、だいたいこれである。円盤状になっているのは、連続でシャッターを切る必要があるからだ。現代のCGツール、例えばAfterEffectsなどで、モーションブラーの残像感を決定するシャッタースピードのパラメータが角度指定になっているのは、このロータリーシャッターの開口角に由来するものである。

小寺 信良

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映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。


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