ご先祖様を探せ! 世界が驚嘆したエレクトリックウォッチ「ベンチュラ」+D Style 時計探訪(1/2 ページ)

» 2008年08月20日 08時00分 公開
[泰 仁,ITmedia]

世界中に衝撃をあたえたエレクトリックウォッチ

photo 1957年に誕生したベンチュラの初代モデル。14Kイエローゴールド(左)と14Kホワイトゴールド(右)。どちらもムーブメント“500”を搭載した金無垢モデル。ホワイトゴールドはイエローゴールドに比べ希少性が高い

 1957年に発表されたハミルトンの「500」というムーブメントは、中にテンプとヒゲゼンマイは存在するが、時計の動力源として小さな水銀電池を使用した世界初のエレクトリックムーブメントだった。それまで時計といえば、手巻きでも自動巻きでも、巻き上げられたゼンマイがほどけるパワーで動くのが当たり前。しかし、シャツのボタンほどの小さな電池ひとつで、1年以上も動き続けるエレクトリックムーブメントは、世界中の人々を驚愕させるに値する画期的な発明だった。

 ハミルトンは、この画期的な発明を搭載させるのにふさわしい革新的な時計デザインを、キャデラックのデザインも手がけたデザイナー、リチャード・アービブに依頼。生産型エレクトリックウォッチとしては最初となる「ヴァン ホーン」は、さほど特徴的なスタイルではなかったが(丸型ケースに少しだけ特徴的なラグを与えられた程度)、少し遅れて登場した「ベンチュラ」の方は、すごかった。

フィフティーズ&ロックンローラーを虜にした「ベンチュラ」


photo 三角形フォルムが際立つ斬新なケースデザイン

 “時計のデザインで、こんなのあり!? ” と、うなってしまいそうな度肝を抜く三角シェイプ。半世紀経った今見ても十分斬新なわけだから、この時計を初めて見た当時の人々は、さぞビックリしたことだろう。

 しかし、この新時代の到来を告げるような動力機構とユニークなスタイルを備えたベンチュラは、強くて豊かなアメリカの象徴である、フィフティーズを謳歌する人々のハートをあっという間につかんでしまった。


photo 電池を動力源とするユニークな機構のムーブメント“500”

 “キング・オブ・ロックンロール”のエルビス・プレスリーもそのひとり。映画「ブルーハワイ」の冒頭シーンでベンチュラを着用したのをはじめ、プライベートでも愛用していたこともあり、ベンチュラは世界中の革ジャン&リーゼントのロックンローラーたちから絶大な人気を集めた。また、日本国内にもファンは多く、クレイジーケンバンドの横山剣はその筆頭だ。復刻モデルではあるが、彼の名前を冠したスペシャル・バージョンが、日本のハミルトンから限定販売されたほどと言えば、その惚れ込みぶりも察しがつくだろう。

時計史に残る傑作デザイン

 三角のケースデザインに、ゴールドケース&黒文字盤のすごみすら感じられる迫力満点の組合せ。インデックスは金色ドットと直線ラインで構成され、3時と9時を結ぶラインには、電気信号を連想させるようなギザギザラインがあしらわれている。また文字盤にはオリジナルモデルだけに存在する“ELECTRIC”の文字が誇らしげに輝く。時計の大きさと比較してリューズが格段に小さいのは、ゼンマイを巻く必要がない時計である点をアピールするための工夫。機構とデザイン面から時計史にその名を残すベンチュラは、アメリカ産業の金字塔のひとつとして、オリジナルモデルがスミソニアン博物館に収蔵されている。

エレクトリックからクォーツへ


photo ハミルトン「ペーサー」。ベンチュラに似ているが、こちらは金無垢ではなくゴールドフィールドケース。三角形のケース本体をイエローゴールド、ラグ部分をホワイトゴールドの2トーンで仕上げている。インデックスデザインもベンチュラとは若干異なる。1958年〜1967年まで生産され、初期型には“500”が、1961年以降は“505”が搭載された。ダイヤルデザインやケース素材別に何タイプかのバリエーションが存在する

 その後、ハミルトン社は初期型ムーブメント「500」に改良を施した「505」を1961年に発表。同ムーブメントは、手元の資料によると1966年モデルまで搭載されているが、後年モデルのデザインは、当初の強烈なインパクトは薄まり、丸型ケースを中心とした普通のカタチに戻っている。

 日本でも1960年代にハミルトンとリコーが提携して、エレクトリックムーブメントを搭載した「ハミルトン・リコー」モデルが販売され、またセイコー、シチズンでもエレクトリックムーブメントを搭載した時計がリリースされた時期があった。だが小型電池、水晶振動子、電子回路、モーターなどを用いた世界初のクォーツ時計(セイコーのクォーツアストロン)が、十数年後の1969年に誕生すると、エレクトリックウォッチや音叉時計(1960年ブローバが発表)などは、その圧倒的な精度に対抗できず、姿を消してしまった。現在、これらの時計は「電磁テンプ」とか「エレキ時計」と呼ばれ、一部のコレクターたちの間で再び注目を集めている。


photo “500”を搭載したモデルとしては3番目に登場した「スペクトラ」。6時位置から徐々に広がるデザインの文字盤、14KYGケース、ねじ込み式裏蓋などの特徴を備える
photo 「アルテア」。ハミルトンのエレクトリックシリーズの情報が集められた書籍「The Watch of the Future」(Rene Rondeau著)では、そのカタチから「トマホーク(斧)」とも呼ばれた同モデル。生産本数の少なさに加え、ラグとケースの接合部分があまりに細いため、完璧な状態で残っているモデルが極めて少ないモデルと紹介されている
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