「デトロイト・メタル・シティ」、略して「DMC」は、若杉公徳によるバカ売れのコミックだ。別にデスメタルには興味もなく、映画を見る前に原作を読んでおこうと軽い気持ちで手を出したら、これがあまりの面白さ、下品さに完敗。待望の実写版は、原作の楽しさをストレートに、変化球なしに映画化していて、最初から最後まで笑いっぱなし。そして“松ケン”クラウザーさんに完全ノックアウト。
過激な歌詞とメイクでファンを魅了し、数々の“悪魔的”な伝説をもつデスメタル界のカリスマ――しかし、その素顔は、毎年母の日にはカーネーションを欠かさず送り、実家への電話もマメにし、タバコも吸ったこともなければ、女性も知らない童貞青年だった。本当はおしゃれでポップな音楽が好きな根岸宗一は、なぜか悪魔系デスメタルバンド「デトロイト・メタル・シティ」のギターボーカル、ヨハネ・クラウザーII世(通称:クラウザーさん)にされてしまう。「僕のやりたかったのは、こんな音楽じゃない」という根岸の願いもむなしく、失敗や暴走までもが悪魔的だと称賛を受け、ドつぼにハマる始末。大学の同級生で想いを寄せる由利(加藤ローサ)や家族にも秘密を打ち明けられず苦しむ中、デスメタル界の帝王ジャック・イル・ダーク(ジーン・シモンズ)から対バンの指名が……。
「ナイスタンバリン」や「田舎へ帰省」など、原作を象徴するようなエピソードを無理なく凝縮しているからファンも納得。主人公が本当にやりたいこととできることに対して、一体どうやって自身の気持ちに折り合いをつけるのか、それまでもきちんと踏み込んでいて、苦悩する青春ストーリーとしても成り立っているから、いやー、参った。
クラウザーさんに成り切ってライブパフォーマンスする松山ケンイチ。それにヘッドバンギングで応える狂乱の会場。松ケンの表情も、もはや崇高にすら感じるほど。音楽事務所の女社長役・松雪泰子も呆気に取られるほどの大変身で、これはヘビメタを知らなくとも、原作を知らなくとも、十分楽しめる。
原作の過激なセリフもそのままに、そして何よりキーパーソンであるカジヒデキとKISSのジーン・シモンズを出演させているあたりが、この映画の本当に凄いところ。“NO MUSIC NO DREAM”なのだ。
監督:李闘士男/原作:若杉公徳/脚本:大森美香
出演:松山ケンイチ、加藤ローサ、秋山竜次、細田よしひこ、宮崎美子、松雪泰子、高橋一生
配給:東宝
8月23日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー
本山由樹子
ビデオ業界誌の編集を経て、現在はフリーランスのエディター&ライターとして、のんべんだらりと奮闘中。アクションからラブコメ、ホラーにゲテモノまで、好き嫌いは特にナシ。映画・DVDベッタリの毎日なので、運動不足が悩みの種。と言いつつ、お酒も甘いものも止められない……。
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