レンズの持つ世界観と対話できるEdixaの撮影-コデラ的-Slow-Life-

» 2008年08月13日 10時30分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 外装を直して生まれ変わったEdixa Reflexをぶら下げて、早速撮影に出かけた。レンズは以前購入してあったPentax SMC-TAKUMAR 50mm/F1.4である。ルックス的には、Zeiss Jenaのようなシルバーボディの方が似合いそうだが、まあ仕方がない。これはそのうち何か探してみることにしよう。

 レンズはF1.4だが、シャッタースピードが1/1000秒まであるので、ISO 100のフィルムを使えばそれなりに開けて撮れる。Edixaには後年、露出計の付いたモデルも出たようだが、ZENIT-Eと同じで絞りなどと連動するわけでもない。それなら小さな露出計を持ち歩いても、あまり変わりない。

 操作系としてはどうしてもExaktaと比較せざるを得ないが、フィルム巻き上げに関してはExaktaが270度ぐらいレバーを回さなければならないので、必ず途中でレバーを持ち替える必要がある。しかしEdixaはほぼ180度で、一気に回しきってしまえる。巻き上げレバーの直線部分が、ちょうどぴったり前面の直線部分に沿うまで回すのだ。Edixaには、こうした計算された美しさがある。

 シャッターは、ボディ前面から後ろ側に向かって押し込むスタイルだが、意外に使いやすい。ストロークは深く、布製横走りシャッターが「スパッ」と気持ちのいい音を立てる。ファインダが立ち上がる音といい、使用中は「シャキッ、ジャッ、スパッ」という音で構成される。

独特の世界観で広がる風景

photo 開放で撮影。奥の光の感じは、今どきのカメラではあまりお目にかかれない

 ウエストレベルファインダの面白さは、そのドラマ性にあるように思う。なんとなく撮る対象を決めてカメラを向け、フィルムを巻き上げたとたん、ファインダの中に世界がぱーっと展開される。これで一気にテンションが上がるのだ。舞台の緞帳(どんちょう)が上がる感覚に似ている。

 そしてその中には、想像した構図とは似て非なる風景が描かれている。第一に、カメラ位置が低くなるので、目視で目標を決めたときに見たビジョンとは、目線位置が全然違う。第二に、そこに現われるのは左右反転した世界である。これにより、ファインダ内で切り取られる構図に対して、常に新鮮な価値を見いだすことができる。

photo 入射光の都合か、時折びっくりするような色あいで撮れるのもフィルムならでは

 しかし筆者のような老眼に近づきつつある近視には、ちょっと使いづらい面もある。スクリーンのスプリットイメージでフォーカスを確認するには、眼鏡よりも裸眼の方が見やすい。しかしルーペを出して細部を確認しようとすると、これが困ったことに裸眼では全然見えない。

 昔はお医者さんなんかが、レンズ面がパカッと上に回転する眼鏡をかけていたりしたものだが、顕微鏡やルーペなどを頻繁に覗く必要のある職種の人は、ああいう眼鏡が便利だったのだろう。もちろん今でも作ってくれるところはあるのだろうが、どうもおじさんっぽくていけない。もう少し白髪が増えたら検討しよう。

 Edixaで撮れる写真は、SMC-TAKUMAR特有の美しいボケに地を這うようなアングル、アオリがプラスされ、独特の世界観がより強調される。映像世界を作るのはレンズの仕事だが、その構図はボディ構造にインスパイアされたものであるわけだから、やはりレンズとボディは表裏一体で一つの仕事を成し遂げるといっていいのだろう。

photophoto これだけの光量でも十分なボケ足が楽しめる(左) ローアングルでも全く苦にならない(右)

 全体的に小気味のいいカメラだが、残念ながらいまひとつメジャーにはならなかった。やはりExaktaの亜流というイメージだったのか、M42というやや古くさいマウントを採用していたせいなのか分からないが、このまま歴史に埋もれさせるには惜しいカメラである。

小寺 信良

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映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。


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