世界的に「スピリッツ」といえば、蒸留酒全体を指す言葉。中世の錬金術師が研究の中で発見した蒸留酒「アクアヴィテ(生命の水)」の製法が世界各地に伝わり、現在のスピリッツ文化の礎を築いたとされている。それらは地域ごとに原料や製法を変えながら、ウイスキー、ブランデー、ウォッカなどのスピリッツへ変化していった。日本では、ウイスキー類や焼酎類を除いた蒸留酒の総称として使われることが多い。ウォッカ、ジン、ラム、テキーラは世界4大スピリッツとして数えられ、ストレートはもちろん、さまざまなカクテルのベースとなり親しまれている。 |
・ジン カクテルの定番ベースとしておなじみのジンだが、誕生当初は薬用として処方されていた。生みの親はオランダの医学者フランシスクス・シルビウス教授。当時オランダの植民地だった東インド地域で、マラリヤやチフスなどの熱帯性熱病の対策として考案された。利尿や解熱作用のあるジュニパー・ベリー(ねずの松かさ)をアルコールにつけ込み、蒸留。「ジュニエーヴル」と名付けられたこの薬酒は、味や香りが評判となって普通のお酒としてオランダ国内で流行し、フランス、そして世界へと広まっていく。 ・ウォッカ ロシアなど東欧地域の代表的なお酒であるウォッカは、穀物を原料とした蒸留酒を白樺の炭でろ過して造られる。見た目も味もクリア。歴史的な起源は不明な点が多く、12世紀のロシア、はたまた11世紀のポーランドで飲まれていたなど諸説がある。1810年に薬剤師アンドレイ ・アルバーノフが炭の活性作用を発見し、ピョートル・スミルノフがウォッカの製造に白樺の炭によるろ過工程を加えたと言われている。その後1917年のロシア革命によって亡命者とともにウォッカの文化は世界に拡大していった。 ・テキーラ 竜舌蘭(リュウゼツラン)というユリ目の植物を原料にした蒸留酒。サボテンのお酒と言われることがあるが、これは間違いだ。16世紀にスペインの侵攻を受け植民地となったメキシコで、原住民が飲んでいた竜舌蘭の醸造酒・プルケに目をつけたスペイン人が、これを蒸留したメスカルというお酒を生み出す。100種を超える竜舌蘭が生息するメキシコだが、そのうちテキーラと呼ばれるのはアガベ・アスール・テキラーナという竜舌蘭から造られたメスカルのみ。1949年の全米カクテルコンテストで、テキーラをベースにした「マルガリータ」が入賞し、その後メキシコオリンピックなどを経て世界的に有名になった。ちなみにこのマルガリータという名前、考案したバーテンダーの若き日の恋人であり、猟銃の流れ弾に当たって亡くなったマルガリータをしのんで付けられたとも言われている。 |
・ラム サトウキビを原料とする蒸留酒。その起源には諸説あるが、大航海時代にヨーロッパから西インド諸島へとサトウキビが持ち込まれ、世界にラムが広まる下地が作られたとされている。植民地支配のなかで西インド諸島は砂糖の生産拠点となり、サトウキビのプランテーションが広がっていく。そして、ヨーロッパ、アフリカ、西インド諸島で行われた三角貿易によって、多くのラムが海を越えていくことになった。「ラム」という名称は、一説には、島民達の言葉で“興奮”などを意味する「ランバリオン(rumbullion)」に由来すると言われている。 |
夏の季節にピッタリなスピリッツといえばやはりラム。産地やブランドごとにライトだったりヘビーだったり、甘かったり渋かったり――ウイスキーばりに個性豊かなラムだが、その中でもフランス領マルティニーク島原産のものは、濃厚な味わいにファンが多い。その代表格であるトロワ・リビエールは、サトウキビを搾った糖蜜をそのまま使ったアグリコール製法によって、複雑で豊かな味わいを作り出している。 2000年に火災に見舞われ、多くのヴィンテージストックが失われてしまったトロワ・リビエール。写真のボトル「トロワ・リビエール 1996」も、その貴重なヴィンテージのひとつである。 |
ライトラムの代表的な産地であるキューバで、100年以上にわたりラムを作り続けてきた伝統あるブランドが「ハバナクラブ」だ。今回紹介する「ハバナクラブ キューバン・バレル・プルーフ」は、同ブランドのラム・マスターであるドン・ホセ・ナヴァロのこだわりが詰まった一本。 樽を変えながらブレンドと熟成を数回繰り返し、約7年の熟成の後に加水せずボトリング(バレル・プルーフ)。深い赤みをもった色合いが美しく、キャラメルを思わせる重厚でまろやかな味わいが、湿気を含んだ夏の空気によくマッチする。「このユニークなラムは、あなたを伝統的なハバナクラブの熟成庫へ誘います。ラム愛好家がこの味わいを楽しむためには、ストレートかロックをお薦めします」(ドン・ホセ・ナヴァロ)。 |
取材・文/+D Style編集部
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