連鎖的に壊れてゆくカメラ-コデラ的-Slow-Life-

» 2008年06月13日 08時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

photo とりあえずISO感度のクリックはなんとかしたい

 オーバーホール済みという触れ込みで購入したRICOH 35Vだったが、実際に撮影してみると全体的に露出アンダー気味で、動作が不安定だった。フィルムのISO感度調整リングも何かおかしいので、レンズ側からバラしてみる。

 おそらく全体を押さえるためのリングだろうか、外してみたら、くの字に曲がっていた。これを止めるためのネジも、どうやらネジ切ってしまったようで、ねじ穴に痕跡はあるがネジの頭がない。なんだか先が思いやられる。


photo 「押さえ」の板がぐんにゃり曲がっていた

 内部には感度測定用の、半円型のセレン素子がある。外周のリングを回すことで受光面積をマスクしていき、感度を下げるという仕組みであった。リングの位置は確かにずれていたが、それはクリック感だけの問題で、感度調整のマスク自体は数値通り動いているようだった。

 正しく組み上げ直して、シャッターを切ってみる。フルオートなので数値などは全く出ないが、ほかのカメラと比較しても、露出を明るめに測定しているせいか、絞りがかなり閉じ気味だ。これが逆で、暗めに測定して露出オーバーになるのなら、単純にセレン素子の劣化が考えられるところだ。


photo 中には半円のセレン素子が

 しかし今回の場合は、セレンの感度が良すぎるということになる。常識的に考えて、それはあり得ないことだ。感度調整のための抵抗が外れたのか、とも考えたが、そもそも抵抗が外れたらそれは断線なので、露出計が動くはずはない。ほかに原因があるはずだ。

 とりあえずもう少し分解してみることにした。今度はレンズの後ろ側から、レンズを固定しているリングを外し、レンズユニットごと外してみる。レンズだけでシャッター動作を確認していたら、途中でシャッターが半開きのままで閉じなくなってしまった。どこかで引っかかっているらしい。


photo リード線をひっぱってしまったため、金具が横向きに飛び出してしまった

 注意深く動作を観察したところ、フラッシュへのトリガーのための端子が前方に出っ張って来て、シャッター機構の動きを途中で止めていることが分かった。どうやら分解したときにリード線を強く引っ張ってしまい、それに釣られて金具が横向きに回ってしまったようだ。本来は半田で固定されていたようなので、改めて半田付けしなおす。

大変なことになったが……


photo 大変な思いをしてシャッターまでたどり着く

 しかしいったん引っかかるとシャッターというのは難儀なもので、スムーズに動かず粘るようになってしまった。変な位置で止まっている間に、グリスでも巻き込んでしまったのかもしれない。レンズシャッターは後玉の奥にあってそのままでは注油もできないので、後玉を外す。どうにかシャッターまでたどり着き、ジッポオイルで軽く洗浄した。

 再組み立てしてようやくシャッターがまともに動くのを確認したが、ここまで苦労しておきながら、実は単に現状維持のままである。結局自分で壊しといて自分で修理しただけで、露出感度の異常は何一つ直っていないのだ。


photo 両脇の留め具を外すと、簡単に上蓋が外れる

 ほかの原因を探るべく、ボディの分解を試みた。外周にはネジが一つもないが、実は両脇のストラップ止めがネジの代わりになっている。これを両方外すと、ボディの上側がスポリと抜ける構造であった。昭和36年製というかなり古いものだが、当時の水準から考えると、破格に合理化された構造だ。

 感度の測定方法は、露出計の針をギザギザの歯で挟む方式である。正式になんというのか知らないが、セレン式の露出計連動型ではよくある構造だ。光量を変えながらシャッターを切り、動きを観察したところ、どうもギザギザの歯が露出計の針を挟みそこなって、外側に向かってはじき飛ばすようなことになってしまっている。針が外側に振れるということは、すなわち露出計が過度に触れる方向と一致するわけで、どうやら露出不足の原因はこれのようだった。


photo 露出計の針を挟んで値を固定する方法

 針をよく見ると、挟まれた状態で長く放置されたのか、少しくの字に曲がっている。露出計を壊さないように慎重にこの針をまっすぐに伸ばし、変な方にはじき飛ばされないように、なるべく水平になるよう調整することで、うまく動くようになった。

 なんだか大変な手間がかかった割には、最終的には針1本まっすぐにするだけとは、なんとも間抜けな話である。まあ「壊れてはいないがなんか調子悪い」という状態は、往々にしてこんな程度のものであろう。もう少し慎重に観察してから修理に挑むべきであった。

小寺 信良

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映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。


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